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13.運命では?(テオ視点)/んなわけあるかッ?!

「王都近郊にヒュドラの出現を確認したため、これより討伐に向かう。心して係るように!」

「「「「「ハッ!!」」」」」




今から指揮官として軍を率いてヒュドラの討伐に行ってくる。


ヒュドラとは九つの頭を持ちその口からは毒を吐くとされている凶悪な魔物である。


本来であれば第三近衛騎士団団長の地位を任されているため行く必要はないが、自分から志願したのだ。

功績を稼ぎ、セナと結婚をするために。



そのセナには「やっぱ、冗談だったかぁー」と思われているとは露とも知らないが。


そんなすれ違いが起こっておること知らないテオドールは軍に先頭に立ち、馬に跨って王城を出て大通りを堂々と進んでいく。


近くに強力な魔物が出て不安に思う市民に対して、討伐が行われることを示す一種のパーフォーマンスによって人々に安心感を与えているのだ。


「頑張って下さい!」

「ご武運を!!!」

「騎士さま!お帰りをお待ちしています!」


沢山の市民から自分達に次々と言葉がかけられる。

武装した自分とその後ろに続く頑強そうな騎士達を目にするだけでも皆の表情がパッと明るくなっている。セシル殿下に言われてしまったため仕方なく行うこととなり、本当はこんなことはしたくないと思っていたが、これらを見ると行って良かったと思う。




そうして王都の門を抜けると一気にスピードを上げ、街道を駆けていく。今日はヒュドラの目撃情報が寄せられた街まで行き、1泊してから万全の状態で挑むことになっている。



しっかりとその首を刎ねて功績を上げなければ。


野望を心に秘めながら馬を半日ほど走らせ、目的の街に到着した。

予約していた宿に向かい指示を出した後、先に出発し情報収集に努めていた駐屯兵に話を聞いて作戦の見直しをして自分も身を休めた。




十分に英気を養った私たちは最後にヒュドラの目撃情報があった場所へと馬を走らせる。


するとそこには七つの首を地面に伏して目を閉じ、二つの首を擡げさせ周囲を警戒するヒュドラがいた。



未だこちらに気が付いた様子はない。

作戦通りに魔法による先制攻撃を行う指示をジェスチャーで伝えていく。私を含めたそれぞれが魔法を放てる準備を行い、合図とともに一斉に発動させる。


魔法の発動によってやっとこちらの存在に気が付いたヒュドラが攻撃を避けようとしていたが、降り注ぐ魔法の数々を避けることなど叶わず悲鳴を上げた。


「ギャアアアアアアアアア!!!!!」

「散開!」


痛みで四方八方に毒をまき散らしながら暴れまわっているヒュドラの左右に展開しながら皆で常に魔法を浴びせ続けていく。


こうして徐々に弱らせていき最後に首を刎ねる作戦であり、順調に討伐が進んでいると言っていい。


しかしそんな簡単にヒュドラがやられてくれるはずもなく、私を含めた騎士達がいる方向目掛けて毒を吐き出してくるが、それを魔法によって防御し、毒や怪我をポーションによって回復する。そしてこちらに注意を向けている間に他の者達が更に魔法によるダメージを与えていく。



