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19.遂に令嬢達から非難が来たけど、チョロくね?/???(???)

テオの重すぎる恋情に触れてからしばらくが経った。

私は未だにどうしたらいいか考えあぐねている。




彼は公爵家の次男で第三近衛騎士団騎士団長。


それに引き換え、私は平民。



騎士団長というだけでも婚姻は難しいのに、公爵家だなんて不可能に近い。


それに加えて日本生まれ日本育ちの私はこの世界の常識に疎い。そんな私に貴族婦人なんて務まるわけがない。




あの日、あの時、あんな無責任なことを言わなければ、今こんなことにはなっていない。


けれどいくら後悔しようとも、後の祭りだ。



あれから、彼にはぎこちない態度を取ってしまっている。


でも、やむを得ないことだと思ってほしい。




だって、昼食の帰り際にキスしてくるんだもの!


それにスキンシップも増えたし、距離も近いし!



誰にも見られていないからまだマシだけど、バレてしまった時が怖くて仕方がない。


始めは私も拒否しようとしたけれど、テオの綺麗に整えられた笑みを見てしまってからは受け入れるようになった。


逆らってはいけない。そう思わせる、絶対的風格。






そして今日も。


「んッ……ッ…午後も、頑張って下さい…」

「…ああ、セナもな」

「…失礼致しました。」



執務室から退室して足早に魔法省に向かう。



何度しても慣れない。そして緊張してしまうのも、頬が赤くなってしまうのも私だけ。


私ばっかり意識していて納得がいかない。




それに。


「ほら、あの方よ。テオドール様に言い寄っている平民って。」

「あら。テオドール様のお傍に居られるからどれ程の美貌の持ち主なのかと思ったら、ウフフ…」

「自分のことを美人だと勘違いなさっている方は大勢いらっしゃいますもの。きっと彼女もそうなのですわ。」

「可哀想ですわね?」


彼女達のようにこちらに聞こえるようにわざと大きな声で陰口を話す人達が増加している。


きっとテオとの噂が予想以上に広まっているうえに昼食を共にしていることが流れているのだろう。


それに加えて彼が言葉を濁しているのが現実味を持たせてしまっている。



絡まれてしまう前に第八魔法省の執務室に逃げ帰る。


本当に何かが起こる一歩手前。

誰が、いつ、どこで、どんなことをしてくるか分からないこの状況に疑心暗鬼になってしまっている。


どうにかしないといけないのに、どうにも出来ない現状に焦りが募る。






今日はテオが会議に参加するためユリアさんと共に食堂で昼食を食べていた。


「セナさん、だったかしら。ちょっと、お話があるのだけれど。」


顔を上げると貴族のご令嬢にしか見えない女性が三人。


瞳の奥では私を見下しているけれど、遠目から見たら和やかな雰囲気に感じることだろう。




ついにこの時が来てしまった。


「私達は食事中なのだけれど、そんなことも分からないの?」

「あら、貴方。ライム男爵家の長女、だったかしら?私はミューレント伯爵家のダイアナ・ミューレントと申しますわ。男爵家の方が伯爵家の私にそのような態度は、些か品がないのではなくって?」

「それは…」


ユリアさんが言い返してくれたけれど、あまりにも相手が悪い。


基本的に貴族であっても、爵位が上の者に対して下の者は逆らうことが出来ない。



そして平民である私は言わずもがな。


「失礼致しました。食事はもう摂り終わりましたので、ご用件をお伺い致します。」

「セナ…!」

「あら、良かったわ。それじゃあ付いて来て下さる?」

「かしこまりました。」


本当に行きたくないけれど何の対策もしなかった私も悪い。郷に入っては郷に従えともいうからね。


食器を返却して大人しく付いていくと、人影がないうえに建物からは木々が邪魔をして私達の姿を確認出来ないと思われる薄暗い場所に到着した。

そして立ち止まって振り返ってきた彼女達は先程と打って変わって鬼の形相でこちらを睨みつけている。


「貴方、テオドール様と親しいようだけれど、自分の立場を分かっていないようね?」

「テオドール様は平民のあなたが一緒に居て良いお方ではないのよ!」

「あの方の優しさに甘えて!身の程を弁えなさい!」

「そうでしてよ!貴方は知らないかもしれないけれど、テオドール様は公爵家の方ですの。私達でさえお声がけするのを躊躇ってしまう程ですのよ!」

「それなのに、貴方のような野暮ったい平民風情が…!」



あー、はいはい。要は「テオドール様に近づくな」って言いたいのね、この人達は。


私を罵倒しつつ、言葉を変えて同様の内容を何度も言い続ける彼女らに少しも興味がないので聞き流していたらいきなり右頬に平手が飛んできた。


打たれた所がヒリヒリとはしているが、所詮令嬢のビンタなのでそんなに痛くはない。


けれど効いているふりをしておかないとまだこの時間が続いてしまうので、分かりやすく痛がっておこうか…。



取り敢えず、右頬に掌を当てて俯いて震えている風にしてっと。


「…申し訳、ございません…」

「理解しまして?でしたら今後、テオドール様に迷惑をかけないで下さいまし!」

「かしこまりました…」


無抵抗なのをわざとらしいくらいに見せつけたのが良かったのか、その後は少しだけ貶してきただけですぐに解放された。


その余りの単純さに呆気に取られてしまう。



意外と令嬢たちって、チョロい…?


そう思いながら第八魔法省執務室に急いで戻った。











いつの時代も人間はかくも醜い。


かの者に託されたからこそ見守っているものの、本当に見るに堪えない。


あれも反撃が出来れば良いのだが、無理難題である事はかの者と共に充分と理解している。




…我が出張る事態に為らなければ良いのだがな。

読んでいただきありがとうございます!


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