第5話 「王国魔導師団、動く」
森の奥での戦闘から数時間後。
セラとリオは焚き火のそばで小さく身を寄せ合っていた。
リオは身体の痛みを我慢しながら笑う。
「……いやー、本当に死ぬかと思った」
「ごめん……やっぱり私のせいで――」
「違うって何回言わせるんだよ!」
リオが額を軽く小突くと、セラはびくっと肩を震わせた。
「わ、わざとじゃなくて……!」
「わざとじゃなくてもいいんだよ。
僕は無事なんだから、それで十分」
(本当に……どうしてこんなに優しいの……)
セラは小さく息を吐き、遠くの闇を見つめた。
だがその時――
森の外、空の彼方で魔力の波が大きく揺れた。
セラの紅い瞳が反応する。
「……まずい。誰かが“探知魔法”を使ってる」
「追手か?」
「たぶん……王国魔導師団」
リオの顔が一瞬で青くなる。
「魔導師団!? なんでそんな大物が……!」
「私の魔力がさっき暴れたから……きっと感知されたんだと思う」
セラは唇を噛んだ。
王国魔導師団――王が直接指揮する国家最強の魔法部隊。
危険な魔力の存在を確認すると、まず“確保”しに来る。
確保といっても、ほとんどは“排除”に近い。
「まずい……リオ、離れて。私がいると――」
「離れない」
返ってきた答えは即答だった。
「だって、セラは僕が守るって決めたんだ」
(だめ……本当にこのままだと、リオが……)
セラが口を開こうとしたその時――
風が裂ける音。
闇が一瞬光り、目の前に“影”が現れた。
黒い外套、鋭い瞳。
銀の仮面をつけた男が、無音で二人の前に立っていた。
「……見つけた」
リオが剣に手をかける。
「誰だ!」
銀仮面の男はリオに目も向けず、セラだけを見据えた。
「お前が――“滅びの魔道士”だな」
セラの心臓が凍りついた。
(この人……強い……!)
ただ立っているだけで分かる。
常人とは桁違いの魔力量。
しかも一切の隙がない。
「王国魔導師団・第零席、アーク。
命令により、お前を確保しに来た」
リオが一歩前へ出る。
「セラを連れていかせない!」
アークは冷ややかな声で答えた。
「少年。お前では、私の足元にも及ばない」
次の瞬間――
何が起きたのか、リオには見えなかった。
アークは指を軽く弾いただけ。
それだけで、リオの体が空中へ跳ね飛ばされ、地面に転がる。
「リオ!!」
セラが駆け寄ろうとするが――
アークの視線が彼女を釘付けにした。
「動くな。
お前の魔力は危険だ。
自覚しているはずだな?」
セラの呼吸が乱れる。
(だめ……いま暴れたら……リオが……!)
アークが一歩近づく。
その気配だけで、セラの身体は石のように固まった。
「大人しく来い。
抵抗するなら――」
風が止まり、森の音が消えた。
「その瞬間に、お前を処分する」
処分――
その言葉がセラの心を刺した。
(やっぱり……私は、生きてちゃいけないのかな……)
そのとき、地面に倒れていたリオが必死に身体を起こした。
「……セラ……!」
セラは振り返り、彼の苦しそうな顔を見た。
アークの冷たい声が続く。
「少年。これ以上の抵抗は無駄だ」
しかしリオは睨みつけながら叫んだ。
「無駄でもいい! セラを守るのは俺だ!」
セラの喉が震える。
(なんで……なんでここまで……)
アークは淡々と結論を述べた。
「――ならば、お前から排除する」
指が動き、空気が歪む。
リオが殺される。
セラの胸の奥で、黒い魔力が一気に噴き上がった。
(いや……もう失いたくない!
もう誰かを傷つけたくない!
でも……リオだけは……!!)
黒紋章が地面に広がる。
アークの瞳が細まる。
「やはり――暴走するか」
その瞬間、セラは叫んだ。
「私に触らないで!!」
黒い閃光が走り、世界が揺れ――
次の瞬間、闇がすべてを包み込んだ。




