第13話 「戻らぬ鼓動」
黒い光が、リオの身体を包み込んだ。
アークの魔力が直接、魂へと触れる。
それは治癒でも蘇生でもない――
“繋ぎ止める”だけの、歪な延命。
「……っ……!」
リオの指先が、わずかに動いた。
その瞬間。
世界を引き裂いていた破滅の奔流が、
ぴたりと止まった。
風が消え、
崩れかけていた空間が悲鳴を上げながら固定される。
「……?」
セラの紅い瞳が、揺れた。
膨大な魔力が行き場を失い、
彼女の周囲で黒い霧となって漂う。
「……リオ?」
震える声。
セラはふらつきながら地面に膝をつき、
倒れた少年のもとへ這うように近づいた。
「リオ……リオ……?」
その名を呼ぶたび、
胸の奥で何かが軋む。
リオの瞳が、ゆっくりと開いた。
焦点は合っていない。
呼吸も浅い。
それでも――
確かに、生きている。
「……セ……ラ……」
かすれた声。
それだけで、セラの中で張り詰めていたものが崩れた。
「よかった……よかった……!」
涙が落ちる。
黒い魔力と混じり、地面を焦がす。
だが、アークは叫んだ。
「喜ぶな!
それは“仮初”だ!」
セラが振り返る。
アークは片膝をつき、
身体の半分が霧のように崩れ始めていた。
「魂の接続は長く保たん……
少年の命は、すでに“死の側”に足を突っ込んでいる」
「……そんな……」
セラの声が、再び震える。
アークは苦笑した。
「選べ、セラ。
このまま魔法を完全に止め、
少年の残された“数分”を抱いて過ごすか」
魔力の渦が、再び不穏にうねる。
「それとも――
お前が“滅びの魔道士”として、
死の理そのものを壊すか」
セラの胸が締めつけられる。
リオの手が、弱々しく彼女の指を掴んだ。
「……セラ……
だめ……無理……するな……」
その言葉が、
セラの心を決定的に引き裂いた。
「……うるさい」
小さな声。
だが、確かな拒絶。
「私は……もう、何も失わない」
セラの瞳から、涙が消えた。
代わりに宿ったのは、
怒りでも悲しみでもない――
決意。
「世界がそういう仕組みなら……」
彼女は立ち上がる。
黒い魔力が、今度は静かに集束していく。
「その仕組みごと――
壊して、書き換える」
アークの目が見開かれた。
「まさか……
あれを使う気か……!」
セラは答えない。
ただ、リオの手を離さず、
もう片方の手で――
禁忌中の禁忌、最奥の術式を描き始めた。
世界が、息を止める。




