8.帰りましょう?/なぜ…?(テオ視点)
テオさんが帰らない。貯金もマジでヤバイ。
そして最近は夏に近づいてきて暑くなったので、水魔法と風魔法でエアコンを再現して部屋の温度を下げている。
だが彼と私では体感温度が違うのか、私に合わせると彼は暑く、彼に合わせると今度は私が寒い。
仕方なく彼に合わせて部屋を冷たくして私は毛布を被っている。このエアコンもどきのやり方を彼に教えて出来るようになったはずなのに自分でやろうとはしないし。
しかも、暑い日にアイスやかき氷(凝ったやつ)を出してから彼に気に入られてしまった。なので毎日作っているのに部屋が寒すぎて食べられないし、置いておくと勝手に食べられている。
もう勘弁してくれ。
というわけでテオさんの事情に首を突っ込むことにした。
この際関わりたくないとか言ってられない!
いつものようにソファに腰かけて読書をしている彼に近づき、問い質す。
「テオさん。いつになったら帰るんですか?待っている人がいるはずでしょう?」
「それは…。」
言い淀んでいる彼は珍しい。初めて見たのではないだろうか。
それほどまでに大きな事情を抱えているのだろう。複雑そうな様子にちょっと聞いたことを後悔している。
そんな後悔に駆られている私に対して彼は意を決してというような表情を浮かべている。
「…帰りたくないんだ。」
…どういうこと?
「…帰りたくないと言うのは、帰ると何かあるんですか?」
「いや、無いな。」
「…ご家族と仲が良くないとかは…?」
「至って良好だ。」
「…同僚と折り合いが悪いとかは…?」
「皆いい者達ばかりだ。」
???
「…本当に何もないんですか?」
「無い。」
「…じゃあ、なぜ帰りたくないんですか?」
「ここの居心地がいいからだ。」
「…。」
…なんもないんかーい!!!!!マジかーーー!!!
ちょっと前に後悔したことを後悔したわ!!!何よ?帰りたくないって!!!我儘か!!!
正直彼の発言にイライラし始めている。
私は彼が元の生活に戻れるようにと思って治療もしたし、看病もしたのだ。
彼が貴族で騎士だろうから人を使う立場だから何もさせまいとしていたし、いつも命を懸けて守ってくれているから一市民として身体をしっかりと休めてほしいと思っていた。
それを、それを!この男は!!!
…いや、私も悪いは悪い。
不敬罪が怖すぎてもてなし過ぎたということだ。でもこれはこれ、それはそれ。
帰ってもらわないといけない。彼を待つ人がいて、居場所があることが分かったのだから。
「…それならあなたは帰るべきです。」
「だが、私は…。」
「帰る場所があるんですよね?」
「…ああ。」
「待ってくれている家族や仲間がいるんですよね?」
「…ああ。」
「なら、帰りましょう。きっと皆さん心配しているはずです。」
「…いや、帰らない。」
何でこんなに頑ななんだ…。
本当に待っていてくれる人たちがいるのに何で…?
頭の中に浮かぶ疑問は消えないが、それでも言葉を重ねていく。
「帰りましょう。転移魔法で送りますから。どこですか?」
「言わない。」
「言ってくれないと、帰れないじゃないですか。」
「帰らない!絶対に!」
…めっちゃ駄々捏ねるな、この人…。
こんな人だったのか…。
余りの往生際の悪さに正直ドン引きである。イケメンが台無しだ。
しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
「どこですか。王都とかですか。」
「…違う。」
…多分、王都だな。とりあえず鎌かけよう。
「分かりました。王都ですね。明日送ります。」
「な?!明日?!やめてくれ!頼む!」
「…王都で合ってるんですね。」
「あ…。」
こんなにあっさり認めて大丈夫か、この人。
貴族なんだよね…?
帰った後の心配をし始めている私にこの後彼はソファから立ち上がってとんでもない爆弾を落とした。
「セナ!私はあなたが好きだ!傍に居たいんだ!だから!」
…何言ってんの、この人。
これで帰らなくて良くなると思ってんのか?
本格的に心配になる。王都で詐欺師に騙されやしないだろうか…?
ここで真に受けたりはしない。
でなければこの数か月の共同生活は成り立っていないのだから。
「ああ、ありがとうございます。じゃあ、明日帰りましょうね。」
「本気なんだ!私は貴族で、平民のあなたとは本来結婚出来ない!だが、このまま死んだことにすれば私はあなたと生きていける!だから、ここでこれからも共に暮らそう!」
告白され、正面から力強く抱きしめられる。
ここまでされると信じる以外にない、けど。
…テオさん、やっぱり貴族だったんだな…。しかも私を好きかぁ…。
全く実感が湧かない。抱きしめられても特にドキドキしない。
私は、テオさんに恋をしていない。
それが分かったならばしっかりと振るべきだろう。
気を持たせてはいけない。
「テオさん。私はあなたのことを人としては好きですけど、男性として見たことはないです。なので、諦めて下さい。」
「え…?」
私を抱きしめていた彼の腕を離してもらい、しっかりと目を見て振る。
そしてその彼は振られると思っていなかったんだろう、茫然として私の顔をじっと見つめている。
帰る意味がちゃんと分かるように再度、言葉を重ねていく。
「ここに居ても報われないだけです。」
「…。」
「それに、帰ってちゃんと生きていることを伝えないといけませんよ。心配しているはずですから。」
「…。」
「テオさん?」
「…。」
そんなにショックだったのだろうか。
立ち尽くして反応のない彼に「明日、王都に送ります。」とだけ伝えて部屋に残し、自室に戻った。
明日からまた一人になる。それはとても寂しい。
けれど家族が、友人が、生きていてくれたことを知った人たちはとても安心し、喜ぶことだろうから。
最後まで笑顔で見送ってあげないと。
…なんで振られたんだ?何がダメだった?なぜだ?
いつも笑顔でいてくれたではないか。
うまい料理を振る舞ってくれたではないか。
魔法を懇切丁寧に教えてくれたではないか。
優しくしてくれたではないか。
他にも…。
…。
…。
…。
…だが、私に恋情を抱く令嬢たちのような、熱の籠った視線を彼女からは一度も感じたことはなかった。
それは、そういうことなのだろう。
今更そのことに気が付いても、もう遅い。
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