14.詰んだ
「私は第三近衛騎士団副団長を任されているフィン・ガルシアと申します。今回は団長を含め、多くの騎士があなたのおかげで生きて帰ってくることが出来ました。代表して感謝申し上げます。本当にありがとう…!」
「いえいえ!頭を上げて下さい!」
今私は王城の応接室っぽいところにいる。
あの後足りていない分のポーションを提供し、テオの提案により転移魔法で騎士達を王都近くまで送ってきた。
そして彼らに同行する形で王城に来てしまい、ここに通されたのだ。
あの人は最近私を便利な移動手段と思い始めていないか…?それと嵌められた気がしなくもない…。と、更なる疑惑をテオに募らせながら待っていると副団長さんが登場して今に至っている。
身分の高そうな人から頭を下げられるのは心臓に悪いので早急にやめて頂きたい。その思いで何とか顔を上げてもらい、話を進めてもらう。
「あなたのおかげでヒュドラを討伐できただけでなく、以前にも団長の命を救って下さったと聞いております。何かお礼をさせて頂けたらと思うのですが…。」
「いえいえ、お気になさらないで…。あの、つかぬ事をお聞き致しますが、団長ってどなたでしょうか…?」
お礼って何?!と思う気持ちで浮かれていたのだが、団長ってもしや…。という疑念が沸き起こり、好奇心に勝てず質問をしてしまった。
正直、別人であれ!と思う気持ちが強い。
「えっと…。聞いていませんか?」
「はい…。何も…」
「あー……失礼しました。団長は私も所属している第三近衛騎士団の団長を任されている者で、名前をテオドール・リィ・アルガータと言います。…誰か分かりましたか」
「…私が治療をした人はテオという名前で、騎士で貴族ということしか存じ上げておらず…」
「…ほぼ何にも教えてないな!!」
「ええ、本当に…」
情報の少なさにビックリしている彼に心底同意する。
もう少し教えてくれてても良くない?私あなたを助けた人よ?一応。
驚愕していた彼はしまったという表情をした後、佇まいを直している。
「失礼しました。ビックリしてしまって…」
「大丈夫です、私もびっくりしていますから。…それと普通にして頂いて結構ですよ?」
「なら遠慮なくそうさせてもらうわ」
「あ、はい」
いや、こっちの方がいいけど本当に楽にするんかい。副団長って多分貴族だよね?
ちょっと面を食らっている私に構うことなく会話を続けていく副団長さん。
「で、何か欲しい物とかない?報奨金とは別で俺達からのお礼だからお金以外で。」
「そうですね…」
「何でもいいよ?ドレスとか宝石とか。」
そんなもの市民の私が貰っても使えない…やっぱり貴族だ…。そしてこの人にしか出来そうにないお願いが一つ浮かんでいたりする。
「…何でもいいんですか?」
「うん。何でもー」
「…じゃあ、テオ、ドール様が、私の知るテオだった場合にそれとなく伝えてほしいことがあるんですけど、いいですか?」
「えっと、本当に伝言だけでいいの?」
「はい!是非お願いします!」
何を言おうか。「お金足りてない」か、「食費払え」か。いや、やっぱりここは…。
「…分かった。で、何を言えばいい?」
「…では。お酒くらい自分で準備して下さい、とお伝え下さい」
「…ん?酒?」
「はい、お酒です」
「…何で酒?」
お酒代が一番嵩んでいるからですよ!
「時々家に泊まりに来ていて食事やお酒を振舞っているんですけど、金銭的に余裕がなくて困っていまして…」
「…あいつ金払ったりとかしてないの?」
「…療養していた時の治療費とか食費とかは渡されたんですけど…正直足りてなくて…その後は一回もないです…」
「…マジかー……」
フィンさんは天を仰いだ状態になってしまった。
本当にわかる、その気持ち。私も天を仰ぎたい。
そしてこのタイミングで扉のノックがされ、テオが入ってきた。
ふたりで彼にジト目を送ってしまうのは仕方がないことだろう。本人はこの視線の意味が分かっていないからか、訝しげに首を傾げているけど。
「どうかしたか」
「いえいえ、何でもありません」
「いや、まあ…なあ」
歯切れの悪い回答しかしない副団長さんに彼は眉間に皺を寄せた。
このままでは問い詰められる気がするので用件を聞いて早いところここから脱出してしまおう。
「ところで、何かございましたか?」
「ああ。魔法省の者達がセナの今回の活躍を鑑みて筆頭魔法士にしようとしていてな。それで確認に来た。セナは全属性は使えなかったな?」
…これは詰んだ。
ここで使えないと言えば貴族に嘘を言うことになってバレたら虚偽罪になるし、使えると言ったら筆頭魔法士の仲間入りだ。
本人は確認と言っているが、私からしたら日常終了のお知らせなんだよ…!顔を覆ってしまっても大目に見てほしい。見ている二人は意味が分からないと思うけど。
「…使えます…」
「…使えるのか?」
「…使えますね…あはは……はあ…」
もう外面を完全に維持出来なくなっている。ごめんなさい、トムおじいちゃん。何にも守れない義孫で。折角家もくれたのにもう住めないかもしれない…。
「そうか!なら魔法省にそのことを伝えて私の方からもセナのことを推薦しておこう!」
…私の気持ちを汲み取れとは言わないからせめて、雰囲気を感じ取ってほしい。そして全力でやめて頂きたいけど私に言える言葉は一つしかない。
「はい…お願いしますね…」
「ああ!では失礼する!」
テオは意気揚々と部屋を出ていった。きっとこの後報告に行って推薦までしてくることだろう。
出そうになる溜息を何とか噛み殺し、今まで顔を覆っていた手を退けて副団長さんの顔を覗き込む。彼もまた溜息を吐きそうな表情で呆れていた。
「…さっきのお願い、本当に伝えて下さい…!お願いします…!」
「…あなたは筆頭魔法士になりたくないんだよな?」
「…はい…」
「だよなー。でもあいつはそれに気づいてなかったな…いつもなら気づくのにな…」
「気づいてほしかった…!」
「…迷惑かけているようですまないな」
「…いえ、大丈夫です…」
本当は大丈夫じゃないです…!
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