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サウナ

Tさんは、仕事帰りによく立ち寄るサウナがあった。

駅から少し離れた古い施設で、常連も少なく、静かに過ごせるのが気に入っていた。

その日も、夜9時過ぎに受付を済ませ、いつものようにサウナ室に入った。


中には誰もいなかった。

木のベンチに腰を下ろし、じわじわと汗がにじむのを感じながら、Tさんは目を閉じた。

10分ほど経った頃、扉が開く音がした。


誰かが入ってきた。 だが、足音はしない。

気配だけが、じわりと近づいてくる。

Tさんは目を開けた。

向かいのベンチに、白いタオルを頭に巻いた人物が座っていた。

顔は見えない。

ただ、異様に細い腕と、濡れていないタオルが気になった。


その人物は、何も言わず、ただじっとTさんを見ていた。

サウナの熱気が、いつもより重く感じられた。

息が浅くなり、視界がぼやけてくる。


数分後、スタッフがロウリュ(熱した石に水をかける蒸気サービス)に入ってきた。

「失礼します」

スタッフはTさんにだけタオルを振り、蒸気を送った。


蒸気が立ちこめる中、Tさんはふと、腕に冷たい感触を覚えた。

誰かが触れたような気がした。

反射的に隣を見たが、誰もいない。

向かいのベンチも空だった。


スタッフに尋ねた。

「あの人、常連さんですか?」

スタッフは怪訝そうな顔をした。

「え?お客様だけでしたよ。誰も入ってません」


Tさんは振り返った。 ベンチには誰もいなかった。

ただ、木の表面には、湿ったような跡が残っていた。

それは、Tさんの足元にまで伸びていた。


更衣室で着替えていると、腕に赤い痕があることに気づいた。

指の形のような、細く冷たい痣。

触れられた感触が、まだ残っている。


帰り際、受付の横に貼られた注意書きが目に入った。

「サウナ室内での事故防止のため、深夜の単独利用はお控えください」

その下に、小さく手書きでこう書かれていた。

「23時以降、サウナ室に入る際は、人数を確認すること」


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