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戦士さんの過去

しばらく戦士さんに抱えられていた。

街の明かりが小さくなったあたりでやっと走るのをやめた戦士さん。


「ハァ、ハァ、とりあえずこの辺りまできたら大丈夫かな」

「あ、ありがとうございますぅ~~うぅぅ」


森の入り口付近に生えていた木に持たれ休憩する。


「さぁて、朝までどうしようか、森に入るのは危険だし」

「寝床を作りましょうぅぅぅ」


戦士さんの脇腹で揺られて気分の悪い錬金術師


「戦士さん、明かりはありますか?」

「あぁ、あるよ、でもここでつけるのはまずいかも、もし誰か追いかけてきてたらすぐ見つかっちゃうよ」

「森へ入りましょう」

「だめだよ!猛獣がいたら僕ひとりじゃ対応できないかも!」

「大丈夫です、少しはいるだけですから」


首をかしげながら道具が入っている腰のカバンから手のひらサイズのランプを取り出した。

正直これじゃぁ足元を照らすので精一杯だろう、そう思ったが意外と明るい。

前の世界では夜も明るく、ランプなんて必要なかったが、この世界の夜はとても暗い。

なので、少しの明かりでもかなり役に立ちそうだ。

※魔力のランプなので思った以上に明るいよ


--少し森に入った所で--


「よし、このへんでいいでしょう」

「どうするの?」

「見ててくださいね!あ、でもなんか見られてると恥ずかしいんであっちむいててください・・」

「え、えぇ~」


しぶしぶ後ろを向く戦士さん。

後ろのほうで『ガサゴソ、ゴソゴソ』と木や葉っぱの音、土をほっているような音が聞こえた。

物音で猛獣がこないかヒヤヒヤした戦士さん。


「ど、どうぞ~」


振り返る戦士さん。

土の上には1枚の板のようなものがあった。


「お、これに寝るのかい?」

「あ、いえ、これを持ち上げてください」

「え?うん」


結構しっかりとした板だ、人が乗っても壊れないくらいに。

戦士さんが板を持ち上げるとそこには二人が楽々入れるような空間があった。

床と壁に板をつけ、床の上には木の繊維が敷き詰められている。


「す、すごい・・・」

「え、えっと、上の木の板にこの余った木の枝をのっけておけば、見つかりにくいし、動物も乗らないでしょう?」

「なるほど・・・」


先に錬金術師が入り、後から戦士さんが蓋となる木の板をずらす。


「少し開けておいてくださいね、空気が入るように」

「わかったよ」


そういって隙間から手を伸ばし、目立たないように木の枝で穴を隠した。


「うわ、すごいね、『boro yado』のベッドよりふかふかだ」

「ふふ、よかったです」

「この中だと眩しいし、ちょっと明かりを暗くするね」

「そうですね、外に光がもれないほうがいいですしね」


ランプの光を調整し、薄暗くなる部屋。

戦士さんは安全そうな場所で落ち着いたのか、心地よさそうに横になろうとする。


『ガゴッ』


兜が壁にあたる。


「いて」

「す、すみません、少し部屋が小さかったですね・・・」


楽々入れるスペースではあるが、長身の戦士さんには長さがたりなかったようだ。


「はは、大丈夫だよ、ベッドから足が飛び出ることなんてよくあるしね、いやしかしスゴイね」

「ありがとうございます」

「やっぱり錬金術じゃなくて、魔術かなぁ?それどこでならったの?」

「え!あぁ、け、結構小さい頃だったかなぁ?たぶん、先生がいたんですけどぉ・・・忘れちゃいました」

「へぇ~、小さい頃から教わってたのかぁ、そりゃすごいね」


それほど小さい頃に教育を受けられるなんて、やはり結構なお金持ちなんだと思う戦士さん。


「そ、それより戦士さんのことを聞いてもいいですか?」

