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43.女子会ッ!………のはずだった

私が異世界人ということで年末年始なのに王侯貴族達はてんやわんやらしい。


セシル殿下には翌日に直接事情聴取をされて頭痛を抑えるような仕草をされたけど、お咎めは特になく。それ以降は何かと理由を付けて文官さんやら騎士さんやらが私を訪ねてくるようになった。


テオには夜会終了後すぐに謝罪をした。謝る必要はないと言われたけれど、その時の彼の表情は言葉に表せない。

綾と再会することがなければ一生知ることもなかった事だと、理解しているからだろう。


私達を隔てる溝が、また広大になっていく。






「あけおめ!」


非公式の場だからか、ゆったりとした服装で登場した綾は輝くように笑んでいた。


私と同じく王宮に滞在しているためスムーズな連絡ができたので、年明けすぐに場を設けることができたのだ。


「あけましておめでとうございます」

「堅っ苦し!」

「ビクトール王太子殿下もセシル第二王子殿下もいらっしゃるんですもの。それに、あんたも一応国賓だからね?」


そう。この場には私達だけではなく、他国の王太子に自国の第二王子、ついでに護衛としてテオもいる。

生まれながらに王侯貴族な彼らが王城内の常に誰かしらの視線のある場所でカジュアルな格好をしているはずもなく、綾の服装だけが浮いていた。


その当の本人だけが気にした風もなく、あっけらかんとしている。


「そやったわ。それでその格好かあ」

「うん。ほんのちょっと後悔してる」


メアリさん達に言われるがまま支度をしたけれど、そのお客さんがこんなにラフな格好をしてくるなら私もそうしたかった。冬だから普通に寒いし、そのくせ重いし。ホント羨ましいわぁ…。


いやまあ、綾が可笑しいのであって彼女達に従って大正解なんだけども。楽してる人を間近で見ると私も楽したかった!って思ってしまう。


「今度からそうしぃよ。どうせあたしらだけやったら気ぃ遣うことないんやから」

「私らだけだったらね?この場においては無礼以外の何者でもないからね?」

「しゃあないやん。飛び入り参加して来る方が悪いんとちゃう?」

「それはそう」


同意見過ぎて反射で綾に同意してしまい、ハッとして飛び入り参加組を見遣ると苦笑交じりに眉を下げていた。


「申し訳ございません…!緊張してしまいますので、その…。もう少し時間が欲しかったと言いますか……」

「いいよ、本当のことだから。直前になって連絡を入れることになってすまないね」

「申し訳なかった」


非公式の場とはいえ、王族からの謝罪。

心臓に悪いことこの上なく、私はとっさに「大丈夫ですから!」と反応した。


のだが。


「ホンマやで?女子会に男子が入ってくるとか普通ありえんよ?」


綾は誰であろうとそのスタンスを変えないらしい。

でも、私は焦りしかない。100%意見が同じだとしても。


「まあまあまあまあ。そんなことよりさ!ご飯食べよ?料理人さん達に色々リクエストしといたから!ね?」


私の合図を皮切りにそれぞれの目の前に料理が配膳されていく。


「…せっちゃんと話したかったんやけどなぁ。まあええよ」

「感謝するよ。私達のことは居ない者として扱ってくれていいから」


ワンプレートに盛り付けられたオムレツカレーに唐揚げトッピング、エビフライにタルタルソース、ポテトサラダ、バゲット、真ん中にはドンッとハンバーグが鎮座する。


視界に入った瞬間から表情を一転させた綾は瞳を輝かせた。不満はどこかへ飛んでいったようで一安心だ。


「ほぼお子様ランチやん!」


引け目を感じてそうな王族二人もワンプレートのご飯に興味津々なご様子。

テオは好きなおかずがひとつにまとまったランチに、綾の引けを取らないくらいに喜んでいた。それに気づけたのは私だけだろう。


「大人のお子様ランチよ。全部食べられていいでしょ?」

「うん!てか、こっちにカレーってあったんや!」

「私がレシピを提供したの。凄いでしょ!」

「すごいんやけどもう我慢できへん!食べてええ?」

「どうぞどうぞ」


言うが早いか、綾は大口でカレーの掛かったオムレツを頬張っていた。もごもごとお肉を噛み締めながら「うまっ!いただいてまふ!」と食事の挨拶を済ませているのは少し行儀が悪いけれど、それだけ久しぶりのカレーに感激しているという証拠。


