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32.し、紳士にしか見えない…?!

「デート、ねぇ」


仕事帰りにテオからデートの誘いがあった。

私としてはやっとか、という感じだ。本当はもう少し早く来ると思っていた。恋人といえばデートなので。

………たぶん、知らんけど。


しかし、何を着てけばいいのだろうか?




「街歩きには何着て行けばいいと思います?」



という訳で、まずはユリアさんに尋ねることにした。

相談しやすいのと貴族令嬢という立場から助言を貰えそうだったので。


「そうねぇ…どこに行くのかによるわね」

「あ、やっぱりドレスコードが必要なお店ってありますよね」

「ええ。観劇や美術館はそもそも入れてもらえないもの。で、どこに行くの?」

「分からないんですよね、まだ日程すら決まってないので。ただ私あまり服を持っていないので…」


トムおじいちゃんと暮らしていた時はラフな格好を着回していても問題はなかったけれど、今は筆頭魔法士として勤めているため以前と比較すると、フォーマルな服装を所持するようになった。

が、あくまでも以前と比較して、だ。


流石に公爵令息様と出掛けられるような衣服や装飾品を持ち合わせてはいない。


「なるほど~じゃあ行き先が決まり次第一緒に買いに行きましょうか!普段着も含めてね!」

「ありがとうございます!助かります!」


これで服装に関しては問題解決してホッと胸を撫で下ろす。


「セナよ。その予定は一旦保留にするが良い」

「シ、シルフィー様!いきなり何です?」

「今日帰城すれば解ることよ」


たったそれだけを言い残していなくなってしまった。


「何だったの…?」

「さあ…?すみませんが、日程は改めてでも良いですか?」

「構わないわ!」

「本当にすみません。ありがとうございます」




その日仕事を終えて王城へ帰るとそこには部屋の床を埋め尽くすほどのラッピングされた箱があり、慌しくメイドさん達が開封してクローゼットに収納していた。


これら全てがテオからのプレゼントだというのだから驚きである。ネックレス以来何もなかったけれど、まさか一度にこんなにも贈られるとは…。


一部の衣服を確認したけれど、どれも華美過ぎない上品なものばかりで興味を唆られた。


しかし、これらを着るのがアラサー一歩手前の、貴族社会では行き遅れ認定される私である。

一抹の不安も芽生えるというものだろう。






遂にやって来たるデート当日。


予定としては夕方から『観劇』を観賞する事となっている。


テオからはウィンドウショッピングを提案されたが、お互いに一日休暇を取れない事と服飾品が贈られたことを伝えたユリアさんから「じゃあデートはそれを着ていけるところにしないとね!」と言われ、劇を観てみたいと私からお願いしたのだ。


実際、生で劇を観るのは初めての事なので、この日をすごく楽しみにしていた。


そのため、朝からメイドさん達に囲まれていつぞやのお茶会時の様に磨かれていた。


私としては仕事終わりからの準備でも余裕で間に合うなと思っていたのだが、それでは流石にマズいらしく、メイドさん達だけでなく、第八魔法省の皆さんにも止められて休暇申請をする事となった。



入浴、マッサージ、コルセット・ドレスの着用、メイクアップ等々……。



準備がすべて完了して最終確認のために鏡の前に立つ。


「す、すごい…」


そこに映っていた私は「本当に私か?」と問いたくなるほど別人と化していた。


胸元から下へ向けて淡い黄色から赤へのグラデーションとなっている華やかなドレス。


それに合わせるは深紅のハイヒールパンプスとルビーをあしらったアクセサリー。


短くなってしまった髪もそうは見えないように綺麗に纏められている。



自分史上一番美人と宣言できるほどの変貌ぶりである。心配していたのが杞憂に終わって何よりではあるのだが、メイドさん達がプロすぎる…!


「お気に召しましたでしょうか?」


問いかけてきたのは侍女のメアリさん。

仕事が丁寧で(多分私より)若いのに貫禄があるキレイ系美人さんなのだ。私付きの筆頭侍女さんらしいけれど、メイドさんとの違いが未だによく分かっていない。


「はい。とっても」

「ようございました。それではアルガータ騎士団長様がお見えでございますので、移動致しましょう」

「もう?!早くない?」

「殿方が女性を待つのは当然ですよ」

「そ、そうなんですね…。とりあえず、向かいましょうか」

「かしこまりました。ご案内致します」


メアリさんの後ろを付いてテオが待つ馬車寄場へと向かう。


予定の時間にはまだまだ余裕があると思っていたのに、予想以上に時間が経っていたようだ。

普段は履かないハイヒールに加えてドレスも着用しているので、ゆっくりとしか進めない。



ようやく到着すると、そこには麗しい姿のテオがいた。


普段の騎士服とは違い、グレーのスリーピーススーツに銀糸で精緻な刺繍が施されているのがまた素晴らしく似合っていて、前髪を後ろに撫で付けているのがそこはかとない色香を醸し出していて何とも言えない。


目の前のテオはどこからどう見ても完璧紳士にしか見えないのだが、逆にそれが何か違和感を感じさせるのは何故だろうか…?本当に本人か?


「お待たせ致しました、テオ」

「セナ。…とても良く、似合っている。綺麗だ」


眦を下げて褒めてくれるテオ。その破壊力は絶大で、思いがけずタジタジになってしまう。

もう一度言う。本当に本人か?


「あ、ありがとうございます。テオも、すごく似合っていますよ…?」

「そうか。ありがとう」

「い、いえ」


まったくどうしていいか分からなくなってしまった。本当にイケメンはズルい。


エスコートのためにテオから「どうぞ」と掌を差し出されるが、そもそも慣れていなくて、緊張で手が震えた。



ようやく乗り込んだ馬車の中では対面になるので、本格的に緊張してきた。

真正面に座っている彼はリラックスした状態で長い脚を組んでいて、何だか悔しい。


緊張から脱するためにとりあえず話しかける事にした。


「チケットを取って下さってありがとうございます。今日の演目は何なのですか?」

「『フィーロとエリシア』という、『純愛』をテーマとした人気の演目だそうだ」

「そうなんですね!楽しみです…」

「観劇は初めてなんだったか?」

「はい!」


楽しみにしていた人生初の観劇。

いつもよりも彼の言葉数が多くて、雑談に花を咲かせるうちにだんだんと緊張も解れてきた。



リラックスした状態で十二分に楽しんできたいと思う!

最後まで読んで頂き、ありがとうございます!!!

新年明けましておめでとうございます!これからもよろしくお願いしますしますm(_ _)m

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