「僕のこと?いいけどなんだい?」


これ以上言い訳するのも苦しいので、戦士さんのほうに話を切り替えた。


「あの、え~っと・・・」


特に聞くことも考えていなかった。

そこでとりあえず思いついたことがひとつ。


「あ、戦士さん、お、お名前は?」

「え、あぁ~、はは、いや~特に無いかなぁ?」

「えあ、そ、そうなんですか」

「うんー、まぁ無いってことはないんだけどね」


戦士さんは事情を話してくれた。

幼い頃、物心ついたときにはおじいさんと二人暮らしだったそうだ。

そのおじいさんも戦士さんのことを坊主やらチビすけなどと呼んでいたようだ。

村から少し離れた場所に住んでおり、特に自分も周りも気にすることもなかったようだ。

友達がいなかったわけではないが、子供同士だ、適当なあだ名で呼んだり呼ばれたりしていた。

今の錬金術師より少し大きくなった頃にはおじいさんはなくなり、1人になってしまったようだ。


「それで、じいちゃんは昔、強い戦士だったそうで、僕も戦士になろうと思ってね」

「な、なるほど」

「いろいろ鍛えてもらったけど、どうも剣の才能が無いみたいで、でもじぃちゃんは優しかったなぁ、

 何度でも教えてくれたし、剣の才能が無くたって戦える、それに戦うことだけが戦士じゃぁない、

誰かを守ることだって戦士の役目だ、だったかな?そんなことを言ってくれたよ」

「ほ、ほぉ~」


確かに、最初の村で突撃してきたとき、剣を腰から下げているだけで抜いてはいなかった、そういうことかと納得した。

戦士さんは少し小さくなり、おじいさんを思い出したのか、ちょっと寂しそうにしていた。


「あ、あぁ」


どう声をかければ良いかわからなかったが、とっさに出た言葉は。


「あ、あの、私も実は、ちゃんとした名前が無いんです!一緒ですね、へ、へへへ」

「え、え!?お嬢ちゃんも?お金持ちそうなのに」

「は、はいぃ、えへへへ」


こちらも事情を話していいものなのか、戦士さんは優しそうだから全て正直に話しても信じてくれそうだ。

だが、逆に嘘を付いていると思われたくなかった、今、唯一頼れる戦士さんに嫌われたくなかったので、やはり真実は話せなかった。


「ま、まぁ、本当はあったんです、でもその名前が嫌いで、その名前を私に付けた人も・・・その・・・あまり思い出したくなくて」

「そうなんだ、今はどうなんだい?1人で旅をしていて、辛くないかい?」

「は、はい!わからないことだらけですが、以前より、良いと、思いたいです・・・怖いこともよくありますが・・・」

「はは、そうだったね!でも、これからもっと楽しいことがあるかもね、あったらいいね!」

「はい!」


二人は自然と横になる、くっつきそうでくっつかないくらいくっついていた。


「あ、でも、なんて呼べばいいのかな?」

「好きに呼んでくれてかまわないよ、組合に登録したときは確か、『kabuto』だったかな!」

「え、なんでですか?」

「ふふ、このかっこいい兜を買って嬉しかったからかな!それでお金が無くなってあの盗賊団を討伐しに行ったんだよ」

「そうだったんですねー、うーん、何かいい名前が思いつけばいいんですが、、、」


考えるがよい名前が思いつかない。


「そ、そうですね、とりあえず思いつくまで、戦士さんでもいいですか」

「あぁ、もちろんだよ!それに、僕みたいな人間を戦士だって認めてくれているみたいで嬉しいよ!」

「よかったぁ、じゃぁ、私もとりあえずお嬢ちゃんでいいですよ!」

「はは、そうかい!」


薄暗い部屋で眠りにつく、ふと戦士さんの顔を見る。

寝るときも兜をかぶっている戦士さん、顔がはっきり見えなかったが、口元が少し見えた。

とても優しそうな顔立ちだった。


--お昼ごろまで寝てた--


