道
都内の配送業者で働くAさんから聞いた話。
数年前の秋、Aさんは深夜の国道を一人で大型トラックを走らせていました。
場所は山間部を抜ける片側一車線の長い下り坂。
その夜は霧が深く、視界は最悪でした。
ふと前方に、自分と同じくらいの速度で走る軽トラックのハザードランプが
見えました。
「こんな霧の夜に、ハザードを焚いて先導してくれるのはありがたい」
Aさんはそのランプを頼りに、一定の距離を保って運転を続けました。
しばらく走っていると、前の軽トラックが緩やかにブレーキを踏み、左側の路肩に寄せて停車したそうです。
Aさんは「道を譲ってくれたんだな」と思い、軽くパッシングで挨拶をしてその
横を通り過ぎようとしました。
ところが、すれ違いざまにトラックの運転席を覗き込んだAさんは、目を疑い
ました。
運転席には、誰も座っていなかったのです。
驚いてバックミラーを確認すると、霧の中にポツンと浮かんでいたはずのハザードランプは、影も形も消えていました。道は一本道で、脇道もありません。
ゾッとしたAさんがアクセルを踏み込み、その場を離れようとした時です。
トラックの背後にある荷台から、「トントン、トントン」と、誰かが叩くような音が聞こえてきました。
「荷物は残ってないはずなのに……」
怖くてミラーを見ることもできず、ようやく麓のコンビニに駆け込んだAさん。
明るい照明の下で震えながら荷台を開けると、やはり人の姿はありません。
ただ、空荷のはずの床に、数センチ程の白い塊がパラパラと散らばっていました。
「なんだ、これ……」
手に取ると、それは石灰のように、カサカサと乾いた質感でした。
言いようのない嫌悪感に襲われた彼は、それを一つ残らず拾い集め、軍手で包むと、近くにある人気のない古い橋の上から、真っ暗な川底へ向けて全て投げ捨て
ました。
それから、Aさんは二度とその道を通りませんでした。
後で聞いた話では、その坂道は地元でも有名な事故多発地点で、数年前には霧の夜に軽トラックが崖下に転落する、悲惨な事故も起きていたようです。
あれは犬か何かの骨だった、とAさんは今も信じているそうです。




