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35.功績稼ぎ

今、私とテオは第三騎士団と共に飛竜の目撃情報のあった森の奥地へ向かっていた。


この時期は飛竜の産卵時期であり、万が一飛竜の番が巣を作り、卵を孵している場合に備えて騎士団が派遣される事になったのだ。産卵時期の飛竜の番は卵を守るがためにとても狂暴になる。本当に危険な任務だ。


たぶん私の功績上げろ発言からお偉いさん方が検討した結果、テオと私も同行する事になったんだと思うんだけど、第二王子殿下の「精霊契約者に危険な任務は容認できない」という発言を裏切る難易度だと思うの。


まあ、風の精霊であるシルフィ様がいるからっていう期待もあるのかもしれないけどね。

それに私攻撃魔法は苦手だけど、補助魔法のほとんどを行使できるのだ。空飛ぶ飛竜を闇属性で絡め捕ったり、風属性で空気を乱したり、やりようは色々とあるのだ。



むふんッとやる気を漲らせているセナの推測は実際のところあまり当たっていない。



セナが異議申立てを行った会議の出席者から内容が漏洩し、一部貴族からは精霊契約者といえども公爵令息との婚約を拒否するなど傲慢で不遜であると、批判が殺到しているのであった。


それに対して王族側はセナに実力を示させて貴族の留飲を下げさせるに加えて、テオドールにはセナの希望通りに相応の功績を上げさせるだけでなく、頭を悩ませていた飛竜の対処を丸投げするという一石二鳥ならぬ一石三鳥を遂げようとしていたのだった。



その際それぞれの思惑をある程度把握し、セナを貴族から守護するテオドールの心労が絶えないのは言うまでもないが、貴族と王族の調整役を為している宰相が最も苦心しているのは哀れとしか言いようがない。






自身の与り知らぬところで方々に迷惑をかけまくっているセナはその頃、意気揚々と獣道を進んでいた。


「セナ。そこ気を付けて」

「あっ、ありがとうございます」

「ああ」


テオが先に地面を踏み均して歩きやすくし、当たりそうな枝は切り落としてくれているので、とても楽させてもらっている。

とはいえ、いくら進んでも変わり映えのない風景と飛竜が現れる気配のなさとに少しずつやる気は削がれていった。


「飛竜の目撃情報があったのはもっと奥なのですか?」

「いや。特に多くの情報が寄せられた場所はもう通り過ぎているが…」


怪訝な声でテオはそう言うが、まったくといって良いほど普通の森だ。


強力な魔獣が住み着いた時に他の動物たちが姿を消したり、妙に落ち着かない様子だったりというようなことがこの森では見受けられないのだ。



本当に飛竜はいるのだろうか?



「或いは既に森から移動した後か」

「私もそう思います」


産卵時期の飛竜が最適な巣探しに移動を繰り返すこともままある話だから、姿を消していても可笑しくはない。


しかし、居ないことを証明するために二週間はこの近辺で飛竜捜索を続けなければならない。

この移動が無駄骨になるかと思うと、森の捜索が億劫に感じたのだった。




あれから一週間、飛竜は一度も姿を見せていない。


こうなると更に移動説が濃厚になり、近隣領地に出現する確率が高くなるため情報共有を円滑にして警戒を促す。

領主との会議や騎士や魔法士への指示出しや見回りの人員配置など、テオは責任者として多忙なようだった。


私は一日に一、二回回ってくる見回りや見張り番の時に飛竜の出現に備えるくらいのことしかやることがなく、気楽なものだった。



この時、既にセナが婚姻拒否をしたと騎士団や魔法師団にも噂が流れており、仕事においては大変優秀なテオドールを慕う者達から避けられる、もしくはいかに騎士団長が素晴らしい男性かを説かれる日々をセナは送っていた。


