コピー
去年、私は保健委員をしていた。
月に一度、保健だよりを印刷するため、保健室のコピー機を使っていた。
古い機械で、起動音が大きく、印刷も遅かった。
ある日、印刷した最初の一枚に、妙な影が写っていた。
余白に、丸い形。真ん中に濃い点が二つ。
インクの汚れにしては、やけに形が整っていた。
次の月も、最初の一枚にだけ影が写った。
丸は前よりも大きく、形も少し伸びていた。
二つの点は、わずかに離れて、周囲が滲んでいた。
私はすぐに、紙を伏せた。
さらに次の月。
影は顔の形になっていた。
眼球は塗りつぶされたように真っ黒で、どこを見ているのか分からない。
保健室の先生に見せると、「古い機械だからね」と笑われた。
報告の翌月、印刷されたプリントに、影は写っていなかった。
私はほっとした。
その次の印刷で、最初の一枚は全面真っ黒だった。
インク漏れかと思ったが、光の角度を変えた瞬間、黒の中に何かが見えた。
薄く、濡れたような光沢の中に浮かぶ、自分の顔。
記憶はそこで途切れている。
保健の先生によると、私はコピー機の前で倒れていたらしい。
「軽い貧血だと思うけど、一応病院で診てもらってね」
先生は言った。
ベッドで少し休んだ後、刷り上がった保健だよりを職員室に運んだ。
黒い紙がどうなったかは知らない。
机の上にも、ゴミ箱にも見当たらなかったが、先生に尋ねる気にはならなかった。
委員をやめて以来、保健室のコピー機は使っていない。
ただ、あの黒い光沢と湿った感触が頭をよぎるたび、今でも気分が悪くなる。