1.本当は玄関で死にかけるなと言いたい
「えっ?うそぉ?!」
朝の日課を終えて家に帰ると玄関に血だらけの人がうつ伏せで倒れていた。
半ばパニックを起こしながら慌てて近づいてみると更にひどい。
特に左足が千切れかかっていた。
「大丈夫ですか?!?!」
「…ゔ……ぁ…」
まだ生きていたので私は急いで家に戻り、数少ない上級ポーションを全部引っ掴み怪我人のところへ戻る。
付けている鎧を出来るだけ外して2本のポーションを左足に重点的にかけていく。
かけ終わって止血を確認したら出血しているところを見るに腹部にも傷があるはずなので、仰向けにする。やはり左の腹部に噛み千切られたような跡があった。
それを見て1本を口に突っ込んで無理やり飲ませて、残りを左腹部にかけて止血する。
そして最後に息をしているかの確認をしてようやく一安心することが出来たのだった。
こんなにもドキドキしたのは初めてではないだろうか。でもいきなりにしてはかなり的確な治療だったと思う。
よく見るとこの倒れていた人は男性だった。顔も血だらけでわかりづらいが。
男性は治療をして傷が癒えたからか、寝てしまったようだ。
このまま外に置いておく訳にはいかないので、誰も使っていない2階の客間に引き摺って連れて行く。
「別に見たいわけじゃないの!これは不可抗力よ!」
と誰に対してか分からない言い訳をしてから血だらけの服や鎧を全部脱がせてからベッドに寝かせてやるが、やっぱり身体にも血がべっとりと付いているので、タオルと桶にぬるま湯を入れて持って行き、体を拭いていく。
見たかったわけでは決してないが、男性の身体はとても綺麗に引き締まっていた。
髪は少し血が付いていただけですぐに元の色と思われる綺麗な銀髪がみえるようになったけれど、ポーションをかけていない顔には大きな傷が残っていて見ていられなかった。
それを部屋に備えておいたガーゼや包帯でぐるぐると巻いて応急処置をする。
そして、しっかりと全身をきれいに拭き、部屋を出て大きな溜息を吐く。
誰もちょっと留守にしている間に死にかけが倒れているとは思わないわよ!!!
しかも、あの鎧や鍛えられた身体を考えると、普通の人ではないと思うし。
厄介ごとを抱えた気がして遠い目をしてしまうのは仕方ないと思うの…。
まず、私のことを説明しようと思う。
名前は立花瀬奈。
大学の授業を受けた後のバイト帰りに横断歩道を渡っているところを車に撥ねられて、気が付くとこの世界にいた。
最近流行りの異世界転移と言われてるやつだ。
幸いにして言葉は通じたのだけれど、魔物がいて、魔法がある世界なのに生憎とチートというものは持ち合わせていなかった。
なので、ここで暮らし始まるまではそこそこ苦労もした。常識が分からないし、お金を稼がないといけないし。
どうにか日銭を稼いでぎりぎり生きているような生活を半年ほどしていた。そんな時に出会ったのが、この家の持ち主だったトムおじいちゃんだ。
トムおじいちゃんは何でも知っていたし、聞くと微笑みながら教えてくれた。魔法も教えてくれたし、常識も教えてくれた。
でも、去年の暮れにいきなり亡くなってしまった。前日まで元気にお話したりしていたのに朝起きたら冷たくなっていた。
とても悲しかったが、「私も結構な年でね。いつ死ぬか分からないから、死んだ時はこの家は好きにするといいよ」と何度も言われていたから、まだ心の準備が出来ていた。
それでも何日も泣き喚いてしまったけれど。
今はトムおじいちゃんに貰ったこの家で教えてもらったことを生かして細々と働きながらひとりで暮らしている。
「あれだけ血を流してたんだから、脱水になっててもおかしくないよね…」
そう思って1階に降りて水差しを取り、また2階に上がる。
部屋に着くと一応ノックをして入って椅子をベッドに近くに移動させて座り、水を少しずつ飲ませていく。
喉が上下しているのを確認して少しずつ丁寧に。
大体、コップ一杯分くらいを飲ませたところで止めた。余り一度にたくさん飲ませるのも良くないかもと考えて。
その後に1階に降りてまだ食べていなかった遅い朝食を食べても、あの怪我人が気になりすぎて全くおいしくない。だから完食してすぐにまたあの部屋へ訪れる。
生きていることを確認してからまた1階に戻った。
「もしかして、病人用の食事が必要…?」
怪我をしていた分の栄養を補わないといけないよね…?多分。
そう考えてドロドロの離乳食みたいなのを作ってみた。味見もしたので大丈夫だろう。
病人食を持ってまたまた部屋を訪れる。そして椅子に座り、食事を口に入れていく。少しずつ食べさせたからか意外と噎せなかった。
時間はかかったけれど完食してくれた。
食事を摂った後にまた少しずつ水を飲ませる。
またコップ1杯ぐらいを飲ませたぐらいでやめて、今度は様子を観察する。呼吸は規則正しいし、熱も今のところないが、いつ急変するか気が気じゃない。
私はこの人が起きてくれるまできっと安心することが出来ない。
だから。
彼が出来るだけ早く目覚めますように。
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