28.お前はダメだ
死にかけ事件からしばらくが経った。
唯一の精霊契約者として王宮の客間に住居が変わった以外に身の周りの大きな変化はなく、今まで通りに第八魔法省で仕事を熟している。
「セナ様!わたくしにお任せ下さいませ!」
「じゃあ、こっちお願いするね」
聖の精霊・セレーネ様が常に傍に居るので、毎日がにぎやかになった。しかし、風の精霊シルフィード様は基本的にテオの所にいる。
本人曰く、監視をしているのだそうだ。
他には精霊爵への叙爵を果たす事と、それに伴う貴族達からの尊敬や嫉妬、欲望、憎悪等の視線が常に突き刺さる事が少し気になるくらいだ。
しかしその代わりとして良い事もあった。
それは嫌がらせ行為がめっきり無くなった事。
公爵家次男のテオよりも精霊爵当主となる私の方が身分は上になるので、言いたい事をしっかりと伝えられる事。
これが何よりも嬉しい。今まで話が通じていなかったが、これからは遠慮なく物申せるし、嫌なことは嫌と突っ撥ねる事も可能になったのだ。
「まずは初めまして。私はエヴィルシア王国第二王子、セシル・リィ・エヴィルシアという。よろしくね?」
「よろしくお願い致します」
という訳で異議申立てを行い、現在、会議室で王族をも巻き込んだ会議中である。
参加者は今、自己紹介をしてくれた第二王子様とテオに各騎士団長・省長、総帥と錚々たるメンバーだ。
それだけ精霊がこの国にとって影響力のある存在だという証拠でもある。
初めて精霊契約者である私を見る人もいたのか、短髪姿も相まって注目を集めている。
そして今回の議題は、勝手に決めてくれやがった事項の再考である。
養子縁組や加害者の処罰、叙爵はこの際諦めているからいいとしても、テオとの婚姻だけはない。
これだけは本当にない。どう考えても私が苦労する未来しか見えないのだから。
「今回お集まり頂きましたのは、決定事項として説明された中に、どうしても納得できない部分がありまして、それに関して再検討を進言するためでございます」
私の発言に室内がざわつき始めた。
王族の決定は絶対だ。それを覆そうとしているのだから当然なのだけれど、そんなことは私の知った事ではない。
なんせ、精霊という絶対的味方が二人もいるのだから!
「それで、セナ様は何が気に入らなかったのかな?」
「結婚相手です。変えて下さい」
「「「?!」」」
室内にいる人すべてが絶句し、シーンッ…と静まり返ってしまった。
そんなに衝撃的な事なの?テオなら女であれば誰でも惚れるだろってみんな思ってたって事?そんなことある?
この中で一番最初に我に返り、静けさを破ったのはやはりテオだった。
「な、何故だ?!」
「なぜ?そんなことも分からないのですか?」
「そ、それは…」
「…テオドールのどこが不満なのか、是非聞かせてくれるかな?」
眉をハの字にして困惑している第二王子様が私に問いかけた。
この質問は非常に言いにくいが、敢えて答えるなら…。
「顔以外全部ですかね?」
「「「…顔以外全部…」」」
また室内を無音状態にしてしまった。
確かに顔面は好みだ。むしろこの顔面を好きにならない女子なんてないのでは?と思うくらいには整っている。
だけど、それ以外が全部だめだ。いい所が何も思いつかないくらいにはダメダメだ。
「あの時の言葉は!あれは嘘だったというのか?!」
「…あの時、私は何と言いましたか?」
「いつまでも待つと!」
「ええ。ですが、こうも言いました。好きではない、とも」
彼の麗しい顔面が蒼白になり、絶望に染まっていく。
あれってただ単に帰って欲しかったから言ったに過ぎないのに、それに対して私は真摯に向き合っていたと思うの。でもそれを無碍にし続けたのは、テオの方だ。
そんなにも想っていたのなら、なぜ私の気持ちを汲んでくれなかったのだろうか。
「だ、だが!既に国王陛下に認められている!」
ここまで言われても食い下がるテオ。
いい加減諦めるか、自分の非を認めたらいいのに。
「第二王子殿下。この婚約は覆らないという事でよろしいのでしょうか?」
「…国王陛下の名の下に宣誓されているから、破棄も解消も出来ないよ」
第二王子様は複雑そうな、それでいて縋るような視線を私に向けている。
彼からはこの婚約に納得して欲しいという願望を察する事が出来るけれど、今までどれだけ無視されてきたと思っているの?そちらにとって都合のいい事なんて言ってあげないんだから!
「そうですか。でしたら、あの時の言葉通り待ちましょう。10年でも、20年でも、貴方が私を好きにさせるまで」
「「「…」」」
全員が目を見開いて私とテオを穴が開くのではないかというほど凝視してくる。
彼自身は私の強い拒絶が受け入れられなかったのか、放心状態になっている。
そんなに私の主張って変なの?
でも、嫌なものは嫌なのだ。
「話は以上です。お忙しいところお集まり頂きありがとうございました」
椅子から立ち上がって深々と頭を下げてお辞儀をし、出口である扉に足を踏み出す。
この国の重鎮だろう人達の目前で宣言したのだからどうにか動いてくれる事を願うばかりだ。
「待って、待ってほしい…!」
掠れた、苦しそうな声で私を呼び止めたのは第二王子様だった。
「テオドールの、彼の何が気に入らないのか、ちゃんと話してお互いに寄り添ってほしい。私は王族としてではなく、彼の友人としてお願いしたい…!」
「殿下…」
何か感動的なムードになっているんだけど、これでは私が悪者ではないか。
別にテオの事を嫌いなわけではない。友人としてなら、まあ、いいかなと思わないでもないくらい。
家族としての彼はダメだと思う。圧倒的に向いてない。
しかし、王族の頼みなので聞くしかないのが辛いところだ。
「…かしこまりました。それでは私はどうすれば良いのでしょうか?」
「ここではお互いに言いにくい事もあると思うから、後日改めて話し合いの場を設けよう。そこで交流を深めて欲しい」
「かしこまりました」
「ありがとうございます、殿下」
私としてはいくら話し合っても平行線を辿る気がしているのだが。
また流されてしまっている自分の状況に対して小さく溜息を吐いたのだった。
「テオドール。きっと何か誤解しているだけだと思うから、次回に話し合って解いてしまおう」
「はい、殿下…」
「ハハハハハ!!!国一番の色男のこんな姿を見れるとは!総帥を続けてて良かったわい!」
「…それは聞き捨てならないなぁ?今から私達も、じっくり話し合おうか」
「いや、これはその、言葉の綾で…」
「そうか。次はないよ?」
「へい!」
「…(帰りたくないと駄々をこねた事を殿下に知られませんように)」
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これからは木曜日と日曜日に投稿する予定です!
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