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 あくまで接客業だと亜蘭は常々そう言った。客を悦ばせる為に踊り子は存在する、と。


 舞いの時間が終われば妖艶さは立ち消えとなる。雲の上にいる者がそこから急に降りてくる、この対比がまさに客の心を掴むのか。さあ、目いっぱい楽しんでくださいね、などとこれまで目にしたこともないほどの満面の笑みで亜蘭は客に酒を注ぎ、それから三味線弾きの面白おかしい演奏と共にかけ声をかけつつ手拍子をしながら一気飲みを促して、客がそれを飲み干せば大いに囃し立てた。亜蘭もまた酒を一気に飲み干して、客は大いに悦んだ。天羅の町の飲み屋とそう変わらない。踊り子がいるかいないかの違いくらいか。俗っぽくありつつ決して下品にならない、そういった匙加減を存分に知り尽くしているかのような踊り子が、いるかいないか。


 ようやく一人の客が夕廉の存在に気づく。見習いさんか、と。夕廉と申します、とのそれが吃音のようになって笑われる始末である。


 いいね、とその女は夕廉の耳元に口を寄せる。真っ赤な唇である。子供なのに妙な色気があるわ。真っ赤な爪がまた夕廉の腿のあたりに寄ってくる、卓の下に器用に隠れながら。あんたいくつ? その指が踊るようにまさに蜘蛛のように夕廉を包む絹を一枚捲って中に侵入してこようとする。お姉さん、なりません。上ずるその声は酒の場の愉快な声にかき消され、踊り子がそんなこと言うもんじゃない、女の声がねっとりと夕廉の耳を這う。


 まるで見ていなかったはずだ、亜蘭は一人で三人の相手をしていた。しかし見ていたのだ、すっと立ち上がると寄ってきて、夕廉の絹の下をまさぐる女の手首を掴んだ。

「お姉さん、すいません。踊り子はそういう対象じゃないんです」

 美しく並んだ白い歯が眩しい。横に引っ張られた唇に乗った艶やかな潤いも、にこやかに笑う目の上に輝く宝石の粒のような光も、また。

「あれだけ舞いで誘っておきながら何なの」

 ばつの悪そうな顔とはこれのことか。女は亜蘭のそばで妙におとなしくなった。

「それが踊り子です」

 亜蘭は言う。満面の笑みのまま。それ以外に答えなどないかのように。



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