11.以前は気が付けなかったこと(テオ視点)
昨日は屋敷に戻ると家族が総出で私を迎えてくれた。
皆それぞれ役職などがあり、忙しいはずだが、それでも時間を割いてくれたのだろう。
何年ぶりかに家族揃って夕食を囲む。
久しぶりに食べた料理長の食事は懐かしくうまかったが、それでもセナの目新しい料理の方が私の舌には合っていると思った。
そして今、執務室で帰還したことを絶賛後悔中だ。
なぜならこの部屋が暑すぎて全く書類に集中できないからだ。
窓を開けているのになんだこの暑さは。
毎年こんなに暑かったか?汗を流しながら書類仕事をするなど一体何の冗談だ。
テオドールはセナの作りだす快適空間に慣れ過ぎて昔の環境に耐えられなくなっていた。しかもそんな環境に居て毎日おいしい氷菓子を食べていたのだ。
我慢しろと言うのが無理なのかもしれない。
「フィン、窓を閉めろ」
「はあ?暑すぎて頭おかしくなったのか?」
「このままだと本当に頭がやられる」
「え?マジで言ってる?」
…フィンのことは無視して魔法で冷やそう。確か…。
セナに教えられた通りに魔法を発動していくと部屋の温度がどんどん下がっていく。
そのことに気が付いた団員から喜びの声が上がる。フィンはやっと動き出し、窓を閉めた。
フィン以外にもこの場にいた団員全員がテオドールの言動に驚いていた。
今までの彼はどんな気温でも涼しい顔をして書類を熟していたし、こんなことに頓着しなかった。
それがいきなり文句を言い始め、部屋の温度を下げたのだ。
それでも灼熱地獄から快適空間になったのだ。喜んで当然だろう。
テオドールはこの後のことを考えていた。
魔法の発動を中止すると部屋の温度は戻り、使用し続ければ魔力が持たない。
セナの家ではどうしていただろうか…。
「誰か盥を持って来い。大きいものを二つだ。」
私の言葉を聞いて扉近くの団員が走って出ていった。
すぐに動けるところはフィンよりも優秀だな。
隣にやってきたフィンはまた理解できていないのか訝しげに見てくる。
「…お前盥なんてどうすんの?」
「このままだとまた部屋が暑くなる。氷を出して室温を保つ」
「お前氷魔法なんて使えたか?」
「使えるようになった」
「は?何で?」
「助けてくれた者に教えてもらった」
「マジか。すげぇ奴に助けられたんだな」
「ああ」
しばらく待っていると団員二人がちょうどいい大きさの盥を持って戻ってきた。
そこに縦長の氷を作り出していく。
適当に作ると倒れてしまうためゆっくり慎重に作り上げる。作り終わったら部屋の隅に対角になるように置いておく。
これで問題ないだろう。
「これで集中出来るな」
「「「「「ありがとうございます!団長!」」」」」
「まあ、ありがとうと言っておくわ」
「ああ」
快適な仕事空間を作り出してからは昼まで集中して書類に取り組めた。
しかしセナの家のように待っていても食事は運ばれては来ない。
仕方なく食堂へ行き食べるが、あまりうまくない。
騎士向けのメニューは味付けの濃いものや肉が多く、今の私には濃すぎる上に油っぽく感じてしまう。
…明日からは我が家の料理長に作らせたものを持参するか…。
昼食を終えてからは模擬戦を行う。
フィンと一対一で行ったのだが、三か月のブランクは大きく、前より動きにキレがなくなっていた。
その代わり魔法を扱えるようになったおかげで戦略に幅が生まれた。
このままでは近衛騎士団長としての威厳はないが、着実に怪我以前の状態に戻していこうと思う。焦って怪我をしては本末転倒だろうからな。
その日の夜、テオドールは早速料理長に話を付けに厨房を訪れた。
いきなり訪ねたことに驚いていたが、すぐに料理長が出てきて対応される。
「いかがなさいましたか?今日の晩餐の料理に何かございましたでしょうか?」
「今日も大変美味だった。すまないが、明日から昼食を持っていきたいのだが、可能か。」
「はい!勿論でございます!誠意を持って作らせていただきます!」
「頼むぞ。」
「かしこまりました!」
そして次の日も朝から執務室の気温を魔法で下げ、氷を置き、書類に取り掛かる。
訪れた他の騎士団の者が室温に驚き、なかなか部屋から出ようとしなかったのは想定外だった。
昼食は執務室で摂ったが、料理長は気を利かせて菓子まで作ったようだ。
氷菓子ではないのが残念ではあるが、ありがたい。
セナと共にいた時は毎日何かの菓子を口にしていた。
今食べているフィナンシェは彼女が作るものより甘みが強いが、甘さの苦手な私に合わせて控えめにしてくれている。その気遣いが嬉しく思う。
「何か、甘い匂いがしないか?」
そう言ったのは昼食を食べ終えて戻ってきたフィンだった。まだ菓子を食べ終えて間もないので、香りが残っているのだろう。
「私だろう」
「は?テオ、菓子か何か持っていたのか?」
「ああ、我が家の料理長が昼食と共に菓子も入れていてな」
久しぶりに食べた料理長の菓子はうまかったが、紅茶が最後に欲しくなった。
明日からは紅茶も頼むか、自分で入れるようにするか、悩むな。
「なるほど。じゃあ、俺にもくんない?」
「もう無い」
「え、食ったのか?」
「ああ」
「テオが?全部?」
「ああ」
「…お前ホントにどした?」
「何がだ」
「いやいやいや!変わり過ぎだって!前のお前は菓子なんて殆ど口にしてなかっただろ!」
いきなり大声で指摘をしてくるフィン。
そして周りを見れば戻ってきていた団員達も首を縦に振って同意している。
…言われてみるとそうかもしれない。
以前の私は菓子だけでなく、食事も食べれれば何でも良かった。
室温もあまり気にしていなかったし、周りの表情など気にもしていなかった。だが、これはセナに影響を受けて変わったことだ。
今と昔で比べたら、今の方が断然いい。
「菓子を食す習慣が身に着いただけだ」
「え、毎日菓子食ってたの?俺が頑張って団長代理してた時に?」
「ああ」
「…ひっでー!!!俺らが汗水垂らして頑張ってる時にお前は涼しいところで菓子食いながら過ごしてたのかよ?!」
「ああ。すまないな?」
「むかつくー!!!」
…ああ。面白いな。
フィンのこの大袈裟な反応も地団駄を踏むような仕草も。
笑いを堪えきれずに聞こえてくる団員達の声も。
どうして今まで気が付かずに過ごしていたのか。本当に勿体無いことをしていた。これからは皆ともっと関わろう。
その後の第三近衛騎士団員は仕事効率が上がったため定時で帰れることが多くなり、ちょっとだけ近寄りがたかった団長が親しみやすくなったこともあってやる気が向上した。
第三近衛騎士団の執務室を訪れた他の騎士団員からは羨望の的となったり、柔らかい雰囲気となったテオドールと交流を始めた者も居たりした。
そのおかげでテオドールの評判が前にも増して更に良くなっていった。
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