26.緊急会議で首謀者から公開告白「気持ち悪…」(テオ視点)
「お忙しいところお集まり下さりありがとうございます。これより緊急会議を行います」
豪華で広々とした会議室に並ぶ円卓には国王陛下、宰相、高位貴族当主、総帥、各々の騎士団団長・魔法省省長…。
エヴィルシア国の錚々たる顔ぶれが揃っていた。
そして今から議題に上がるのは勿論セナだ。
彼女は今医務室で眠っており、ポーションを服用したため傷ひとつ残っていないうえに今も聖の精霊セレーネが付き添っている。
この会議で彼女の運命が決定することだろう。
自分達にとって最良の未来を掴み取るために背筋を伸ばして覚悟を決める。
「それでは早速議題に入らせて頂きます。今回、五十年ぶりに精霊契約者が現れました」
議事進行役の報告に室内が一気に騒々しくなる。
それも仕方がない事だろう。過去の歴史の中でもここまでの短期間で精霊契約者が発見されるのは珍しいのだから。
そして貴族達にとっては彼女を取り込み、権威を増すチャンスでもある。
収まりそうもない喧騒に国王陛下が右手をスッと掲げられただけで沈静する。
「それで、その者はどこにいる?」
「まずそちらからご説明させて頂きたいのですが、精霊契約者は名前をセナといい、第八魔法省に所属している平民の筆頭魔法士でございます。そして今は何者かの襲撃により医務室で治療を受けております」
静まっていた室内が再度喧騒に包まれる。衝撃が強かったのか先程より騒然としている。
しかし彼女の無事を知らない者達は折角現れた精霊契約者が自身に益を齎す前に失われる事を恐れて騒いでいるのだ。
全くもって度し難い。
「その者は無事なのか?!」
「ええ、命に別状はございません」
「そうか!」
「しかし、精霊契約者に危害を加えた者がいるという事でございます。ですからその者の捕縛及び処罰について意見を募りたく思います」
様々な意見が寄せられているが、捕縛の具体的な案は出さず騎士団や魔法省に一任するというスタンスでその殆どが犯人を死刑もしくは国外追放しろ、というものだった。
犯人に重刑を課す事で心証を良くしようという奴らの狙いが透けて見える。
「そうなれば筆頭魔法士が更に不足するな?」
唐突に会議に参戦してきたのは風の精霊シルフィードだった。
いきなり現れた闖入者に会議どころではなくなり、第一・第二騎士団長は国王陛下の警護を固め、その他の騎士団長と魔法士省長は風の精霊を今にも攻撃しようと警戒態勢を取っている。
このままでは精霊への攻撃が開始されかねず、そうなれば最悪この国が亡ぶ。
「先程の発言はどういう意味でしょうか、風の精霊、シルフィード様。」
「ああ、先程の人間か。間に合ったようだな」
「彼女を救って頂いたこと、感謝に堪えません。」
「ふん。治療したのはセレーネだろう。礼を言われる筋合いはない」
「そうかもしれませんが、ありがとうございました。」
風の精霊シルフィード様に対して深々と頭を下げ、最高礼を取る。
臨戦態勢に入っていた者達はこの者の正体に気が付き、慌てて態度を繕っていた。
自身の言動が無かった事になるわけでもないのに、無駄な事をするものだ。
「…貴方様が五十年前に顕現されたとされている風の精霊様でございましょうか?」
「そうだぞ。貴様ら貴族共が散々利用した挙句に逃亡を余儀なくされた者を契約者としていたあの風の精霊だ」
「「「…」」」
歴史の闇に葬られたであろう衝撃の事実に誰もが静まり返ってしまった。
そして誰も何も言葉を発しない。
今まさに過去と同じ過ちを繰り返そうとしていたのだから。
そんな考えがなかったであろう者達も祖先がしたかもしれない不敬を理由に口を挟めずにいた。
「して。先程の問いに対する解答だが、今まであの人間に危害を加えていた者共の名も、容姿も、全て記憶しておるが、その殆どが筆頭魔法士であるからな。慢性的な魔法士不足に悩まされている人間共には辛かろう?…では、名を読み上げてやる。アンナリーゼ・シャトー、…」
次々に令嬢の名前を読み上げるシルフィード様。
