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A班(外)ファイル ― えらばれたおれはたちむかう ―  作者: ぽすしち


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9/10

会社




  ― 会社 ―




 おれをつかまえた男がはいったのは、大きくて暖かい建物だった。

 男にきかなくてもこれが『会社』という建物だとおれにはわかった。たくさんの人間がこの男に声をかけてきて、男はどんどん歩いて奥へ進み、階段をあがり、壁がつづく廊下をすすむと、とつぜん壁の一部をたたいた。どうやらそこはドアだったらしく、それがひらくと、あきらかにおれがよく知っている人間の匂いがした。



「ボスの命令でおまえらに渡すよういわれた」


「・・・なんだよコルボク、おまえが突然来たってだけでこわいのに、なにを渡すって?」



 この声をきいておれはポケットからあわてて顔をだした。


  「 『 か、かわいいぼっちゃま ごきげんよう 』 」


 

 いつものあいさつをしたのに『かわいいぼっちゃま』は顔をしかめた。



「 ・・・おまえ、シスターのところのネズミか?」

 なんと、教会にときどきお茶をのみにくるあの『かわいいぼっしゃま』が、おれをつかまえたオオカミみたいな男の『上司』だったのだ。



「あ!あのしゃべるネズミじゃん!ひさしぶりだなあ」

 おれをのぞきにきたのは、いちばんはじめに『かわいいぼっちゃま』といっしょに湿地の教会に来た『若い若い勇敢な男の子』だった。おれはそいつにもあいさつをする。



「なんだあ?ほんとうにしゃべるネズミかあ」

 つぎにのぞきこんでき大きな男は、なんだか懐かしい匂いがした。こういう匂いの男たちはむかしよく《湿地の教会》に泊まりにきていた。


「 『 武骨で勇敢な正直者よ ごきげんよう』 」


 あいさつをすると、おれのことか?と丸い目をさらにまるくしてみせた。



「なんかニコルのこと言い当ててるよ。かっこいいなあ。あ~、ケンとルイのこと、何てよぶかききたかったなあ」

『若い若い勇敢な男の子』が残念そうに眉をよせる。



 ここまでおれを運んできた男がポケットからおれをつかみだし、白いテーブルの上に置くと、あとはおまえらで好きにしろ、と出て行った。



「 ―― で?なにしにこんなところへ?シスターはしってるのか?」

 『かわいいぼっちゃま』が、かがみこんでおれをにらむ。


「まあまて、ウィル。彼はあの湿地のむこうからここまで来たんだぞ。一人できたのかい?えっと、勇敢なネズミくん?」『武骨で勇敢な正直者』がふとい指でおれのあたまをなでた。



「 『 はんす は しすたーにいわれた  届け物がある 』 」


 からだに結わきつけていたバッグをはずすと、バッグはもとの大きさになった。


 そこからビスケットやキューブチーズをどけて、おれはシスターから託された麻袋をとりだした。中にはさらに麻布に巻かれたものがある。そっと布をひらいて、テーブルをかこむ男たちにしめしてみせた。



「 『 ならす べる  しすたーが つくった 』 」


 

「なに?それがベルだって?どこが?」


 『かわいいぼっちゃま』が馬鹿にしたようにベルをつまみあげた。


 キューブチーズとおなじくらいの大きさだが、かたちは丸い。



「洋服のボタンだろ?白くてなんかキラキラしてるし。こういうのみたことあるよ」

 『若い若い勇敢な男の子』が『かわいいぼっちゃま』の手からベルをうばう。


「いや、糸を通す穴がどこにもないだろ。こっちは丸みがあるのに、うらは平らだ」

 『武骨で勇敢な正直者』が、裏返してみる。



  「 『 おいて 』 」


 おれはつかいかたを教えてやることにした。



 テーブルに『武骨で勇敢な正直者』が太い指で丁寧に置いた。いわなくてももとのように丸みのあるほうを上にして置いたのは、ほめてやってもいい。



 「 『 かわいい ぼっちゃまが おす 』 」


 立ち上がって前足で押すまねをしてみせる。



「はあ?ぼくが? これを『おす』ってなんだよ?」

 眉をよせながらも『かわいいぼっちゃま』は立てた指をこちらにだしてきた。そのゆびをかかえたおれは、ベルのうえにおいてやる。



 「 『 おす 』 」



「いや・・・・これ、押したらなにになるんだよ?だいたいこれのこと、『ベル』って言わなかったか?」

 いやそうにしたが、指はベルをおした。



 

   ジリリリリリリリリリリリリリリ

  

  

「なんだよっ」

「鳴った!」

「おいおい、火災報知器と同じ音だな」



 人間の男たちがおどろいたようにあたりをみまわしたとき、足もとにとびはねるようにしておれの仲間が湧き出てきた。そのままベルのおかれたテーブルにのぼって整列すると、みんながおれをみる。


 おれは誇らしい気持ちで前あしのかたほうをあげ、うなずいてみせる。




   おごそかに


     うつくしく

  



        『かわいいぼっちゃま』が誕生した日を祝う歌がはじまった。












次の章でおわります

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