25.私では助けられなかった…。(テオ視点)
セナと一切顔を合わせていない。
そのことで今までの人生で最も苛立っている。
流石に感情を表に出してはいないが。
だが何もしないでいると彼女の事を考えてしまうので、書類仕事や模擬訓練、護衛など、過密スケジュールを組んで時間を潰している。
「テオ、その威圧やめてくれ。集中できないんだが?」
今は執務室で書類に手を付けていた。
黙々と無駄口を叩かずに真面目に仕事を熟しているだけだというのに酷い言い草だ。
発言主であるフィンに視線を向けると呆れていた。
「セナ嬢に会えなかったのをまだ引き摺ってんのか?」
「…そんなことはないが」
「じゃあ何だよ、この居心地の悪さはよ?」
「私に聞かれても困るが?」
「お前が悪くしてる元凶なんだよ!」
「…皆もそう思うか」
団員たちを見渡すと無言のままそれぞれ顔を背けて視線を泳がしていた。
…。
「…私か」
「そうだよ!やっと気づいたか。まあ、このまま会えないのはマズいよな」
「ああ」
「連絡も取れないのか?」
「手紙は送っているんだが」
「返事がない、と」
「いやそんなことはない」
「あるんかい!で、何て?」
そう、届いている。
だが毎回内容が殆ど同じなのだ。
「申し訳ない、問題ない、とだけ」
「あ~…。ホントに頼りにされてないな!」
「言うな」
「もうこうなったら乗り込むしかないな!」
「迷惑だ。…はあ、セナは今何をしているのか…」
セナのことが気になって仕事に集中できていない。
これが良くないことは理解しているのだが、昔のようにうまく切り替えられない。
…そんなに私は頼りないだろうか。
本当に誰か教えてほしい。
「その娘は今、死にかけておるぞ?」
聞き覚えのない声が聞こえ、その方向に視線を向けると白い長髪にエメラルドのような瞳を持つ者がいた。
先程までそこには誰もいなかったはずであるし、この者が声を発するまで誰一人として気付かないなど尋常ではない。
瞬時に団員全員が腰に下げている剣に手を掛け、臨戦態勢を取るが、この男は狼狽える様子もない。
「…何者だ」
「我か?我は風の精霊をしておるシルフィードという。そこの者に再度忠告してやる。お主の想い人が死にかけておるぞ」
「?!精霊だと…!それにセナが死にかけているとはどういうことだ!!!」
「そのままの意味であるが。場所は魔法省北側訓練場から更に北へ進んだところだ。早くせねば手遅れになるぞ」
「ま、待て!」
風の精霊・シルフィードはそれだけを言うとスゥっと薄くなり、消えていった。
今すぐにでも総帥や関係各所に精霊が出現したと報告を上げなければいけない。
だが。
「…すまないが、私は行かせてもらう!」
「俺も行くぞ!エリック、総帥達に報告しといてくれ!」
「しょ、承知しました!」
風の精霊から聞いた魔法省北訓練所を目指してフィンと共に廊下を全速力で走る。
廊下にいた騎士やメイド達は私達の姿を見て驚愕し、慌てて道を開けた。
そして
「?!セナ!!!」
「…ひでぇ」
訓練所を素通りして走った先には周辺地面を血だらけにして倒れている人物がいた。
辺りの地面には抉られた跡や焼け焦げた跡が無数に存在していた。明らかに誰かが魔法を放った痕跡。
駆け寄って抱き上げると、彼女が生きていることが確認でき、自身の騎士服が血を吸い上げて赤く染まっていった。この出血量は未だに生きているのが奇跡と言って差し支えないほどだろう。
「セナ!大丈夫か?!セナ!」
「バカ!あんまり動かすな!傷に響くだろうが!」
「…ゔ……ぁ………」
「!!!今すぐ医務室へ運んでやる!」
膝の裏と首に腕を回し、持ち上げる。
力なく垂れ下がる腕が死んでいるように見えて心臓が嫌な音を立てている。
早く、早く彼女を医務室へ連れて行かなければ…!
「そのように乱暴にするとは何事ですか!」
「「?!」」
「相手は怪我人なのですからもっと慎重に運びなさい!」
私達に怒鳴っているのは地面に付きそうなほど長いウェーブのかかったプラチナブロンドに淡い桃色の瞳を持つ女性だった。
風の精霊同様に気配を一切感じなかったということは…。
「…貴方も、」
「聖の精霊セレーネですわ。大きな怪我は既に治療済みですけれど、これ以上は体の負担となりますわ。ですからさっさと医務室とやらに移動なさい!」
「ああ!」
返事をしてすぐさま走り出す。
聖の精霊がいるのならば彼女が死んでしまう確率は限りなくゼロに等しい。この世で最も回復魔法に優れた存在なのだから。
ただただ医務室へ向けていかに早く走り抜けるかを考えながら足を動かし続ける。
「もっと優しくなさって?!」
「これが限界ですの?!もっと速く走りなさい!」
「これだから人間は!」
と言いながらも彼女に回復魔法をかけ続けてくれている。本当に心強い。
そしてやっと医務室へ到着したのだった。
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