7.生きていてくれ…(セシル視点)/今日もクッキーうまい(その頃のテオ)
「今日も発見されませんでした。」
「そうか…。ご苦労だった。下がれ。」
「ハッ!」
報告を終えた近衛騎士は礼をして部屋を出ていく。
この部屋に残っているのはエヴィルシア王国第二王子、セシル・リィ・エヴィルシアである私と護衛のフィン・ガルシア第三近衛騎士団団長代理にジャスパー・オルグルス騎士団総帥の三人だけだ。
本来であればフィンの熟している役割は違う者が務めているのだが、今その人物は行方不明になっている。
この国、エヴィルシア王国は大陸の南に広大な領土を持つ自然豊かな国である。
私の父にあたる国王は国と民を思いやり、慈しみ、日々政務に明け暮れている。
その父に倣い、兄である王太子ジェイク・リィ・エヴィルシアと共により良い国にしようと毎日政務に励んでいる。
王太子であるジェイクは頭脳明晰で公明正大な人物なため王に相応しいと私を含め、誰もが認めている。
しかし貴族の中には野心を抱き、次期国王に私を祭り上げようとする者もいる。
その者たちのせいで彼は…。
「…殿下。もう諦められてはいかがでしょうか。これだけ兵を導入して探しているのです。生存は絶望的でしょう。」
「だけど、目撃情報が出ているんだ。それも何件も。」
「それはそうかもしれませんが、銀髪碧眼の人物などこの国だけでどれほどいるとお思いですか。」
「…。それでも、諦め切れないんだ…」
「殿下…」
彼は、テオドール・リィ・アルガータ第三近衛騎士団団長は私が留学からの帰還中に暗殺者からの襲撃を受けたことにより、行方不明になってしまった。
彼の生家であるアルガータ公爵家では家族総出で大規模な捜索が今も行われており、彼を探し回っている。
そして彼のおかげで私は生還し、襲撃者を捕らえることが出来たのだ。
衝撃者たちは王太子が私に差し向けた証拠を現場に残して兄の権威失墜を狙ったのだそうだ。
それなのに捜索を打ち切ってしまったら、公爵家は不信感を抱き、王家から離れていくことだろう。
私に先程苦言を呈したフィンは彼の幼馴染だと聞いている。
きっと心の中では捜索をやめないでほしいと思っているはずだ。しかし一臣下でしかない彼を捜索し続けていることに反発する貴族が出ているこの状況では私の立場が悪くなる。それを心配してくれているのだろう。
…それでも。
「捜索は継続する。これは決定事項だ。」
「…ありがとうございます、殿下。」
「礼なんていらないよ、私の独断なんだから」
「それでも、です。」
感謝の言葉とともに深々と礼をするフィンに同じ志の者がいることを再確認し、安堵する。
やはりフィンも諦め切れないのだ。私も彼の友人だから、気持ちは痛いほど分かる。
今まで黙って私たちの話を聞いていたジャスパーがこの暗い雰囲気を消し飛ばすように明るく発言する。
「まあまあ、お二人さん!あいつの顔はあの男前っぷりですからな!目撃情報だってあながち間違ってないと思いますぜ?俺は!」
「それは、そうかなと私も思いましたけど、女性と一緒だったって…ありえないでしょう?!あのテオが女性と一緒とか!…失礼致しました。」
「構わないよ。それもそうなんだよね。あの女性嫌いで有名な彼が、女性と一緒に居られるものかな?」
「でしょう?!しかも、仲睦まじい様子で食事をしていたとか、買い物をしていたとか!信じられますか?!」
「そうだよね。それに目撃情報では、王都から遠ざかったり、近づいたりしているんだよね…。」
「それはただの誤情報が混ざってる可能性もありますぜ?あの仕事人間が返ってこようとしないとか考えられないからな!」
「そうだね。何か事情があって戻るのが遅れている可能性もあるしね。捜索を続けながら帰りを待とう。」
「「ハッ!」」
…テオドール。君の帰りを皆が待ちわびているよ。
私も、一日でも早い帰還を願っているから。
「クシッ」
「風邪ですか?」
「…いや、何でもない。」
「そうですか?体調が悪くなったらすぐに言ってくださいね。」
「分かっている。」
その頃のテオドールはセナの家でソファに横になって読書をしながらクッキーを摘まんでいた。
その周りには掃除して回っているセナがいる。
どこからどう見ても立派なダメ男である。
しかもこの男は「もう帰らなくてもいいよな。」と、友人の気持ちと捜索隊の働きを踏みにじるようなことを最近思い始めている始末である。
この状態を彼のことを知る人が見たら驚愕し、本人か疑ってかかることだろう。
それ程までに今の彼は変わってしまっていたのだった。
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