映画
二十年近く前、地方のショートフィルムコンテストで、ある作品が上映されたという話を聞いた。
内容は、ドキュメンタリー風のもので、「コンテストの趣旨に著しく反する内容を含んでいた」という理由により失格になったという。
ただ、観客はその内容をはっきり覚えていなかった。
「途中で眠ってしまったかも」
「最後は…どうだったかな」
その話に惹かれ、取材に向かった。
主催者の話によると、提出された映像と上映されたものは違っていたそうだが、事前審査をした人間も、誰一人その違いを説明できなかった。
上映後、フィルムは主催者側で保管されていたが、現在は所在不明となっている。
提出者の名前や連絡先も、どこを探しても見つからなかったらしい。
数日かけて、観客の一人が当日撮影していた携帯の映像を見ることができた。
短い断片だけで画質も荒く、音声だけが異様にクリアだった。
太鼓の音。人々の足音。風の音。
映像には、祭りの様子が映っていた。
踊る人々。囲まれた空間。
中央に立つ人物。
誰も喋らない。
ただ、太鼓の音だけが響いていた。
次の場面で、中央の人物が地面に伏せる。
赤い布がかけられる。
太鼓の音が止まる。
画面が暗転し、そこで映像は途切れていた。
方言、風景、祭りの名前──
それらを手がかりに、行き当たったのは白黒のニュース映像だった。
むしろに包まれ運び出される、焼け焦げた遺体。
記録によれば、戦後まもなくの山火事で壊滅的な被害を受け、わずかに残った村人も立ち退いた後、ダムの底に沈んだそうだ。