街(後)
「 コルボク・・・・いま、なにを捕まえやがったんだ?」
「ネズミだ」
「 ―― はなせ」
「いやだ。このネズミは、《悪い精霊》のにおいがする」
「・・・わかった。じゃあ、それをにぎったまま、会社へ行け」
「なんだ?いつもは休みの日は会社にいくなって言うだろ」
「いいから行け。行って、A班のだれかにそれを渡してこい」
「わかった。ボス」
おれをつかんだ男がむきをかえると、『ボス』とよばれた男が、電車やバスを絶対使うな、とうしろから叫んだ。
おれをにぎった手を顔に近づけたおとこは、鼻を鳴らして匂いをかぎ、「・・・すこしちがう匂いもするな」とおれの顔をみた。
くわれるくわれるくわれる・・・・
まだ会ったことはないが、オオカミやキツネに会ったら、きっとこういう感じだろう。
あれ?でもこいつ、匂いは野生の動物に近いけど、人間の男だよなあ?
「落ち着いたか?おれも落ち着いた。 こんな昼間の街中にでる《悪い精霊》はもっとひどい匂いだ。おまえはそれとはちがう匂いがする。 だけど、おまえみたいな匂いのネズミが街のなかをうろつくのはよくない。だからおまえは、A班にわたす」
なにをいってるのかはわからなかったが、どうやらこの人間の男におれは喰われなくてすむみたいだ。
だが、このままこの男にどこかに連れていかれたら、おれは大切な使命を果たせなくなる。
そうだ、これはおれの旅の最大のピンチってやつだ。
どうする?どうにか逃げるか?チャンスはあるか?
そうだ!ベルだ!こういうときこそ、あのベルをならせばいいのか!
でも、・・・あれを鳴らすとみんなが助けにきてくれて・・・おれがこの使命をはたせなかったことがみんなにわかってしまう・・・。
いや、でも、これを届けるのがおれの使命であって・・・。
ん?まてよ。この男はだれにおれを渡すつもりなんだ?『A班』ってなまえの、こいつの『上司』ってことか?うん、きっとそうだ。さっき『会社』って単語が出た。知ってるぞ。そこで人間たちはシスターみたいな『上司』っていうのに仕えて、おれたちみたいに働くんだって、前に『コウモリ』が説明してくれたからな。
・・・・・まってくれ!!
この男の『上司』ってことは、えーっとつまり、シスターみたいだってことか?魔女みたいに強いのか?冷たい?こわい?
きゅうにからだが震えてきた。
「おまえ、寒いのか?」
おれをにぎった男がおれをつかんだ手をひらいた。
いまが逃げるチャンスだ!
だが、おれのからだはおもうように動かなかった。
「まあ、南のほうから来たなら、この土地は寒い」
そう言った男がおれをシャツの胸にあるポケットへいれた。
「もうすぐここでも雪がふる。いっときだけ、この街も静かになる」
ポケットをうえからたたかれ、きゅうに動くことができた。
どうする?ベルをならすなら今だ。
そのときポケットに、上から何かが落ちてきた。
なんと!ナッツだ!!
「腹が減ったら、動物も人間もうごけなくなる」
おとこがそういったときには、おれはもう、ナッツを半分たべきっていた。