「お嬢ちゃん?起きて」

「ん?んぅ」


目をこすり起きると戦士さんがこちらを見ていた。

寝ぼけていて、状況を判断するまで少し間があったが


「あ、す、すみません、おはようございます」

「あ、あぁ、おはよう、だいぶ寝ちゃったね、この心地いいベッドのおかげかな、アハハ」

「は、はは、そうですね」


戦士さんが天井の板をどける。

錬金術師が登ろうとするが、手の力だけで登ることができないので戦士さんが持ち上げた。


「ふぅ、さて、お昼過ぎたくらいかな?そういえば目的地はあるのかい?」

「あ、えっとぉ、実は、特に行きたい場所とかなくてぇ・・・というより、この辺りのこと全然しらなくて・・・」

「えぇ!?お嬢ちゃん、本当に着の身着のまま歩いて旅をしているのかい?しかも1人で!?」

「あ、あーははぁ、まぁ、変ですよね、えへ、へへへ」

「いや、まぁ~、僕も同じような者かなぁ?じゃぁ、しばらくは一緒に旅をしてみないかい?」

「はい、はい!」

「よし、決まりだね、僕も立派な戦士になりたくていろいろ回っている途中なんだよね」

「ほ、ほほぉ~」

「だから、お嬢ちゃんが行きたい街、住みたい場所が見つかるまで、僕がしっかり守るから!」

「は、はい!よろしく、お願いします!」


さっそく歩きだす。

とにかく街からは離れようと思い、西からまっすぐ道沿いに行ったところの一番近い村を目指す。


「あ、戦士さん・・・そういえば、お金ありません・・・全部・・・」

「あぁ、そうだったねぇ・・・大丈夫!しばらくは盗賊討伐の報酬があるから!」


頼りになる戦士さんだった。


--道を歩きながら--


「うーん、やっぱりちょっと寝すぎちゃったね、暗くなる前に村にたどり着けばいいんだけど」

「あは、あはは、ですねぇ~」

「あ、でもお嬢ちゃんがいれば寝床は問題なさそうだね!」

「はい!おまかせあれ~ふふふ~」

「でもさ、あれって疲れたりしないの?寝床を作るのもそうだけど、あんな大きな壁を全部金貨にしちゃったりして」

「うーん、どう、でしょうね?」

『ぐぎゅる~るる』

「あ、でも、お腹が、す、すきましたね・・・昨晩食べ損ねて・・・」


昨晩から何も食べていないことを思い出した。


「そ、そうだったね」


戦士さんは苦笑いをしながら腰のカバンから木の革で包んだ干し肉を出してくれた。


「ほら、これを食べて、ちょっと硬いけど」

「あぁ~ありがとうございます!」

『ガチィ』


結構硬い、思ったより硬い、だいぶ硬い。

だが、空腹にはかなり効く味だ。

噛み切れないものの、ガジガジと噛むとおいしい味が口に広がる。

一生懸命かぶりつく様子を見て笑みを浮かべる戦士さん。


「え~っと、お嬢ちゃん、食べながらでいいんで聞いてほしいんだけど」

「はふぃ、なんでほうか」

「とりあえずこの道の先にある村にたどり着いて、そこで宿泊するとして、その後はどうしようか?」

「ん?ん~?」

「僕が旅をしてきた道を案内してあげるのもいいし、それとも一緒に新しい街を目指してみたりするかい?

 それと、お嬢ちゃんは何かやりたいことがあるのかな?」


かちかちの干し肉をやっと噛み切ることができたが、喋るために頑張って飲み込む。


「んぐんぐ・・・んっ!(ごくり)わたしわ、、、この世界のことをもっとたくさん知りたいです」

「へぇ、この世界のことかぁ」

「だから、一緒に新しい街に行って、新しい物を見つけましょう!その間に戦士さんの旅の話し、聞かせてください!」

「お、それはいいね!じゃー、いろいろ準備しないとね、まずは、お金を・・・」

「で、ですね!」


二人は西にある村へ向かう。

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