カーテン
四国で一人暮らしをしていた知人が、酒の席でぽつりと語った話である。
彼が住んでいたのは、築40年ほどの団地で、内装はリフォーム済みだったが、どこか空気が重い部屋だったという。
特に気になったのが、備え付けの古びたカーテンだった。
厚手のベージュで、遮光性は高かったが、触るとざらついた感触があった。
ある晴れた日、洗濯をしようとカーテンを外したところ、裏に何かが縫い込まれているのに気づいた。
裏地を開き、取り出してみるとそれは白黒写真だった。
家族写真のようだが、写った人物たちの笑顔はどこか硬く、不自然だったという。
見つかったのは、それだけではなかった。
髪の毛を束ねたもの、焦げ跡のある布切れ。
それが誰の手によるもので、何を目的にしたものなのかは分からなかった。
管理会社に問い合わせても「そんな加工はしていない」と言われ、前の住人の情報も教えてもらえなかった。
それから、部屋の空気が変わった。
カーテンを閉めると、背後に視線を感じる。
開けると何もないが、閉めるとまた、誰かがそこにいるような気配がする。
彼は意を決してカーテンを外し、ゴミ袋に入れて収集所に持っていった。
その夜は、久々にぐっすり眠れたそうだ。
翌朝、リビングに入った彼は、思わず立ちすくんだ。
窓際に、首を吊った人間がぶら下がっていたのだ。
足が床に届かず、うなだれた頭がゆっくりと揺れていた。
声も出せずに近づいた彼は、そこでようやくそれが死体ではないことに気づいた。
確かに捨てたはずの、あのベージュのカーテンだった。
天井から吊るされたそれは、まるで呼吸するように、ゆっくりと揺れていた。
彼はすぐに部屋を引き払った。
今は別の場所に住んでいるが、カーテンは自分で選ぶようにしているそうだ。