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42.混乱を招くタイプの精霊契約者

「…お話し中失礼してもよろしいかな?」


キャッキャウフフと女子トークに華を咲かせていると、これまたテオとは種類の違ったイケメンさんが話に割って入った。貴族名鑑にこんな人がいたかどうか全く思い当たらない。でも、この場にいて私達に話しかけてくるということは多分綾のエスコート役をするパートナーだろう。


もしかすると、婚約者だったり…!?


「え、ええ…。そちらの方がどなたか、ご紹介して頂けるかしら?」


もう時すでに遅しかもしれないけれど、第一印象は良くしておかないと。

これからも綾と仲良くしていく予定だからお世話になる時が来るかもしれないし。


「せっちゃんのお嬢様口調めっちゃ変!」

「いいから!紹介!」


相手からの印象が決まるという時にお茶らけないで欲しい。色々と似合ってないことは本人が一番わかっているんだから!


「サーイエッサー!こちらミュラ公国王太子のビクトール様」


艶やかで滑らかなウェーブを肩に流す、この世界では在りがちなダークブラウンの髪。ただこちらを見ているだけなのに濡れたような色香を帯びる、宝石と見紛う翡翠の瞳。

どことなく危ない雰囲気を醸し出していて、左目の下にある涙黒子が更に拍車を掛ける。


目に毒という言葉はこの人の為にあるのかもしれないと、馬鹿なことを考えるほどに色気が凄まじい。


「お初にお目にかかります、精霊契約者殿。ミュラ公国王太子、ビクトール・フォン・ミュラと申します」


婚約者じゃないっぽいね。

にしても、低音の落ち着いた声が外見とマッチしすぎて意味が分からん。どうなってんの、この世界。


「お会いできたこと光栄に存じます。聖の精霊セレーネ様と風の精霊シルフィード様と契約しております、セナと申します。以後お見知りおき下さい」


講師の先生たちを倣った定型文で自己紹介をした。何度も何度もイメトレと練習を重ねておいて良かったとしみじみと思う。


「あたしせっちゃんの婚約者さんも紹介して欲しいな!あと、精霊さんも!」


どうにか難所を超えたことに安堵していると、まったく合わせる気がないと言わんばかりに紹介を強請る。こういう綾の性格を私も是非見習いたいような、見習いたくないような。


「そういえば紹介まだだったわ。こちら婚約者のテオドール様。で、こちらが風の精霊シルフィード様と聖の精霊セレーネ様」

「…テオドール・リィ・アルガータと申します。第三近衛騎士団騎士団長を拝命しております」

「セレーネですわ」


シルフィ様は名乗る気がないのか、顔を背けていたが綾はまったく気にならないらしく、美しい絵画を観賞するようにうっとりとしていた。


「系統の違う美形さんやなぁ…。せっちゃんって面食いやったっけ?」


確かにテオは恐ろしく整った顔立ちをしてるんだけど、騎士団長をしているだけあって身体つきが男らしく。シルフィ様は線の細い中世的な美人さんで、セレーネ様はおっとり系の可愛らしさも兼ね備えた美女。


それぞれの顔を改めてみると、面食いと思われても仕方ないが。


「違うよ?」

「やんな?」

「まあ、良いに越したことないんじゃない?多分」


世間一般的には。もしかしたら綾と同じくこの世界の神様も面食いなのかも?


「適当やな…」

「そちらの王太子殿下も麗しいじゃない」


麗しいというか色っぽいというか何というか…。


「毎日目の保養になってるで!」

「でしょうね!」


どちらともなく笑い合う。ホント、昔に戻ったみたい。




「その、少し確認したのですが」


ミュラ公国の王太子殿下がおずおずといった様子で苦笑を浮かべていた。

垂れ目の眦をさらに少し下げているのが、何とも言えない。


「失礼致しました。お話があったのですよね?」


私が笑みを向けて問いかけると綾も「あ!ごめ~ん!」と、まったく悪びれた素振りのない謝罪をした。王太子殿下に対してこの態度を取れるのが凄いわ。しかも公の場で。


それだけ異世界人って厚遇される存在ってことなのかな?


