マンホール
高校生のユウは、写真部に所属している。
ある日、廃墟マニアの先輩に誘われて、郊外の廃工場跡を撮影に行った。
工場はすでに雑草に覆われ、建物の半分は崩れていた。
でも、ユウが気になったのは、敷地の中央にぽつんとあるマンホールだった。
蓋は錆びていて、周囲には誰かがこじ開けようとした跡がある。
先輩は「こういうの、開けたらヤバいのが出てくるって言うよな」と笑った。
ユウは冗談半分で、スマホで蓋の写真を撮った。
その夜、ユウはフォトを開いて昼間撮った写真を確認していた。
「この人物に名前を追加しますか?」
マンホールの写真を開いたとき、画面にメッセージとともに、
人物の候補として見慣れない顔が表示された。
タップすると、拡大された蓋の隙間に、
確かに“何か”が写っていた。
錆の模様ではない。
目のような、口のような、何かがこちらを見ていた。
翌日、ユウは先輩にその話をした。
でも先輩は「そんなマンホール、なかったよ」と言った。
写真を見せようとしたが、スマホの中からその画像だけが消えていた。
ユウの家の前には、同じ形のマンホールがある。
数日前まで、そんな場所に蓋はなかった、とユウには思えてならない。
でも、確かにそこにある。
そして、夜になると——
蓋を引きずるような音が、だんだんと近づいて聞こえてくるという。