そのマナー違反に困惑や諦念、混乱に場は陥っているけども。


「一応私以外も居るんだから…」

「カレーの前ではどうでもええやん」


がっつく綾には何言っても無駄だと思えてきたので、注意することを放棄して私もカレーを食べる。

甘さの中にスパイスの風味と辛味、何より素材の旨味をこれでもかと感じる。これが美味しくない訳がないと言い切れるカレーだ。


強いて言うなら。


「カレーライスが食べたいわぁ…」

「それなんだよねぇ…お米ないのかな」

「これ醤油で漬とんやろ?ならあるんちゃう?」


唐揚げにフォークをぶっ刺して持ち上げ、私の方に向けて主張する。その唐揚げは次の瞬間には綾の口の中に納まっていた。


「期待しちゃうよね~」

「醤油はどこで見っけたん?」

「港町」

「よし!探しに行くぞ!」


突然立ち上がった綾はフォークを天に掲げて宣言する。その先にはタルタルソースの乗ったエビフライが刺さっていた。


フットワークの軽さは素晴らしい事だと思うが、護衛しないといけない周囲の人間からしたらこのクソ忙しい年始に仕事を増やされては迷惑極まりない。

私の事でも予想外の事態が起きているのに、これ以上は手が足りないと思われる。


「無理に決まってるでしょ。大人しく食べなさい」

「はーい!」


元気よい返事の後、素直に座り直して食事に戻った綾が私には信じられないでいた。




食事を終えてしっかりとデザートのプリンまで頂いた後、第二王子殿下と護衛のテオは仕事を理由に退席していった。


その背を見送る綾の瞳はニヤニヤとしていてちょっと気持ち悪い。


茶髪茶眼と事前に聞かされていたけれどこう改めて見るとやっぱり限りなく黒に近い。夜会の時はシャンデリアの光で茶色に見えていたのだろう。それで言うと、王太子殿下も自然光の下では黒髪に見える。


「テオさんやっぱかっこいいなぁ!」

「そう?」

「どっからどう見てもそうやろ!いいな~」


小さくなっていくその姿を綾に倣ってちらりと視線を移し、テオの横顔を観察する。

どこから見ても美形なのは確かにその通りだ。ここまで来ると嫉妬すら湧かないレベルの黄金比率と配置。


「見た目だけね。見た目だけ」

「あの顔面やったら何でも許せるわ」

「私は無理」

「ちなみにテオさんのどこが不満なん?」

「顔面以外ほぼ全部」

「それは流石に言い過ぎやって!」


神の造形だとしても価値観が合わないのでは難しい部分がどうしても出てくる。それをすり合わせる時間がお互いに捻出できないのであらば尚更。


私と同じ平民で、騎士団長じゃなくて、あんな出会いじゃなかったら。

相手も私が貴族令嬢で、精霊契約者じゃなくて、異世界人じゃなければって思ってるかもしれない。


それだけ相反する軸が存在しているから、どうしても難しい。


「だって、事実だし」

「…ならさ」

「うん?」

「…いや、何でもないわ!それでなんやけどさあ~………」


綾が言い淀んだ一瞬、とても真剣な顔をしていた気がした。

でも、いつもの明るい笑顔が何事もなく話を続けるから見間違えなんだろう。



どことなく違和感を感じたものの終始楽しい雰囲気でランチの幕は閉じた。

最後までお読みいただきありがとうございます!

ざっくり10月頃にセナ達の婚約者同士になったので、結婚式もそれくらい。

舞踏会はお披露目プラス婚約式も兼ねていた。授爵式はまだ。

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