第3話 「力を恐れる少女と、無謀すぎる決意」
森の深い場所へ走り続けて十分。
ようやく魔力の追跡の気配が遠のき、セラとリオは小さな泉のほとりで足を止めた。
リオはその場にドサッと座り込み、息を切らしながら笑った。
「はぁ……はぁ……すっごい風だった……!」
「ごめん……全部、私のせいで……」
セラは俯いたまま、胸の前で手を握りしめる。
彼女の肩には、重すぎる烙印があった。
“滅びの系譜”。
触れたもの、近づいたものを破壊へ誘う呪いの力。
いまは落ち着いているが、感情が揺れると制御が効かなくなる。
(また暴走したら……また誰かを傷つけちゃう……)
沈み込むセラを見て、リオは枝を拾い、泉にぽちゃんと投げた。
「な、なにしてるの……?」
「いや、なんか重い空気だったから。ね、見て!」
枝はぷかぷかと浮き、くるくる回りながらゆっくり流れていく。
「水ってさ、揺らいでも、すぐに澄んで元にもどるよね。
君の魔力も、そうなるようにできるはずだよ」
「……そんな簡単じゃないよ」
「簡単じゃないから、一緒にやるんだよ!」
あまりにも当然のように言い切るリオに、セラは言葉を飲んだ。
(どうしてこんなにまっすぐなの……?)
彼は何も知らない。
セラがどれほど恐れられているのかも、どれだけ破壊してきたかも。
「ねえ、セラ。
君は誰も傷つけたくないって、さっき言ってたよね?」
「……うん」
「じゃあ僕が、君の力を抑える方法を探す。
師匠にも聞くし、魔力の聖堂にも行けるなら行く!
君は一人じゃない! もう逃げ回るだけの旅なんて、させない!」
――自分の手を握るように、リオの声は強かった。
セラは胸が苦しくなるほど驚いていた。
いつも責められ、怯えられ、逃げられてきたのに。
こんなことを言ってくれる人が本当にいるなんて――。
「……どうして、そこまで?」
リオは少し照れて頭をかいた。
「だって君……泣きそうな顔してたから」
セラの心が、ほんの少しだけ解けた。
「……ありがとう」
小さく、小さく微笑んだその瞬間。
――ズガァァァァン!!
地面が揺れ、泉の水が跳ね上がった。
「な、何!?」
森の奥から、巨躯の影がゆっくりと姿を現した。
四つの目。
裂けた口。
石の甲羅を背負った魔獣。
リオはすぐに剣を構えた。
「くそっ……追手じゃなくて魔獣の縄張りだったか!」
セラは一歩下がる。
心臓が激しく打ち、胸の奥で黒い魔力がうねり始める。
(だめ……! 戦ったらまた暴走する……!)
「リオ、逃げよう! あれは――」
「逃げられないよ、もう目が合ってる!」
ガル・ゴーレムが轟音とともに突進してくる。
リオは剣を握りしめ、叫んだ。
「セラ! 僕が時間を稼ぐ!
その間に落ち着いて、魔力を整えて!」
「え……? 私に……戦わせる気……?」
「違う!
“君の力を、君自身が怖がらない方法”を探す第一歩だよ!」
セラの瞳が大きく揺れた。
逃げることはできた。
でも――リオは自分のために剣を抜いた。
(私……どうすれば……?)
森が震える。
魔獣が咆哮する。
少年が剣を構える。
そして――
少女の中で黒い魔力が音を立てて目を覚ました。
次の瞬間、セラの足元に黒い紋章が広がる。
「……私、もう逃げたくない!」
紅い瞳が強く光った。
“滅びの魔道士”の力が、ついに解き放たれる――。