戦況は確実に私たちに傾いている。

誰もが「このままいけば…!」と心の中で思っていた時、ヒュドラが移動を始めたのだ。


逃げようとしているのか、はたまた毒を吐くだけでは駄目だと気が付いたからか。真実は分からないが、この行動により戦況は一変してしまった。


近接戦を強いられてしまった騎士達の一部は噛み付きや唯一ある尻尾から繰り出される横からの殴打に全く対応出来ずに戦線離脱を余儀なくされた。


そしてその者たちを助けるために何人かも離脱してしまい、ヒュドラにダメージを与えるよりもこちらが怪我を回復させるほうが間に合わなくなっている。


このまま戦い続けても勝てるかどうか。勝てたとしても何人死なせることか。



頭に「撤退」の二文字が浮かんでくる。






そんな時だった。



「テオ?」


自身を呼ぶ声が聞こえた気がした。


幻聴かと思ったがそんなことはなく、もう一度「大丈夫?」とあの声が聞こえてきた。


辺りを見回してみると、少し離れたところに確かにセナがいた。



「なぜ来た?!」と思うと同時に「助けに来てくれたのか」と安堵が心を支配していく。彼女はヒュドラを警戒しながらこちらに近づいてきてもう一度私に問うてくる。



「大丈夫?」と。



あなたが来てくれたのだから答えは一つに決まっている。


「大丈夫だ」

「そうですか?なら良かったです。お手伝いはいりますか?」


一般市民であるあなたに手を借りるべきではないのかもしれない。それでも。


「頼めるか?」

「任せて下さい。」


彼女は笑顔を浮かべて自信満々に答えてくれる。これを信じられずにはいられようか。


あなたの姿を、声を、言葉を感じるだけで力が湧いてくる。先程感じた焦燥感はもうなく、勝てるビジョンしか見えてこないのはなぜだろう。



この戦況、このタイミング、この湧き上がる力は。






やはり彼女は私の運命の人だ!!!






めっちゃピンチじゃん。大丈夫じゃないじゃん。

何、口角を上げてヒュドラに突撃かましてんの?頭打った?



セナはテオのことをとても心配していた。主に脳の方を。


ここにいるのは買い物に行った街でヒュドラが出たと聞いて一目見に来ただけだ。あわよくば倒してお金稼ぎをしようと思って。


そしたら彼等が戦っていて有利に戦いを進めていたので様子を窺っていたら、いきなり形勢逆転されてしまい、折角助けた彼が死にそうな状況に黙っていられなくなって出てきただけだ。



決してテオドールが思っているような運命的な何かはない。あるのはお金に対する執着だけである。それでやる気を出してくれているので結果オーライではあるが。


手伝うと言ってしまった手前やらなくちゃいけないけど、魔力量も威力も普通であるが故にあまり攻撃の役に立てないというジレンマに陥りながらも魔法を発動していく。


「えっ!何で?!」


しかしなぜか風魔法で作り出した風の刃でヒュドラの首のひとつを切り落としてしまったのだ。


セナは回復魔法が最も得意で攻撃魔法全般が苦手である。

つまり、どんなに頑張ってもヒュドラの首を一撃で落とせるわけがなかった。本来であれば。


しかし現実では切り落とせてしまっている。この事実に若干のパニックになってしまっていた。



一体、私の魔法に何があった?!?!どうしてこうなった?!?!



それを理解する時間を首を落とされたヒュドラが与えてくれるはずもなく、今にも増して暴れ狂っている。


そうなると近接戦闘をしている騎士達は更に苦戦を強いられ、怪我を負った者から離脱してしまい戦線の維持が困難になっていく。



か、考えてる暇がない!とりあえず、なんかわかんないけど威力の強い風魔法を当てて倒そう!


そうして風の刃を生成して放っていくが、警戒されてしまって思うように当たらない。当たっても首が少し切れてしまうだけで大きなダメージになってはいなかった。



このままじゃ、みんな死んじゃう…!



そう考えた時、一つの首が切り落とされ地面に落ちていった。


近くにはテオの姿がある。



それを見た瞬間に自分も風魔法を首に狙いを定め、放つ。


見事に命中し、三つ目の首が地面に転がる。これで残り六つ。


この勢いに乗るかのように戦線を離脱していた騎士達がポーションによる治療を終えて攻撃に加わった。

そしてまたもや戦況が大きく変わっていく。


「放てぇーーーー!!!」


魔法士たちが一つの首に魔法による一斉攻撃を行い、千切れさせる。残り五つ。


私も彼らに負けじと風魔法を当てる。残り四つ。


テオがまた剣で切り落とした。残り三つ。



ヒュドラも死ぬまいと暴れまわり、どんどんと攻撃の苛烈さを増している。


「これより遠距離攻撃主体に切り替える!魔法準備!!!」


それに対してこちらは冷静に状況を見極めて魔法を主体にした態勢に切り替え、ダメージを蓄積させていく。


そして少しずつ少しずつヒュドラの動きが鈍らせ、テオが、騎士達が、最後に私が残りの首を切り落とした。


「「「「「ウオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」」」」」



そして完全にヒュドラは地に伏せ、二度と起き上がることはなく、辺りには騎士達の雄叫びだけが響き渡っていたのだった。

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