登校日
僕が中学2年のときの話だ。
8月17日――お盆明けの登校日。
朝から蒸し暑くて、蝉の声が耳にまとわりつくようだった。
久しぶりに制服を着て、だるい体を引きずるようにして学校へ向かった。
教室に入ると、空気が重かった。エアコンはついているはずなのに、じっとりと汗がにじむ。
僕の隣の席には、男子が座っていた。
制服も髪型も、特に変わったところはない。
でも、顔を見た瞬間、違和感が走った。
「……誰だったっけ?」
一学期ずっと隣だったはずなのに、名前が出てこない。
休みボケで記憶がぼんやりしてるだけかもしれない。でも、どうしても思い出せない。
出席を取るとき、先生はその席を飛ばした。
その子は、ずっと前を向いたまま、何も言わなかった。
僕は話しかけようとしたけど、声が出なかった。
何か、話しかけてはいけない気がした。
家に帰ってから、兄の部屋にあった卒業アルバムを開いてみた。
そこに「佐々木翔太」という名前があった。
写真の中の彼は、今日見たあの男子と、まったく同じ顔をしていた。
母に聞くと、「ああ、その子ね。ずっと病気で学校に来られなかったって。夏休みの初めに亡くなったって連絡があったよ」と言った。
始業式の日、隣の席がぽつんと空いているのを見て、ようやく思い出した。
進級してから、そこには誰も座っていなかったことを。