バイク
― バイク ―
バタン、と大きな音がして目が覚めた。
《 つぎにとまったところでバイクにのりかえれば目的地につく 》
『カラス』はたしかそう言った。
「 《 おい、トムがガソリンいれてる間におりろよ。この貸しはおまえの飼い主につけておくから気にするな 》 」
おれは飼われているネズミじゃない。シスターのもとで立派に仕事をしているネズミなんだと言い返したかったが、次にのるためのバイクをさがさなければならなかったので、それらをぐっとのみこんで、いそいでおりた。決してやつがこわかったからじゃない。
ただ、その人間の子どもにみえるそいつの匂いが、シスターが前に聞かせてくれた《墓守》を思い起こさせて、ちょっとだけいそいで逃げた。
いた!さっきおれをひきそうだったバイクか?
いや、ちがうようだ。人間が二人いる。
建物からジュースのビンを持ってでてきた女が、一本をバイクにすわっているやつにわたす。ありがとう、とうけとったやつが兜みたいなものをぬいだ。
なんと!そいつの耳には無数の銀の釘や輪が打ちこまれていた!
きっと、なにかの罪を犯すたびに、あれを耳につけられていったんだろう。もう両耳ともいっぱいじゃないか!
おれはおもわずひるみそうになったが、とりあえずバイクのタイヤまではたどりついた。
「 ―― だからさ、あたしが行くっていってやったんだけど、だめだってさ」
耳についた『いましめ』をさわりながらだした声は、人間の女のようだった。だがこいつは『魔女』みたいなにおいがする。
「そうね。あたしでも許可しないわ。ここのところ働きすぎよ。今回の休みをとらなかったら、あたしノアのところにいこうと思ってたの」
もう一人がそういってバイクに座ると、耳にたくさんの銀がつけられたやつに肩をぶつけた。
そんなことをしたら危険だとおれは心配になったが、ぶつけられたほうはなぜか笑った。そいつの頭の毛は、たてがみのように一部だけ長く、ほかの人間たちとは違う色をしている。おれたちネズミはシスターの手助けをするために、この世にある『色』も識別できる。
あれはきっと、赤色だ。
「・・・ごめん。心配かけて」
「わかってくれればいいわ。おぼえておいてよ。あたしが家族として申請したら、サリーナ・コレットはすぐに休職になるからね」
「・・・わかった。おぼえておくよ」
二人の女がキスをしはじめたので、おれはそのすきにバイクの両脇につけられたでかいバッグにとびこんだ。
しばらくして「ビンをかえしてくるよ」と兜を置いた女が立ち上がって遠のく気配がした。
気が緩んだそのとき、おれが休んでいたバッグのだらりとした蓋がもちあげられ、手をつっこうもうとしたその女と目が合った。
「 『 ・・・・ 』 」おれはしっている。人間の女がおれたちをみつけたときの反応は、悲鳴か罵りのどちらかと決まっている。
「わお、いつからここに?」
なのに、この人間の女は驚き顔でそうきいてきた。続けて建物のほうをすばやくみて、口早に言った。
「いい?ぜったいにそこから動いちゃだめ。 サリーナはネズミがだいっきらいなの。みつかったらまちがいなく撃たれちゃうから」そういって、蓋がもどされた。
すぐに戻った、おれを『撃つ』だろうやつが先にバイクにまたがり、ものすごい音と振動が起こってエンジンっていうのがかけられたのがわかる。さっきまで乗っていた車とは比べ物にならないくらい、音も振動もすごい。続いてさっきおれをみつけた女が乗り、バッグの蓋の隙間にその女のものらしい指がのぞくと、おれに暗示をかけるようにくるくると回された。
じっとしていろということか?
おれはいまここでいそいで逃げるべきか、それとも人間の女のいうことに従うべきか大いに悩んだ。
悩んで悩んで悩んでいたら、
なんだかいいにおいがして、目が覚めた。




