29.平行線を辿るってこういう事
美しく整えられた王宮の庭園。そこに佇む優美なガゼボで話し合いは行われる事となった。
それに伴い、朝からメイドさんに囲まれて湯浴みやマッサージを受け、メイクもしてもらって豪華な青のドレスに身を包んでいる。婚約早々に不仲などと勘繰られないためにあくまで茶会という大義名分を掲げたいらしい。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
定型句だけの簡素な挨拶に止めてテオのエスコートに応じて椅子に腰かける。
侍女さん達も紅茶の準備を終えたら即座に離れていき、参加者は私、テオ、第二王子様の三人だけ。
テオはいつもの騎士服ではなく、王子様と同様に豪奢な装いをしていた。濃紺を基調とした落ち着きのある正装が顔面完璧な彼にはそれがとてもよく似合っていた。
つくづく美形である事を認識するが、中身が残念過ぎてプラマイゼロになるのが勿体ない事この上ない。
「早速本題に移ろうか。まずはセナ様の意見から聞かせてもらいたい」
「はい。私と致しましてはテオ…ドール様にけじめを付けて頂けるならば、この婚約を承諾する所存です」
「「けじめ?」」
私の提案を不思議がる二人。
あれから冷静に考えて婚約解消は不可能であるという結論に至ったため、自分の納得のいく落とし所を導き出したのだ。
「そのためにはまず、テオドール様には療養時の滞在費を請求したく思います」
「王家と公爵家からの報奨金が既に支払われているはずでは?」
「そうなのですが。テオドール様が滞在中の食事や衣服、お酒に暇つぶし用の書物などにも気を遣っていましたので、頂いた金額では少なかったのです。その後も何度か家に訪ねていらした事がありましたが、その時のお酒代も平民だった私には金銭的負担が大きく……夫婦になった際に共同資産になる事は承知していますが、私自身の心に遺恨を残さないためにどうかお願い致します」
・お金払え
これが一つ目。
金の切れ目が縁の切れ目、という言葉があるくらいなので、金勘定の清算はやっておくべきだと思ったのだ。愛し合っている者同士でお金の話なんて…!というロマンチスト思考の持ち主はよく考えてみて欲しい。
テオのこと好きでも何でもないぞ?
つまりこの微妙な関係性を一度リセットするという願掛けのような事をしようとしているのだ。
それと今後テオと付き合っていくのにお金はいくらあって困らないものだ。今回のドレスや装飾品は王家が揃えてくれたが、これからもそうとは限らないし。
「…分かった。支払おう」
「ありがとうございます」
「…お酒とはどういう事かな?テオドール」
「いえ…」
「そちらに関しては後程、詳細に、聞く機会を設けてはいかがでしょうか?」
「そうさせてもらうよ」
「…」
黒い微笑みを浮かべる第二王子殿下。
是非とも存分に懲らしめてやって下さい。
「では次にあの時の発言についてお話させて頂きたいのですが、私はテオドール様に“いくらでも待つので迎えに来て下さい”とお伝えいたしましたよね?」
「ああ」
「その際に貴方様は“任せておけ”と返事を下さいました。間違いございませんか?」
「間違っていない」
「ええ、この婚約に際して貴方様は何もしてないと私は思うのです。そのため“約束”とおっしゃるのならば誠意を示してほしく思います」
「誠意…具体的には?」
「平民であった私と婚姻するために必要であった根回し等々を多少なりともして頂きたく思います」
・“約束”を持ち出すのなら平民を迎えられるだけの功績稼げ
これが二つ目。
こちらは身分も生活環境も周囲の対応も、何もかもがガラリと変化して苦労しているというのに、テオだけ何の苦労もしないのはズルいと思う。嫌がらせ以外の何物でもないと理解していても納得できない事はあるのだ。
それに何もそれ相応の功績を収めてこいという訳ではなく、私のために頑張るという気概を見せて欲しいだけなのだ。
