24.あ、これマジで死ぬやつだ。/???(???)
残酷な描写がありますので、ご注意下さい。
「セナさんはいらっしゃるかしら?」
第八魔法省執務室を訪れたのはシュフィーナ様だった。
彼女は侯爵家のご令嬢なうえに魔物討伐を専門とする第七魔法省省長を務める優秀な筆頭魔法士で回復魔法が得意らしい。
しかも廊下ですれ違ったら誰に対しても挨拶をしてくれて、人によっては彼女の事を「聖女様」と呼んでいたりする。
そんな方が所属の違う私に一体何の用だろうか。
「はい、どうかなさいましたか?」
「お久しぶりですね。うまくやれてる?」
「はい!皆さんに支えてもらいながら何とか!」
「そうそれは良かったわ」
フワッとした微笑みが本当にきれいな人だ。
新人で他省の私にも気に掛けてくれるなんて、テオとは大違い。
「本題なのだけれど、セナさんは私と同じく回復魔法が得意でしょう?だから今後騎士団から討伐の同行の要請があるはずだから事前に説明しておこうと思ったのよ」
一瞬、人が多く出歩いている今の時間帯に移動するのは躊躇われたけれど、忙しいはずのシュフィーナ様が折角時間を割いて誘って下さったのだ。討伐に同行した際に迷惑をかけてしまったら目も当てられないしね。
それに彼女は侯爵家の令嬢で私に拒否権はそもそもない。
「わざわざありがとうございます!是非お願い致します」
「受けてくれて良かったわ。早速移動しましょうか」
「はい!」
シュフィーナ様の後について歩く。
シュフィーナ様は廊下を歩いているだけなのにとても優雅でまさに、歩く姿はユリの花、だ。
そして私は久しぶりに人のいる廊下を歩いたけど、思いのほか周りの視線に敏感になってしまっていた。
今も、髪の毛を隠すために巻いているストールが目立って、視線が突き刺さっている。
しばらくして到着したのは、初めに入省試験を受けた時に利用した訓練場だった。
「ここで少し訓練をしたいと思うの」
「訓練、ですか?具体的には何をするんですか?」
「あそこに的があるでしょう?あちらに攻撃魔法を当てるの。回復が主とはいえ、魔物が接近してこないとも限らないから狙いを定める練習をしておくのよ」
「分かりました!」
「実践では魔物に向かって魔法を放つだけでも怯んでくれることも多いから、命を守るためにもしっかり取り組んでね」
「はい!」
少し前までは毎日魔物を魔法で倒してお金を稼いでいたから狙いを外すことなんて殆どないとは思うけれど、新人筆頭魔法士である私の事を心配してくれたのだから真剣に取り組もう。
いつもより丁寧に風魔法を構築し、的へ向けて放つ。
飛んで行った魔法はしっかりと的のど真ん中に命中して真っ二つに割れて倒れていった。
よし!完璧!
