18.予想外すぎる感情
最近朝出勤すると机の引き出しに仕舞っておいたはずの物が無くなっている、若しくは荒らされていることが多々ある。
事が起こり始めたのがテオと食堂で話をしてからなので、十中八九彼に恋情を抱く誰かの仕業だろう。
現在は実害がないので取り敢えず放置しているが、今後を考えるとこのままなのは非常に良くない。
けれど、彼に知られると要らぬ争いを引き起こしそうな予感がしているので、今まで通り昼食は第三近衛騎士団の執務室で摂っている。
そのため『私とテオが恋仲なのではないか?』という噂が独り歩きしている状態になっている。
本当に勘弁してほしい。
ユリアさん達に根掘り葉掘り尋問を受けるし、食堂で話をしていると周りの人達が聞き耳を立てているのが分かってひどく落ち着かない。
皮肉なことに第三近衛騎士団の執務室での昼食という現状一番悪手な行動が、私の唯一リラックスできる時間となってしまっている。
そして今日も彼が待つ執務室へ向けて廊下を渡っている時だった。
「テオドール騎士団長に恋人が出来たって本当なんですか?」
「…誰からそんな話を聞いた?」
私のいる場所から少し先にテオと見知らぬ騎士団員さん達がいる。
咄嗟に物陰に隠れてしまったので怪しい人になっていることだろうと思うが、ここで噂のもう一人の張本人である私が加わってしまうよりはマシだと思う。
「誰って、騎士団も魔法省もこの話で持ち切りですよ!」
「…そうか」
「それで、本当なんですか?あの噂。」
「皆の想像に任せよう。ではな」
「ええっ?!否定しないんですか?!」
私も同じこと思ってるよ!見知らぬ騎士団員さん!
そして意味深な事言い残して去らずにちゃんと否定してよ!でないと…。
「…これはマジなやつじゃないか?」
「だよなー!今まで似たような噂が立った時は即否定してたらしいし!」
「あのテオドール騎士団長を惚れさせるなんて、一体どこの御令嬢だ?」
「実はさ、ここだけの話。最近入ってきた平民の筆頭魔法士が相手らしいよ!」
ほらー!!!私に辿り着いてるじゃない!
もうこの際、嫌がらせのことバレる云々言ってられない!こうなったら本人に直談判するしかないわ!
このまま放置したらどんどんエスカレートしていく未来しか見えないもの!
話し込んでいる彼らがいなくなるまで待ってから通い慣れた廊下を歩き、執務室に到着する。
いつものようにノックをして返事が返ってきてからドアを開けると、執務机で書類仕事をしているテオがいた。
「待っていた。今日は何だ?」
「…その前にちょっといいですか?」
「何かあったか」
「先程団員さん達と会話しているのを偶々聞いてしまいまして。それで私とテオの関係をなぜしっかりと否定してくれなかったのかについて、納得のいく説明をして下さい!」
「ふむ。否定する必要性を感じなかったからだ」
「は?」
何言ってんだこの人。必要性しかないだろうが!
このままいけば私はあんたを慕う令嬢たちに何されるか分からないんだけど?!
「…私とテオはお付き合いをしていないはずです。ですから、嘘の情報は正すべきではないですか?」
「だが、将来私達は婚姻するのだろう?ならば必要ないではないか」
「はい?」
私がいつあんたと結婚するなんて言った???頭大丈夫か???
「…いつそんなこと言いました?」
「いつまでも待っているのだろう?私のことを。あれはプロポーズではないか」
「…はあ?!」
確かに10年でも20年でも待つとは言ったが、好きになったわけではないとも言ったよね?!
もしかして自分の都合のいい所だけしか覚えてないの?!
というか、この人本当に私のこと好きだったの???一度もデートとかプレゼントとか恋人っぽいイベントもなかったのに?!
それなのになんでいつまでも待っててもらえると思い込んでるの、この人は!!!
…そんな安っぽい女だと思われてるのが腹立つ!!!
「私は待っているとは言いましたが、結婚するとは一言も言っていませんが?それと悠長に構えているのはいいですが、魔法省に務めるようになってから私が関わる人達も増えていますので、そこの所お忘れなきように!」
「…約束を破るつもりか?」
私の顔を覗き込む彼の瞳には仄暗い感情が渦巻いていて、背筋がゾッとした。
身体が冷たく感じて、震えてくる。
…怖い
テオにこんなことを感じるのは初めてだ。
けれど、これが高位貴族である彼の一端なのだろう。
彼は椅子から立ち上がってこちらに近づいてきている。
「…っ……」
逃げないと、と本能は警笛を鳴らしているのに身体が全く言うことを聞いてくれない。
目の前で立ち止まった彼の右手がこちらに伸ばされているのが視界の端で見える。
咄嗟にギュッと瞼を閉じて衝撃に備えるけれど、あるのは左頬に感じる掌の温かさだけだった。
恐る恐る目を見開くと、そこにはテオの陰のある眼差しと自身の唇に柔らかい感触。
時間にしてみるとほんの数秒だったかもしれないし、何分も経っていたかもしれない。
けれど、私にはそんなことは関係ない。
今の今まで、彼の言葉を偽物であると思い込んでいた。
それなのに…
「セナ」
「…な、に…」
至近距離にいる彼の顔を仰ぎ見ながら喘ぐように呼吸を繰り返していく。
いつもならちゃんと敬語で答えられるはずなのに、今はそんな余裕はない。
自身に向けられている感情に、そして予想を遥かに上回る重みを持たれていることに、動揺を隠しきれない。
「これを」
彼はそう言って私の首に手をまわし何かを付けようとしている。
そのため抱きしめられているような体勢になり、自分ではない香りに鼓動がどんどん激しくなっていった。
やっと付け終えて離れてくれた彼の顔は満足げに笑っている。
視線を下に下げると銀髪を彷彿とさせるチェーンにサファイアの装飾が施されてるネックレスがあった。
「…あり、がとう、ございます」
「ああ、…私は、セナ以外と結婚しない。」
「…それは…」
「それは常に身に着けておくように。」
「…はい」
テオから与えられるこれらはどこをどう取っても、独占欲にしか考えられなくて。
この後食べた昼食は、何の味もしなかった。
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