9.待っててあげますから。(冗談ですけど)
今日はテオさんとのお別れの日だ。
昨日あの後からずっと会話をしていない。
今も食事を囲んでいるけれどお互いに何も言わない。
こんなお別れをしたかったわけじゃない。けれど、仕方なかった部分はあると思う。
そう言い訳をしながら送る準備をしていく。と言っても王都に送った後のことを聞いていないので彼に聞かないと終わらないのだが。
…気まずい…けど聞かないと困らせるし…。
ソファで紅茶を片手に食休めをしている彼に近づき、声を掛ける。
「…テオさん。王都に着いた後はどうするんですか?」
「…帰らないとダメか…?」
捨てられそうな子犬みたいな顔をしてこちらを上目遣いで見てくる。
こちらが悪いことをしている気になるのでぜひやめてほしい。だからといって甘やかす気は更々ないが。
「ダメです。」
「…そうか。王都にタウンハウスがあるからそちらに行く予定だ」
「そうなんですか。じゃあ、特に旅支度とか必要なかったんですね。」
「ああ」
「…。」
「…」
…気まずい。さっさと旅支度に戻ろう。
そう思ってその場を後にしようと一歩踏み出した時、後からギュッと抱きしめられ、右肩辺りに顔を埋められているのが分かる。首筋に当たる彼の髪や吐息が少しくすぐったい。
「…もう一度言う。好きだ、セナ。結婚してここで共に暮らそう。昨日も言ったが、私は貴族だ。戻ってしまったら一緒に生きていくことは難しくなる。だからもう一度考え直してくれないか。頼む。」
…きっと沢山考えたのだろう。
そして悩んだことだろう。
でも彼はここに居続けていい人ではないと思うから。
ちょっとだけ、卑怯なことをしよう。
振り返って上目遣いで瞳を覗き込むと彼は困惑したように身じろいだ。
「…不可能ではなく、難しいんですね?」
「?…ああ。」
「なら、ちゃんと迎えに来て下さい。」
「!それは!」
「はい、待っています。ここで、あなたのことを。10年でも、20年でも。」
「セナ!」
「でも!私まだ、テオさんのこと好きになれていないので、迎えに来てくれた時は、ちゃんと好きにさせて下さい。」
「ああ、任せておけ。」
きっと、これで大丈夫だろう。
王都にはかわいい子もきれいな子も沢山いるだろうし、貴族なら政略結婚もあるだろうからそのうち私のことなんて忘れてしまうだろう。
そう、狡い自分を納得させている時だった。
「…?!」
唇に何か柔らかいものが押し当てられ、すぐに離れていった。そしてすぐ近くには頬を上気させたテオさんの麗しい顔がある。
何をされたのか理解した途端に顔が熱くなっていく。今の私は茹でダコのように真っ赤になっていることだろう。
そんな反応を見たからか、彼はこれまで見たことのないとても嬉しそうな笑顔を浮かべている。
イケメン本当に狡い!!!
「惚れたか?」
「惚れてません!」
「だが、意識はしただろう?」
「してません!」
「ムキにならず、認めたらどうだ?」
「なってません!」
…気まずさは解消されたけど、揶揄われるようになってしまった。おかげで準備は進まないし、何か気になり始めている自分がいるし、もう本当に勘弁してほしい。
そして、転移魔法で王都にテオさんを送っていく。
「あの家でずっと待っていますから。」
「ああ…。最後に、テオ、と呼んでくれないか」
「分かりました、テオ。…行ってらっしゃい!」
「ああ!行ってくる…!」
こうして私とテオの共同生活は幕を閉じた。
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