「いかがでしたか!」
「ええ、完璧ね。これを実践で出来れば戦力としても要請が来るかもしれないわ」
「本当ですか!」
「ええ!でも自信過剰になって前に出てはダメよ?いつ何があるか誰にも分からないのだから、慎重すぎるくらいがちょうどいいのよ」
「分かりました!ありがとうございます!」
「あとは簡単な注意事項の説明だけしておくわね」
「はい!お願い致します!」
この後、討伐に関する注意事項をメモを取りながら聞いていく。
一人での討伐とは勝手が違うところが多いようだから実践では苦労しそうな気がする。
けれど、シュフィーナ様の説明は理由も合わせて教えてくれるから本当に理解しやすかった。
「これくらいかしら?あとは初めて討伐に参加する時は私も同行するから、その時に伝えるわね」
「ありがとうございます!その時は是非、よろしくお願い致します!」
「ええ、よろしくね」
「はい!」
「慌しくて申し訳ないのだけれど、この後にも予定があるの。だから先に失礼するわね」
「はい!お忙しい中、ありがとうございました!」
「ええ、じゃあね」
そう言って来た時と同様に優雅に歩いていった。
彼女の姿が見えなくなってから、私も第八魔法省執務室へ向けて足早に歩き始める。
最近は人目を避けていたから絡まれることもなかったけど、シュフィーナ様と一緒に居るのを目撃されているからまたどこからか令嬢達が湧いてこないとも限らない。
嫌な予感をひしひしと感じながら怒られないであろうギリギリのスピードで早歩きをするが、こういう時の勘というのは当たってしまうもので、人気の比較的少ない通りに差し掛かったところで私の髪を切った令嬢の集団に出くわしてしまった。
「あら、貴方はセナさんだったかしら?最近見かけなくなっていたから、やめてしまったのかと心配しておりましたのよ?」
「ええ、本当に…」
顔に愉悦を浮かべながらくすくすと笑いながらでは欠片の説得力もない。
あの時のことが軽いトラウマになっているのか身体が少し震えてきた。
だからといって震えて何もできないほど心は弱くないけれど、平民である自分には口答えできるはずもない訳で。
「…ご心配頂きありがとうございます…」
「いいえ。お気になさらないで?」
「そうですわ!わたくし、貴方にお話がありましたの。…ついて来て下さるわよね?」
先程よりも醜悪な笑みを浮かべている。
問い掛けの体を為しているが、その実は私が断ることを想定していない。
絶対にただでは返してもらえないことは確定しているのに、彼女らの誘いに乗る以外の選択肢がなくて。
「…はい」
彼女達に周りを囲まれ、逃げないように連行されたのは前に髪を切られたあの場所だった。
あの時の光景がフラッシュバックして頭から血の気が引いていき、身体が冷たくなっていく。
今すぐここから離れたいのに、その逃げ道を令嬢達が塞いでしまう。
「貴方。私達があれ程忠告をして差し上げましたのに、聞き入れては下さらなかったのですね。…残念ですわ、本当に!」
そう言って私に向けていきなり火の玉を放ってきたが、横に飛ぶようにしてなんとか紙一重で躱す。
あ、当たらなくて良かった…
そう安堵した瞬間に背中全体に凄まじい痛みを感じ、その痛みに硬直した途端に体のあちこちに激痛が走った。
熱い痛い痛い痛い熱い!!!
「当たりましたわ!これで貴方風情がテオドール様と居られるはずがなくってよ!」
「何を言っているの?この程度ではポーションで治癒できましてよ。…しっかりと傷跡を残さなくってはね!」
痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたい!!!
追撃の痛みに耐えきれず地面に横たわってしまった私を先程よりも執拗に攻撃していく彼女達。
痛い痛い痛いいたいイタイ痛いいたいイタイイタイイタイ……!!!!!
痛い痛いイタイいたいイタイイタイイタイ……!!!
いたいイタイイタイ痛い………!
イタイ……………
………
…
セナへの攻撃が止んだ時には既に意識はなく、辛うじて生きているような有様だった。
特に顔は原形を留めておらず、全身で見ても怪我をしていない所など残っていない。
そんな状態にした令嬢達は一切悪びれた様子もなく、
「オーホッホッホッホ!!!いい気味だわ!これだけの傷跡が残れば、テオドール様に近づこうだなんて考えもしないでしょう!」
「いやですわ!これでは人にすら会えないのではないかしら!ウフフ…!」
「身の程も弁えずに行動した代償でしてよ!しっかりとこの後の人生も懺悔して下さいまし!」
と罵詈雑言をピクリとも動かないセナに浴びせていく。
そして散々罵ったことで鬱憤が晴れたのか、それとも反応がない事に興味を失ったのか、彼女達はその場にセナだけを放置して立ち去ったのだった。
どうしてこのお方が死にかけてますの?!
わたくしがここに来るまでに一体何があったというのです?
…でも、今は原因究明をしている場合ではありませんわね。
すぐにわたくしが助けて差し上げますわ、セナ様。
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