表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/25

実家から少し離れた畑道に、崩れた石垣の跡があるんですよ。

戦時中は防空(ごう)だったそうです。

うちの祖父が、そこに入ってたって言ってました。


昭和二十年の三月、空襲で家族とはぐれて、ひとりで逃げ込んだんです。

中は狭くて、湿ってて、昼でも真っ暗だったって。

サトウキビの根が天井から垂れてて、風も通らないのに葉が揺れていた。

その夜、壕の中には七人いたそうです。

空襲が止んで、順番に外へ出た。

祖父は最後でした。


外に出た瞬間、空気が違ったって言ってました。

風は吹いてないのに、葉が揺れていたそうです。

背後で足音がして、振り返ると、壕の入口に人影がいた。

輪郭はあるのに、目も鼻も口もなく、ただ、立っていたと。


そこから、おかしな話なんですが、気がついたら、また壕の中にいたそうです。

出た記憶はあるのに、壁の湿気、土の匂い、誰かの息遣い──全部、さっきと同じだったって。

そしたら奥の方から声がした。

“まだ出ちゃだめだ”

誰の声かは分からない。

気味悪く思ったものの、外に出る気にもなれず、そのまま壕で夜を越しました。


夜が明ける前、祖父はそっと壕を出ました。

外に出たとき、葉はまだ揺れていたそうです。

風はなかったのに。

振り返らずに歩いたといいます。


後になって、元の壕にいた人たちは全員亡くなっていたと聞きました。

爆撃ではなく、崩落によって入口が潰れ、誰も出られなかったそうです。


祖父はずっと「順番を守れ」と繰り返していました。

食事のときも、風呂のときも、バスに乗るときも、必ず順番を確認してました。

家族で写真を撮るときも、並び順を何度も直すんです。

「順番が違うと、戻れなくなる」って言ってました。

理由は聞いても、教えてくれませんでした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