第10話 「目覚める滅び」
黒い森に、音がなくなった。
風も、鳥の声も消え、残ったのは焼けた木の匂いと、静かに呼吸する三人の気配だけ。
セラはリオの腕の中にいた。
意識はぼんやりとしているのに、身体の奥で何かが“目覚めて”いるのがはっきり分かった。
(……だめ……力が……)
抑えようとするほど、内側の“それ”は喜ぶように脈打つ。
アークが歩み寄る。
「薄々分かっているはずだ、セラ。
お前の力は“守る”ためにある魔法じゃない」
黒い魔力が彼の足元で静かに広がる。
「それは、終わらせるための力だ」
セラの指先が震える。
地面に、勝手に黒い文様が浮かび始めた。
「……やめろ……」
声はかすれている。
「もう……誰も……」
リオが身を乗り出す。
「セラ! 顔上げろ!」
その声に、彼女はわずかに視線を向けた。
「……私……あなたを……巻き込みたくない……」
その瞬間。
――リオが、彼女の手を強く握った。
「巻き込まれてやるよ」
即答だった。
躊躇いも、迷いもない。
「お前がどんな力でも関係ない。
一緒に立って、一緒に苦しんで、一緒に生きるって決めた!」
空気が震えた。
セラの瞳が見開かれる。
アークの表情が、初めて険しく歪んだ。
「……愚かだな、少年」
だがその言葉には、微かな焦りが混じっていた。
セラの中で、何かが“切れた”。
黒い魔力が爆発するように解き放たれる。
森の地面が持ち上がり、空が軋む。
だが――
それは以前の“暴走”とは違っていた。
彼女の意思で、制御されている。
「……私……壊す力しかないって……思ってた……」
ゆっくりと立ち上がるセラ。
黒い風が、彼女の髪を優しく持ち上げる。
「でも……壊すなら……守るものを……自分で選ぶ……!」
アークの魔力と、セラの魔力がぶつかり合い、空間が裂ける。
――次の瞬間、地面に巨大な魔法陣が展開した。
アークが目を細める。
「……来るか。“滅びの真名”」
セラの唇が、小さく動いた。
その名を――
口にしかけていた。