「…セナ殿は、アヤノ様とはどのような御関係かな?」

「幼稚園からずっと友達です!ね、せっちゃん!」


笑顔で同意を求めてくるが、そういえば誰にも何も言ってなかったなあ…と思い至る。

まあ、隠しても今更よね。


「解りやすく申し上げますと、私も綾と同じ世界から来た異世界人でございます」


隣からヒュッと息を呑むのが聞こえた。


「そう、でしたか。そのようなお話は聞き及んでなくてね…」

「誰にも伝えてませんから、知らないのも無理ないと思いますよ?」

「誰にもって!せっちゃん婚約者さんにも伝えてないん?」

「言ってないね」


戸惑っている二人にと軽い一言を告げると、綾は大袈裟なほどに驚愕を露わにしていた。


「どして?!」

「ミュラ公国から異世界人が来るよって聞かされるまで自分でもすっかり忘れててね~」

「忘れるか?」

「現に忘れてた人がここに居るよ!」

「…それだけ大変な思いしてきたってことやんな…」


ドンッと胸を叩いて誇示すると、返ってきたのは呆れではなく同情的な視線だった。

なんか、思ってたのと違うんだけど…。


「そんなしんみりされても困るんだけど。終わったことは気にしても仕方ないよ?」

「…それもそやね!にしても、婚約者さんとちゃんとコミュニケーション取らないかんよ?」

「それもそうなんだけど。タイミングを逃し過ぎてもう何を話していいのかさっぱり分からなくてねぇ…」


切実に困っているから是非アドバイスが欲しい。


「コミュ症か!普通に趣味とか好きな食べ物とかから話広げたらええやん」

「なるほど?そういえばそこら辺のこともあんまり知らないわ。今度やってみるね」

「…それでどうやってこんなイケメンと婚約したんよ!私や、婚約者のこの字もないのに………!」

「成り行きよ。成り行き」


二択で異常な引き運を発揮したともいうかもしれないけども。

にしても意外。異世界人を囲いこみたい人なんて五万と居そうだけど、言い寄られてないっぽいのすごいな。

それだけ慎重に動いてるってことなのかな?


当の本人は「ズルいズルい!」と悔しそうにしてるけど。

まあ、何にせよ…。



「ファイト!」

「合コンとかセッティングしてよぉ…!」

「そちらの王太子殿下にお願いして」

「それは流石に無理」


お見合いはないのかなと思って口を開こうとしたが、テオが組んだ腕から合図を送ってくる。


「…その。積もる話もあるとは思うが、他の方々も待たせてるからそろそろ切り上げてくれ」

「分かりました」


耳打ちで彼から伝えられて、ちょっとやらかしたかなと遅すぎる焦りが込み上げてくる。


「綾。このままだと夜中まで話し込んじゃいそうだから予定を合わせてまた今度ゆっくり話さない?」


何かを話そうとしていたのを割り込んで断りを入れる。

綾は気にした風もなく、周囲を見渡した。


「そうしょっか。いつまでもせっちゃんを独り占めしたらいかんやろし」

「ごめんよ~。精霊契約者ってことで王宮でお世話になってるから、いつでもいいからそっちに連絡ちょうだいね」

「りょ~かい!じゃね、せっちゃん!」

「バイバーイ」

「懐かし!バイバ~イ!」


不意に零れた気安い友達にかけるような言葉に綾も嬉しそうに手を振って私から離れていった。




そして、ふたりが訪れるまで私達に群がっていた貴族達がまた話しかけてくることはなかった。

立花瀬奈の時系列

・こっちに来たのは大学四年生の初夏(当時21)。

・日銭を稼ぐ日々を約半年(冬頃の年明けくらい・22になって少し経つまで)。トムおじいちゃんと過ごす時間が一年弱(ギリギリ23歳の誕生日を祝ってもらえなかった)。

・舞踏会の前日が誕生日(24歳)だった。


※作者の初期設定ではこんな感じの時系列なんですが、既に矛盾が生じている所もあるかもしれません。完結後に話の流れは変えずに修正する予定です。ご容赦ください…<(_ _)>

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