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第6話 「黒い暴風の中で」

闇――

いや、“黒い魔力そのもの”が森を飲み込んだ。


アークの視界が一瞬で暗転する。


「……ほう」


その声に焦りはなかった。

むしろ――興味深そうだった。


一方、リオには何も見えない。


闇は光を吸い、空気を震わせていた。

耳鳴りが響き、足元の大地さえどこにあるか分からない。


「セラ! セラどこだ!!」


返事はない。

ただ風のように、黒い魔力がうねりながら広がっていく。


(セラ……また自分を責めてる……!

 誰かを守りたいだけなのに……!)


リオは闇の中へ手を伸ばした。


「セラ! 聞こえるか!!

 お前は暴走なんかしてない!!

 “守ろうとしてるだけ”なんだ!!」


その声は確かに黒い空間に届いた。


――揺らいだ。


闇がかすかに震え、黒の渦が一瞬だけ弱まる。


アークが低く呟く。


「意識が残っている……か。

 だが、制御できるほどではないな」


銀仮面の奥から、魔力が立ち上がる。


アークは手をかざし、無詠唱で魔法を放った。


「《光封結界アステル・ロック》」


黒い闇を裂くように光が走り、空間に巨大な壁がいくつも生まれた。

世界がパキパキと音を立てて固定される。


闇と光がぶつかり――激しく軋む。


(やばい……! アークが本気だ!

 このままだとセラが押し潰される!)


リオは体を引きずりながら、闇の中心へ向かった。


黒い魔力が皮膚を刺すように荒れ狂っている。

一歩踏み出すたびに、足が震える。


それでも――止まらない。


(セラ……怖がってる……!

 誰よりも、自分の力を……!)


気配を辿り、とうとう中心に辿り着く。


そこに――


膝を抱え、震えながら泣いているセラがいた。


「……もういや……

 誰も……失いたくない……

 なのに……私が……全部……壊す……」


その姿は、ただの少女だった。


魔道士でも、災厄でもない。

自分を責め続けて、心を壊しそうになっている少女。


リオは迷わず駆け寄り、彼女を抱きしめた。


「セラ!」


「やだ……来ないで……

 私の魔力に触れたら……!」


「触れるよ! 何度でも触れる!!

 お前がどれだけ叫んでても、何を怖がってても――

 俺は絶対離れない!」


セラの肩が小さく震えた。


闇が一瞬弱まる。


リオはそのまま言葉を続ける。


「お前は誰も壊してない!

 守ろうとしてるだけだ!!

 今も、俺を守ろうとしたから……

 こんなに苦しんでるんだろ!」


セラの瞳に涙が溜まり、ぽたりと落ちた。


「……守りたい……

 ずっと……誰かを……守りたかった……

 でも……私……」


「大丈夫だ。

 “守りたい”って気持ちがあるなら、絶対に制御できる!」


闇がさらに薄くなる。


黒い魔力が、風のように揺れ、涙のように消えていく。


セラが震える声で呟く。


「……ほんとに……私でも……?」


「できる。

 俺はお前を……信じてるから!」


――ぼん。


空気が軽く弾け、黒い空間が裂けた。


破壊の闇はすうっと消え、森に光が戻る。


セラの魔力は、静かに収束していった。


アークがゆっくりと手を下ろす。


「……なるほど。

 暴走を“言葉”で止めたか」


冷静な声だが、その奥にわずかな衝撃が混じっていた。


リオはセラを抱きながら立ち上がり、アークを睨む。


「セラは危険なんかじゃない!

 力を制御できるようになる!

 だから――連れて行かせない!」


アークは静かな視線を二人に向ける。


「……面白い。

 少年、お前の言葉で本当に制御が安定した」


そして一歩、前へ。


森の空気が凍りついた。


「だが――王国の判断は変わらん。

 “滅びの魔道士”は確保対象だ。

 連れていく」


セラが震えながら、リオの腕を掴む。


「……いや……やだ……

 離れたくない……」


リオは剣を構えた。


立てないほどの傷でも、足が震えても――

彼の瞳だけはまっすぐだった。


「もう一度言う。

 セラを――奪わせない!」


アークの口元がわずかに動く。


それが、笑みだったのかどうかは分からない。


ただ、次の言葉はあまりにも静かで――冷たかった。


「ならば、少年。

 こちらも手加減はしない」


風が止まり、森が沈黙した。


二人と一人――

決して勝てるはずのない戦いが、始まろうとしていた。

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