今のテオからは執着は窺えても恋情は感じ取れないというのも、理由のひとつではあるが。
「セナ様、ちょっと待ってほしい。50年ぶりの精霊契約者という事もあり、テオドールは貴方を貴族から護るため秘密裏に動いている。それにもしまた任務で大怪我を負う事態にでもなったら後悔するのは婚約者である貴女なんだよ?それは理解しているのかい?」
「承知しています。ですから、彼の任務には私も同行いたします。そうすれば問題ないでしょう?どうでしょうか、テオドール様」
「異論はない」
「テオドール!」
「殿下。セナの主張は間違っていない」
「だが!……王家としては精霊契約者であるセナ様を危険な任務に就かせる事は容認できない」
「…その場合セナはどうする?」
「何も致しません。が、テオドール様に対して一生不信感を抱き続けることでしょう」
「………陛下や総帥に掛け合ってみよう」
「感謝する」
「ありがとうございます」
「はぁ…」
第二王子殿下は頭が痛いと言いたげに首を振っている。
きっと上層部の人達は私の我が儘に付き合うために良い感じの危険度・難易度の任務を選りすぐると思う。けれど、それでもかまわない。こういうのは行動に移したという事実が大事なのだ。
「まだ何かあるかな?」
「はい。これはお願いなのですが、お互いに知らない事が多すぎると私は思いますので、時間を割いていただくことは可能でしょうか?」
「!問題ない。是非頼む」
「ありがとうございます。私からは以上です」
・お互いの事を知らなすぎるので交流の機会を設ける事
三つ目、これが最後。
私の持つ彼の情報の殆どは本人ではなく、フィンさん達から教えられたもの。そして私の事はほとんど話してない。
仮にも夫婦に為ろうとしているのだから相手に歩み寄るのは大事なことだと思う。
「参考までに聞いておきたいんだけど、知らないってどの程度なのかな?」
「本名や騎士団長をしている事は第三騎士団副団長様に、御家族の事は第八魔法省省長から伺いました」
「そ、そうなんだね………テオドールは何かあるかな?」
「いえ、特には」
「取り敢えず、話し合いはこれで終わりにしよう。ここからはお菓子を摘まみながら会話を楽しもうか」
その後は魔法省や騎士団の事、共同生活はどうだったかなどの話題を第二王子殿下が投げかけてくれたおかげで気まずい思いをすることなく、お茶会は幕を閉じたのだった。
私が席を外した後。
「私達が必死になって捜索している時に君は優雅にお酒を嗜んでいたんだね?」
「いえ…その、……はい」
「はぁ……残された者の気持ちも汲んでおくれ」
「申し訳ございません」
「無事に帰って来たからいいよ。……兎に角、婚約解消されなくて良かったね、テオドール」
「ああ、安心した」
「任務の件だが、陛下達に相談しても同じ結論に至るだろうからそれは了承して欲しい」
「分かっている。交流を深める中でどうにか信用を勝ち得たらいいと考えている」
「何かあれば私を頼ってくれ。全力でサポートしよう」
「感謝する」
「それと、君がどんなに口下手だとしても自分の事は伝えておかないとだめだよ」
「ああ」
風の精霊を通して彼らの会話を盗み聞きするとこのような内容だった。
テオドールと第二王子からしたらセナを危険な目に合わせたくないし、許可も下りなさそうだし、どうにか自分達の出来る範囲で現状改善を考えた結果なのだが、聞かれてしまっては元も子もない。
しかしそんなことは知らないセナは言った傍から破る気満々なのかと心底呆れていた。
私個人に想いを寄せて欲しくはないのか、と。
そしてテオへの好感度がゼロからマイナスに落ちた瞬間だった。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます!!!
下にある☆☆☆☆☆をポチッとして★★★★★に変えて頂けると作者が狂喜乱舞します(ノ◕ヮ◕)ノ*.✧└(^ω^)」




