第2話 「追われる少女と、青い外套の少年」
森の奥は、朝霧が濃く漂っていた。
湿った土の匂いと、遠くで鳴く鳥の声だけが響く。
セラは大きな倒木に背を預け、泥だらけの靴を脱いで息を整えていた。
「はぁ……どこまで逃げればいいんだろ……」
両手を見つめる。
指先にはまだ黒い魔力が微かに揺らめいていた。
彼女自身ですら完全に制御できない呪いの力。
「助けたいだけなのに……誰も信じてくれないし……」
ぽつりと涙が落ち、土に吸い込まれた。
そのとき。
――バキッ。
茂みが大きく揺れた。
セラはびくっと肩を跳ねさせ、慌てて立ち上がる。
「ま、また騎士団……!?」
震える手で防御魔法を構えようとした瞬間――
「うわっ! 痛っ……! あ、あれ? ここどこ?」
茂みから転がり出てきたのは、
青い外套を羽織った、年の近い少年だった。
短い銀髪。
腰には細身の剣。
どこか気の抜けた表情。
セラは呆気に取られ、魔法の構えを解いた。
少年は彼女に気づくと、ぱっと目を輝かせた。
「おおっ! 君も迷子!?」
「……え? 迷子じゃないよ?」
「そうなんだ! じゃあ、僕だけか!」
嬉しそうに笑う少年に、セラは拍子抜けした。
普通、突然現れた自分を見れば“災厄の魔道士”だと怯えるのに。
この少年にはまったく警戒の色がない。
「えっと……あなた、誰?」
「僕はリオ。旅の見習い剣士! 方向音痴! ついでに昨日の夕飯も忘れた!」
「それ、ただの大丈夫じゃない人……」
セラは思わず突っ込んでしまった。
リオは全く気にせず、にこっと笑う。
「で、君は? なんでそんなに怯えてるの?」
セラは返事に迷った。
“滅びの魔道士”だと名乗れば、間違いなく態度が変わる。
けれど、嘘をつくのも苦手だった。
「その……私、ちょっと追われてて……」
「追われてる!? よし、任せろ!」
リオは一瞬で表情を引き締め、剣を抜いた。
(えっ、ほんとに戦う気なの!?)
驚くセラの前で、リオは剣を振って森の奥を睨む。
「追っ手が来るなら、僕が守るよ」
「……なんで? 私のこと、何も知らないのに」
「困ってるなら助ける。それだけ!」
その答えは、あまりにも真っ直ぐでまぶしかった。
セラは胸が少しだけ温かくなるのを感じた。
しかし――
ゴオォォォ……!!
森の奥から黒い風が吹きつけた。
それは魔力。
セラの暴走魔力を追うように、王国の追跡魔法が近づいてきている。
「リオ、逃げよう! 早く!」
「うん、任せ……うわっ、何この風!!」
二人は並んで森の奥へ駆け出した。
セラの足は震えていた。しかし――
(私を、信じてくれる人……初めてかもしれない)
彼女は初めて自分から誰かの手を引いた。
その日、“滅びの魔道士”と名指しで恐れられる少女は、
世界の運命の鍵を握る少年と出会った。




