砂場
大学時代の友人から聞いた話である。
彼が大学の春休みに地元へ帰省したときのことだ。
久しぶりに時間ができたので、子どもの頃によく遊んでいた公園に立ち寄った。
夕方の公園は静かで、誰もいなかったという。
懐かしさから、砂場の縁に腰を下ろして、何気なく手で砂を掘っていた。
すると、指先に硬いものが当たった。
掘り出してみると、それは赤いミニカーだった。
彼は驚いた。というのも、それは幼稚園の頃に無くしたお気に入りの玩具とそっくりだったからだ。
「こんなところにあるはずがない」と思いながらも、懐かしさに浸った。
翌日、彼はまた公園へ行った。
今度も砂場を掘ってみた。
すると、古いトレーディングカードが出てきた。
幼い頃に泣きながら探し回ったカードと同じものだったという。
それから、彼は毎日のように砂場を掘るようになった。
消しゴム、鍵、メダル——
出てくるのは、すべて「彼が失くしたもの」だった。
ある日、彼は砂の中から見覚えのある、首輪らしきものを見つけた。
赤いナイロン製で、金具が錆びている。
持ち帰ると、実家で飼っているトイ・プードルの首輪と比べてみた。
見るからに同じ型で、ネームタグに書かれた「ララ」の文字までそっくりだった。
ただ、拾った方は明らかに古く、擦り切れ、小さな傷がいくつも刻まれている。
その日以来、なぜか彼は砂場へ行くのをやめた。
地元から戻って数日後、母親が泣きながら電話をしてきた。
ララが散歩の途中で、近所の大型犬に突然嚙みつかれたという。
首の骨を折られ、即死だったらしい。
犬の飼い主は、母の長年の友人だった。
ペットを通じて知り合い、犬同士もじゃれ合って遊ぶほど仲が良かった。
友人は何度も土下座して謝ったというが、原因の方はまるで見当がつかなかった。
どんな検査をしても、大型犬には何の異常も見つからなかったそうだ。
しばらく言葉が出なかった。
その首輪は、いつの間にかどこかへ消えてしまったという。
ただ夜になると、玄関の方から爪の音が聞こえることがあるらしい。
「明らかに、小型犬の大きさじゃないんだけどね」
彼は何ともいえない表情で笑った。