街(前)
― 街 ―
どうやらまた眠ってしまったようだ。
ここまでおれに襲い掛かってきた危険と移動距離を考えたら、おれの疲労の溜まり具合からいっても、しかたがないことだ。
自分を納得させて、そっとバッグと蓋のすきまへ移動する。
エンジンはかかっているが、動く気配がなかった。
そっと顔をだしてみると、バイクはいつのまにか人間たちがひしめく『街』へとついていた。
「はまったよ。休日の渋滞だ」
「いいじゃない。あたしたちは家にかえるだけなんだから」
バイクに乗る人間の女たちが兜をかぶったまま大声で会話している。バッグの近くにはあの女の尻があった。
それを確認して、そっとバッグからでた。すると、こちらを見てもいないのに、女が背中に片手をまわし、指先でおれを追い払うようなことをした。
ここでおりろということか。
ほんとうなら礼をいいたいところだったが、おれはそのままバイクをおりた。
かえったらシスターに、この人間たちにパイをごちそうしてもいい、と言ってやろう。
なにしろシスターのパイはほんとうにおいしい。
でも、さっきからしてくるこのにおいも、シスターのパイに負けないくらいおいしそうだ。
そんなことを考えていたら、あれだけ予習したのに、排水溝にはいったり、建物にのぼったりするのを忘れて、道を伝ってしまった。しかも隅を走るじゃなくて、人間が歩くの専用の一段高い道の真ん中を、においにつられるように。
ぎゃあ とか おうっ とか くそっ とかいいながら人間たちがよけていく。
まずい、にげこまなきゃ、とおもうのに、人間がおれに道をゆずるように両脇にわかれてゆくので、このまま真ん中をまっすぐ進むしかない。
むこうで道がとぎれているのがみえた。『信号』っていうのがみえる。あれをわたらなきゃむこうにはいけない。
でも、いいにおいはそっちじゃなくて、あっちのほうってことは、そうか、あそこで道を曲がるってことだ。
いや、でも、いいんだっけ?おれ、どうしてここまできたんだっけ?シスターとなかまにみおくられて・・・
考えながらはしっていたら、曲がった先に《その気配》があって、いっきにここまできたおれの使命を思い出した。
やばい!これは喰われる!
おれの本能がそう告げた。
いそいで方向を変えたのに、まにあわなかった!




