37.指揮官って大変だなぁ
街に到着する前に巡回中の騎士達に遭遇した。
ローブを取り出して羽織ってはいたもののすべては隠し切れておらず、ボロボロと言って差し支えない姿に心配を掛けてしまった。しかし、飛竜を討伐してきたと報告すると、歓声と茶化したような抗議が湧き上がった。
長い事王都から離れているから帰還を望むのも、功績を上げたかったと思うのも分かる。
批判は甘んじて受け入れようと思う。
伝令に走った騎士を見送って自分達はゆっくりと街へと戻った。
まだ飛竜が討伐された事が周知されていないのか、警戒と不安が入り混じっていた。
テオが指揮を執る代官邸へ急ぎたかったが、貴族の御前に晒していい格好をしていなかったため着替えを余儀なくされ、その後報告へ向かった。
既に伝令を受けていたテオに独断専行した事をこっぴどく叱られた。
領主も代官もいる前で。
確かに単独行動したけど別に見回り中とかではなく、倒しに行ってはいけないとも言われていないと思うの。
割と自由行動も認められていたし。
でも、それを言うと説教が延長しそうだったので、甘んじて受け入れて反省した。
最後にもうしないことを約束させられた私は卵と飛竜の死体を置いてから、騎士や魔法士達と共に宿泊先へ帰された。テオは領主たちと周辺貴族への情報伝達等々の事後処理があるらしい。
宿泊先に戻ってくると皆からの称賛を浴びたが、そそくさと部屋に退散して真っ先にお風呂に入った。
着替えるだけでは何だか気持ちが悪かったので。
さっぱりしてからはソファに腰かけていたのだが、慣れない森歩きで予想以上に疲れが溜まっていたらしく、いつの間にかそのまま寝てしまった。
目が覚めた時には窓場は既に茜色に染まっていた。
併設されている食堂へ行くためにその廊下へ出ると、テオに出くわした。
昼間に見た時よりもずっと顔色が悪いように思う。
「テオ?本当に大丈夫なのですか?」
「…ああ。問題ない」
いつもより反応も遅い気がする。
「食事はもう摂りました?」
「…いや、まだだ」
このまま見て見ぬふりは後々気になり過ぎて眠れなくなるんだろうな。
そんな未来が容易に想像できて内心溜息を吐く。
「食堂で食事をもらってくるので、テオは私の部屋で待っててもらえますか?一緒に食べましょう」
「いや…私が取りに…」
「今の顔色、分かっていますか?上官がそんなんだと皆を心配させちゃいますよ。大人しく待っててください」
「…分かった」
渋々といった様子で了承を取り、部屋へ招き入れる。
彼がソファに腰かけたのを視認してから食堂へと向かった。
二人分の食事を受け取り、すぐさま踵を返して部屋へ戻ると、ソファに座っていたテオはそのままの体勢で寝息を立てていた。テーブルに食事を置いて肩を揺するが、特に反応は返ってこない。
「テオ、起きて下さい。食事持ってきましたよ」
「…ん………」
瞼はほんの少し動いたが、食事を出来るような気配は全くない。
起こすことは諦めて、せめて少しでも疲れが取れるように横になってもらおう。
「テオ。ベッドで寝ませんか?」
「……」
「せめて横になるだけでも」
「…ん……」
テオに手を引かれてソファに腰を下ろすと、私の膝にストンと彼の頭が乗せられた。
聞き耳を立てると、もう寝息を立てていた。
流石にこれで起こすのは気が引けて、とりあえずアイテムボックスから毛布を取り出してテオに掛けておく。
自分も毛布に上半身だけ包まって、嫌味なくらいにさらっさらなテオの髪をゆっくりと撫でる。
仮眠から目覚めたテオは幾分かマシな顔色をしており、運んだ食事も全て平らげ、食欲があるならとアイテムボックスから出したクッキーやマフィンなどのお菓子もしっかりと食べ切った。
仕事なんてせずにしっかり寝るようにテオに念押しして部屋に返すと、忠告を守ったようで顔がすっきりとしていた。
そして、二体目の飛竜の討伐が完了から三日後。私達は王都に帰還した。
往路は王都民へのパフォーマンスということで転移魔法の許可が下りなかったけれど、滞在期間が長引いたために帰路は許可が下った。王都へ一瞬で戻ってくることが出来て、一緒に討伐に参加した面々からはとても感謝された。
クッション材を贅沢に使用した馬車と謂えど、現代日本の移動手段に慣れている私では未舗装路の独特な揺れや長時間の移動はキツイものがあった。出来れば乗りたくないと思ってしまうのは仕方がない。
帰城してメイドさん達に荷解きを任せて紅茶を飲みつつ、報告を受ける。
私達が王都を離れている間に私のお披露目会の日程が決まったのだそうだ。
大体今から一月後。
それまでに礼儀作法やダンスを詰め込んでいくとのこと。
討伐が終わったというのにゆっくり出来そうになくて気落ちした。
「精霊契約者のセナ殿も来ているのでしょう?一度ご挨拶をさせて頂きたいのですが…」
「申し訳ないが、彼女は今回一介の筆頭魔法士として任務で来ている」
「そうでしょうが、何卒お願いできませんか?」
「遠慮願おう」
「いやはやそこを何とか…」
しつこくセナとのコンタクトを取ろうとする貴族達の防波堤をしていたテオドール。
セナが飛竜を討伐してからは日に日に貴族の勢いは増し、業務量も増加し…。
二体目を単独撃破したことにテオドールは内心すっごく複雑な感情を抱いていた。