中にはここにいる者の娘の名も混じっていたようでその者が暴れ出し、取り押さえる事態にもなった。
それでも暴露をやめようとはしない。
そして。
「…最後に。首謀者、シュフィーナ・セルモルド。以上だ」
「「「?!?!」」」
最後に名を呼ばれた第七魔法省省長に一斉に視線が集まった。
その本人は苦笑を浮かべ頬に手を添え、眉を下げていた。
「…シルフィード様。それは何かの間違いではありませんか?私が首謀者などと…」
「誰に物申している?我は風の精霊シルフィードであるぞ?会話の全ては我に届いておるのだぞ」
「そうかもしれませんが、私は彼女に危害など加えておりませんわ!」
「我の話を聞いていたか?人間を操り、あの者への加害や嫌がらせを行うよう仕組んだのは貴様であろう?」
「そのような…!決してそのような事、私はしておりませんわ…!」
目に涙を浮かべ、弁明するその姿に半数以上の貴族がシルフィード様を睨んでいた。
だが、私にはその姿が胡散臭く映ってならない。
「…サム・シームよ。あの者が今日、執務室から外出した経緯をここで話せ」
「え?!ええっと…精霊契約者である第八魔法省所属のセナは今日、シュフィーナ・セルモルド第七魔法省省長に今後の討伐要請の事前説明について呼び出しを受けました。」
「そうであろう?で、何か言い訳はあるか」
「そ、それは、偶然ではありませんか?私はただ彼女が初めての討伐で無理をしないようにと思って…!」
「ふむ。ではこれは何だ?」
「な、なぜ…!?」
シルフィード様が掲げているのは手紙だった。
それらを見てシュフィーナ・セルモルドは顔を青ざめている。
「これらは貴様が送付したもので宛先は先程読み上げた人間共だ。内容は援助をする代わりに指示に従う事となっているな?そしてあの者についても記されておる。…何ならここで読み上げてやっても良いぞ?」
シルフィード様の言葉に俯き、身体を震えさせている。
過半数にも登る擁護派の視線が掲げられた手紙と俯き震えるだけで弁明をしない彼女で右往左往していた。
「…ぜんぶ…全部あの平民が悪いのよ!!!自分の身の程を弁えないから少し教育を施してあげただけじゃない!それの何がいけないのかしら?!私は侯爵令嬢よ!!!むしろ褒美があってもいいくらいではないかしら?!」
先程までのしおらしさは鳴りを潜め、髪を振り乱して叫んでいる。
彼女を擁護する態度を取っていた貴族達も今の姿に眉を顰めたり、顔を歪めたりしている。
「あの者が普通の平民であれば、な。貴様は今、我と聖の精霊セレーネを敵に回したのだ。一生涯、風魔法と聖魔法を発動する事は出来ぬからな。覚えておくが良いぞ」
「何よそれ!!平民の契約精霊は貴方だけではないの?!ふざけないで!平民風情が!!」
「本当に醜いな。自分より才能がある人間を認められなかったか?それとも惚れた人間を盗られた事が許せなかったか?それとも…」
「黙りなさい!!!侯爵令嬢であるこの私が!あんな平民風情に負けるだなんてありえませんわ!そうですわよね?テオドール様!!!野暮ったく、教養もなく、礼儀もなっていない平民ではなく。美しい容姿に公爵夫人として相応しい教養と礼儀作法を身に着けている侯爵令嬢の私を、妻に選んで下さいますわよね???」
話題に上がってしまった私に注目が集まり、乱れた髪をしたシュフィーナ・セルモルドも血走った眼光をこちらに向けてくる。
本当に醜悪な事この上ないな…。
「…私が妻として望むのはこの世でただひとり、セナだけだ!」
周囲の者は皆、激情を露わにするその姿に息を呑んだ。
一度たりとも女性に興味を示すことのなかった私が怒りを込めた冷ややかな視線を送っているのだ。それだけ本気度が窺えるというものだろう。
そして私の心情を知った彼女は、
「テオドール様!テオドール様!」
「嘘よ、嘘よぉ……!!!」
「平民風情のどこがいいというの?!」
「許さない、絶対に…!」
と喚き散らしながら暴れ狂った。
そして最後には騎士に拘束されて連れて行かれたのだった。
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