表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

第15話 「名を呼ぶという奇跡」

セラの身体は、もう重さを失い始めていた。


抱きしめているはずなのに、

腕の中にある感触が、砂のように零れていく。


「セラ……!

 目を開けてくれ……!」


リオの声は震え、かすれていた。

何度も、何度も名を呼ぶ。


だが返事はない。


代わりに――

セラの輪郭が、ゆっくりと透けていく。


「……時間切れだ」


アークが、苦しそうに息を吐いた。


「彼女は“死”を引き受けた。

 世界は安定したが、その代価として

 セラは世界の帳簿から消される」


リオは顔を上げ、叫んだ。


「そんな理屈……知るかよ!!」


涙が頬を伝い、地面に落ちる。


「セラは……

 セラは、ここにいるだろ!!」


その瞬間。


風が、わずかに揺れた。


消えかけていたセラの指先が――

ぴくりと、動いた。


アークが目を見開く。


「……何だ……?」


リオは、セラの額に額をつけ、

必死に言葉を絞り出す。


「魔道士とか……滅びとか……

 そんなのどうでもいい……」


声が、途切れそうになる。


「俺にとってのセラは……

 俺を助けてくれた人で……

 一緒に生きてくれた人だ……!」


その言葉が――

世界に“定義されていないはずの何か”を震わせた。


セラの唇が、わずかに動く。


「……リ……オ……?」


か細い声。


だが、確かに――

“存在している者”の声だった。


「……ば、かな……」


アークが呟く。


「名を……

 “役割”ではなく、“存在”として呼ばれている……?」


セラの身体が、完全な消失を拒むように、

淡く光を帯び始める。


世界が、迷っていた。


――滅びの魔道士として消すべきか

――誰かにとっての“ただ一人”として残すべきか


リオは叫ぶ。


「帰ってこい!!

 世界が何て言おうが……

 俺は、セラを失わない!!」


長い沈黙。


やがて――

世界が、折れた。


砕け散るように、

何かが“書き換えを諦める音”が響く。


セラの身体に、重さが戻る。


「……あ……」


彼女の胸が、上下した。


呼吸。


確かな、生の証。


アークは、力なく笑った。


「……とんでもない少年だ……

 世界より先に、人を選ぶとは……」


セラは、ゆっくりと目を開ける。


紅い瞳が、リオを映す。


「……うるさい……

 泣きすぎ……」


リオは、声を上げて泣いた。


滅びの魔道士は、

世界を壊して――

それでも、人としてここに戻ってきた。


だが、代償がなかったわけではない。


セラの背後で、

かつて無限に渦巻いていた黒い魔力は――

ほとんど、消え失せていた。


彼女はもう、

“滅び”そのものではない。


ただ――

滅びを知り、それを選ばなかった魔道士。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