31.何を贈るべきか、それが重要だ(テオ視点)
「セナ嬢とは最近どうなんだ?」
唐突にフィンがセナについて問いかけてきた。
書類の確認作業に飽きてきたのだろう。少しだけ気晴らしの雑談に付き合ってやろう。
「どう、とは?」
「あれからうまくいっているのかって聞いてんだよ!」
私達があわや婚約解消の危機となった際にも心配を掛けたのだ。気に掛けてくれているのだろう。
「問題ない。良好だ」
「…本当なんだろうな?」
「嘘を言ってどうする?」
「…この際はっきりと言わせてもらうが。恋愛に関してだけは全然信用できないんだよ!お前は!」
「何を言い出すかと思えば。まったく…」
多少すれ違いはしたが、そこまで心配される筋合いはないと思うのだが。
まったく…。
「なんで俺がどうしようもない奴を見るような目で見られないといけないんだ!」
「事実だ」
「どこがだよ!?」
どこが、と問われても常の言動が、としか答えられないが?
適当に力を抜く癖とすぐに飽きる癖をどうにかしたらまた話は変わってくると思うが、長年の慣れには抗えない事だろうから気にしても意味がない。
つまりいつもの如く目線で仕事に戻れと訴えかける。
だが、なかなか仕事を再開しようとしない。言いたい事があるのならば言えばいいだろうに。
「貴様ら人間とは面倒な事よ、本当に」
声を上げたのはフィン……ではなく、風の精霊シルフィード様だった。
このお方はなぜか私の傍にいつもいるのだ。理由を聞くと「監視だ」という返答がされる。隊員たちが常に緊張状態になって気が休まらない状況に加えて、あんな事件があったのだからセナの近くに居てくれた方が私としては安心できるのだが、仕方ない。
精霊とは常世に縛られる事なき気ままな存在なのだから。
「うるさくして申し訳ございません、シルフィード様」
「そんな事は良い。貴様はこやつの忠言を聞き入れるべきだと思うがな?」
「…どういう事でしょうか?」
「そのままだ。横にいるのだから本人に聞くが良いだろう」
「承知いたしました。…フィン、私に何か言いたい事があるのか?」
「結局聞くんなら初めから素直に聞いてくれよ、本当に!」
「ならば普段の行いから見直すことを勧める」
「俺が何したって言うんだよ?!」
「むしろ副団長として何もしていないのが問題だ」
「仕事はちゃんと熟してますぅ~!」
仕事はきっちり終わらせるが、如何せん態度が良くないのだ。見ている者は本質的な部分に理解があるが、見ようとしない者は勝手にフィンを解釈し、見下して我が物顔をすることもある。
そのため副団長としての威厳を見せつけるのも仕事のうちではないかと私は思う。
「貴様らは話をする気があるのか?」
「申し訳ございません、シルフィード様」
「失礼致しました。…で、さっきの事だが、ちゃんとセナ嬢を婚約者として扱っているのかって確認しておきたかったんだよ!」
「もちろん問題ない」
「だーかーらー!お前の問題ないは信用ないの!まず、文通はしているのか?」
「している。婚約者なら当然であろう」
何を言うかと思えば。そんな常識的な事を確認されるとは思わなかった。
フィンは私を何だと思っているのだ?
「…言っとくが、恋人同士でも文通するからな?」
「無論知っている」
「じゃあ何でしてなかったんだ?」
「毎日顔を合わせていたからな。言いたい事があれば直接言えば良いと思っていた」
「……そうか」
「ああ」
確かにその当時はそう思っていたが、今は少し後悔している。
令嬢達から文を貰う機会は散々あり、内容も情熱的な物や過激な物、純粋な恋文まで様々だった。それらに嫌悪感を抱いても、一度として心動かされたことなどなかったというのに、セナから贈られた文を開封する時には期待感を、読んでいる時には幸福感。返事を書き、そして次回の文を楽しみに待つ。
内容は決して長くもないし、有益な情報が載っている訳でもない。それでもセナからの何気ない日常や私への想いを綴った文は私の心に充足感を齎してくれる。
因みにセナ達は半月に一通あるかないかという頻度で文通を行っている。
セナ本人は文通が初めてかつ現代日本人で文通常識などというものを知る由もなく、届いてから内容を考えているため時間が掛かっているし、テオも忙しい身の上であり、セナの住む王宮へは検問も行われる為時間が掛かってしまうのだ。
仕方ないかもしれないが、政略結婚同士であっても週に一通程度はやり取りがされるので、この事実だけ知るとどれほど険悪な婚約関係なのだろうかと憶測される事間違いなしである。
そしてこの時、テオの考えを聞いたフィンは苦言を呈することを放棄した。
文字を起こし、思い出の品として手元に残る文を何だと思っているのかと本当は問い質したいが、言うだけ時間の無駄になりそうだったのだ。
しかし諦めかけていた心を叱咤激励してフィンは再度問いかける。
「文通は良いとして!デートは?!贈り物は?!」
「してないな」
「ほーら!ダメダメじゃねぇか!」
「…セナは貴族の令嬢とは訳が違うだろう。ドレスも、装飾品も、喜ばれるイメージが湧かないのだ」
私も贈ろうと思い、母が邸に商人を呼んだ時に同席して品物を吟味したのだが、結局購入したのは普段使いなど不可能なドレスや靴、アクセサリーばかりだった。中には街歩きが可能な服装もあるが、セナ自身が普段身に着けている実用的な服装とはかけ離れたもの。気に入るとは到底思えなかったのだ。
だからせめてそれらを贈る前に何か実用性があり、喜んでくれるものを。
そう考えれば考えるほどドツボに嵌まって分からなくなる。そしてズルズルと時間だけが過ぎて行っているのだ。
「…何か、ないだろうか?普段の彼女が使えそうな物が」
「…真面目に悩んでたんだな…。セナ嬢からは何か貰ったのか?」
「ああ、この万年筆を貰った。揃いの物だそうだ」
黒塗りの高級感溢れる万年筆。書き心地も滑らかで使いやすく、彼女とは色違いの同じ物。
嬉しくない訳がない。
だからこそ彼女にも喜んで欲しいのだ。
「へぇ、良い物だなそれ…ならいっその事、デートに誘って一緒に選んだら?」
「やはりそれが一番良いだろうか?」
「まあ、いつまでも迷って贈らないよりかはな」
「…今日の仕事終わりにでも誘ってみよう」
「その意気だぞ!」
「ああ」
そうと決まれば早速セナと街を散策するのにプランを考えなくては。
シルフィード「おい貴様、買い込んでいる服飾品を王宮に贈っておけ(人間共はなぜこうも回りくどいやり方を選ぶのだ?意味が解らん)」
テオドール「はい、承知いたしました(なぜ知っている…?)」
風の精霊シルフィードは全ての音を拾うため、テオもセナもフィンも、王族でさえ言動が筒抜けなのでセナ達のお互いの本音を把握。トムさんの遺言もあって世話を焼いている。
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