本人はこの事に疑問は抱いても、解明に乗り出すことはなかった。




そうして飛竜討伐に来て十日が経過した頃、五日後に王都への帰還が決定した。

私も含めて全体的に気が緩んでいて、酒盛りをする者や観光する者と様々だが、誰もが飛竜が現れると微塵も思っていなかった。


しかし、警戒態勢が解かれることはなく、今日も今日とて森への見回りをしていく。


「昨日と何にも変わんねぇなぁ~」

「そうですねぇ」

「さっさと終わらせて一杯やりたいぜ」

「違いねぇ!」


ぎゃはははという楽し気な笑い声が森の中に響く。


メンバーはクリスさんという若くて気の弱そうな魔法士にジョンさん、パーカーさん、ダンテさん三人の騎士が同行しており、私以外は全員男性。



特にこの面々は噂に踊らされて態度を変えることなく、普通に接しているためセナはここ最近の集団行動の中で一番のびのびと出来ていた。



もちろんシルフィ様達は常に一緒に居るのだが、テオは最高指揮官ということで街に駐留しているため別行動中だ。

本人は不服そうだったが。


「こんなに何もないと逆に怖くなってくるなぁ」


クリスさんが思ってもいないだろう顔で口にした。


「嵐の前の静けさって奴か?」

「こんなに暇ならむしろ来てくれって思うがな!」


この場に真に受ける者は誰一人としていなかった。

しかし。



「貴様らの希望通り、飛竜が来るぞ」



その中に精霊であるシルフィ様達は含まれていなかった。


空を見上げると、小さな影が街への最短ルートを突き進むように飛行していたのだった。

そして、その進行上に今私達がいる。


想定外の事態にこの場は軽いパニックに陥った。


「お前がんなこと言うから飛竜が来ちまったじゃねぇか!」

「俺のせいにすんな!」

「ど、どどどど、どどどどどうしようぅぅぅ!?!?!?」


剣を抜いて言い争いを始めた騎士達と右往左往するクリスさん。

私も若干混乱していたのだが、ここまで狼狽える人がいると逆に冷静になる。


「一度落ち着きましょう。騎士さん達の中で足が一番早い人が街へ伝令に行って、応援が駆け付けるまでの間を残りのメンバーで時間を稼ぎます!」


私の一喝に気を立て直した騎士達は伝令役に一番若いジョンさんが選び、その彼はものすごい速さで走り去っていった。

ウサインボルトってあんな感じなのかなと思うほどの疾走感だった。


しかし、未だ状況に付いて行けていないクリスさんは青白い顔でプルプルと震えている。


「クリスさん。飛竜を倒す必要はないんです。この場を凌げばいいだけで、最悪飛竜を無視して逃げましょう」

「…そんなことして、いいの…?」


緊張を解きほぐすためにクリスさんの両手を持ち上げ、ギュッと両掌で包み込む。


「いいんですよ!自分の命を最優先して何が悪いんです?」


自信満々に言い切ったことで彼の肩に入っていた余計な力が少し軽くなったようだ。

顔色も幾分かマシになった。


「私とクリスさんが魔法で援護しますので、やっちゃって下さいね!」

「「おう!」」


悠長にしていたおかげで飛竜にロックオンされたようだが、士気は上々。

ドンドンと飛竜が距離を詰まっていくが、一向にスピードを落とす気配がない。


「このまま突っ込んでくるようです!備えて下さい!」

「備えるって…!?」


困惑と恐怖とがないまぜになる面々を余所に、聖属性魔法で木々を急成長させて飛竜の進行方向を阻害していく。


そして、天然の障害物に加えて闇属性魔法で木々の間に粘着性のある黒いテープのような影を張り巡らせていった。

これで、完璧でしょ!


どうにか間に合わせた障害物に飛竜が突っ込んでくる。



バキバキバキバキッッッ!!!

ブチッブチッブチッブチッ!!!


枝が折れる音とテープの引き千切れる音が辺り一帯に鳴り響くが、私達に到達する前に速度がみるみるうちに減退した。勢いを失った飛竜は黒いテープに羽を絡め捕られて身動きが取れなくなり、拘束から逃れようと大暴れを始めた。


「…マジかよ!?」


負傷する覚悟を決めていた彼らは呆けたように飛竜を見つめていたが、我に返って驚愕と困惑の声がそれぞれに上がった。


「トドメはお願いしますね」

「「お、おう…」」


動けば動くほどに黒いテープが身体に引っ付き拘束が強くなっていった飛竜はパーカーさん達がその場に辿り着く頃にはほぼ磔状態になっていた。


そこへクリスさんが土魔法で羽の付け根を穿って両羽を抉り落とし、支えを失った飛竜の身体が比重に耐えかねて地面近くまでぶら下がり、そこを騎士二人が首を掻っ切った。

生命活動を停止したことを確認して、その場で応援を待つ。




戦闘が終了して十分もしないうちに先陣を率いたテオが到着した。その傍らにはジョンさんもいた。


「四人だけで討伐したのか…!皆、怪我はないか?」


ひとりひとりに視線を寄越して確認を取るが、全員が大丈夫だとリアクションを見せる。

そのことで応援に駆け付けた面々からは称賛の声が浴びせられ、騎士のふたりはどうだと謂わんばかりに威張り、クリスさんは反対に委縮していた。


「セナ。心配した」


近づいてきたテオが私の頬に手を添えて不安げに瞳を揺らしていた。

それがすごく意外で目を瞠る。


「えっと…ご心配をお掛けしました」

「ああ。あまり無茶はしないで」

「はい…」



何というか、気恥ずかしい………!



その場にいる全員が囃し立てていたのを中断して二人を見遣る。

そして、飛竜の死体が転がっているとは思えないほど生暖かい空気がこの場に漂ったのだった。

お久しぶりです。投稿が途絶えてしまって申し訳ございません…!

これからは週一のペースで投稿していく予定です!!!曜日や時間は今の所はっきりしていませんが、恐らく他の作品と同様の木曜日と日曜日が多くなると思います。

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