2度めの窮地
「ち、ちがうんですーーー!し、知らなかったんですーーーー!!!!あぁぁ・・・・」
楽しいお買い物から一転、囚人となってしまった。
金貨と宝石の入ったバッグは没収された。
「な、なんてことにぃ・・・うぅ・・・」
そこに隣の牢から声をかけられる。
「あれ?お嬢ちゃん?お嬢ちゃんじゃないか!」
「え?戦士さん?なんで?」
そこにいたのは、兜と肌着だけになった情けない姿の戦士さんだった。
「お嬢ちゃん、どうしたんだい?なんで牢屋に?」
「せ、戦士さん・・・実は・・・」
ことのあらましを説明した。
「えぇ!!偽金を使ったのかい!?ど、どこで手に入れたんだいそんなもの・・・」
「あ、えっと・・・・そ、その・・・と!盗賊に捕まってたときに、盗まれた分の金貨をカバンに入れたら、それがにせ、偽金でぇ!」
囚人は盗賊のせいにした。
本当は自分で作って、お店で使った、そして店主に偽物だとばれてすぐに衛兵に捕まったのだ。
「なるほど、それは災難だったね~」
「と、ところで戦士さんはなんでここに?」
「あ、あはは・・・実はね、この兜が脱げなくてね・・・」
戦士さんは先の戦闘により、兜をボコボコにされ、脱げなくなってしまっていた。
そして、この街に入るときに顔を確認するため、兜を脱げと指示されたのだが、
なかなか脱がなくて(脱げなくて)騒ぎになり、不審者として牢屋にぶち込まれたようだ。
街の入り口で噂になっていた男はこの戦士さんだったようだ。
「まぁ、僕のほうは組合に確認を取ってもらってる最中だから、もうすぐ出られるとは思うんだけど」
「そ、そうなんですねぇ、私は、どうなりますかね・・・?」
「うーん、偽金を使ったんでしょう?細かいことはわからないけど、数十年は強制労働とか、最悪・・・死刑・・・?」
「ひ、ひえぇぇぇぇぇ」
「でも、もとは君の物じゃないんだろう?そういえばずっと1人だけど、親は一緒じゃないのかい?」
「え、あ、はい、ちょっと、1人で旅しようかなって、思って・・・それに親は、いません」
「え!あぁー、悪いこと聞いちゃったね、ごめんね」
「い、いえ!そういうんじゃないんで、大丈夫です!」
戦士さんはベコベコにへこんだ兜を自分の頭のようにさすりながら考える。
「うーん、じゃぁこの街にも知人はいないのかな?」
「はい、そう、ですねぇ・・・」
「困ったなぁ、この街は規則と罰が厳しいから、誰か他に偽金は盗賊の物だと証明できる人がいないと出るのは難しいかも」
「そ、そんなぁ・・・」
規則と罰が厳しいので、この街で犯罪を犯す者が少ないのだとか。
そこに堂々と偽金を使うとんでもない犯罪者が現れたのだ。
街は噂でもちきりであろう。
「と、ところでなんで偽金ってわかったんですかね?」
「え?お嬢ちゃん知らないのかい?とんだ箱入り娘だねぇ、、、」
「え、ヘヘ・・・」
どうやらこの国の硬貨は、国に認められた鍛冶師により、魔法印が組み込まれているらしい。
とても複雑な物らしく、一般人が真似できる物ではないんだとか。
錬金術で形は真似できたものの、そこまでは再現できなかったのだ。
「な、なるほど、それでじっくり金貨を見てたのかあの人」
「それはそうと、お嬢ちゃん、これからのこと考えないと」
「そ、そうですね・・・うーん」
--外が暗くなる--
「何も、思いつかない・・・」
「だね・・・このままじゃ、確実に刑罰だよ」
(やるしか、ないかな・・・?)
囚人は深く考え、自分の中で答えを出す。
(前世とは違う、遠くの街に逃げて、しばらくしたら誰も顔なんておぼえてないよね・・・それに今はきっと成長期!すぐ見た目も変わるよ!)
安易な考えが出る、この体のもとの持ち主の性格を引き継いでしまったのであろうか、割りと短絡的な考えも持つようになっている。
「お嬢ちゃん、何かいい方法は思いついたかい?」
「あの、戦士さん、ちょ、ちょっとこっちに・・・」
囚人は隣にいる戦士さんを手招きする。
近寄る戦士。
「ん?なんだい?」
「あの、もうちょっと顔をこっちに・・・」
間にある鉄格子に兜がくっつきそうなほど近づく。
「なんだい?内緒話しかい?誰もいないから大丈夫だよ」
「あの、助けてもらって、ほんとありがとうございました」
囚人は戦士さんの兜をさわり、錬金術を使う。
『ポコペコ』と音を鳴らし、元通りになっていく兜。
「うわ!え!?」
兜をかぶっている戦士さんは、突然響く音に驚いていた。
「私には、これくらいしかお礼はできません、それと、あまり無茶しないで頑張ってくださいね」
戦士さんは驚いた様子で、囚人の目を見つめる。
「え、あ、うん、ありがとう」
囚人は兜を直し終わり、壁のほうに向かっていく。
「では、戦士さん、お元気で」
囚人はにっこりと戦士に笑顔を向けながら、牢屋の壁に手をあてる
『ガラガラ』崩れる壁、錬金術で壁を小さい石に変換していった。
「え!おじょう、ちゃん・・・」
囚人は脱獄したのだ、このまま数十年も牢屋で生きるより、犯罪者として生きる道を選んだ。
「す、すごい、鍛冶かなにかの魔法を持っているのかな、って、それよりお嬢ちゃん!だめだって!」
「おい、組合の確認が取れたぞ、釈放・・・だ!?」
そこに看守が現れ、壁に空いた穴と、囚人がいないことに気がつく。
「だ、脱獄だァァァァァ!!!!」
--夜--
「この者を斬首刑とする!!」
「ひ、ひぃぃぃぃやぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
囚人から脱獄犯になったすぐ後、捕まった。
脱獄犯は街の外に向かおうとしたが、道がわからず迷っていた。
さらに衛兵は魔法による伝達により、脱獄犯がまちなかにいることはすぐに知らされていた。
そして目立つ服と髪色、ケープを被っていても夜に子供が1人、かなりわかりやすい。
衛兵に見つかり、追いかけられて逃げる途中すっ転んだ、そして捕まったのだった。
「偽金の持ち込み、使用、そして牢屋からの脱獄、即刻刑罰を執り行う!異議のある者はいるか!」
「異議なーし!悪党は死罪だ!」
「あんな子供が、嫌な時代になっちまったもんだ」
「お嬢ちゃん、事情があるのはわかってたけど、悪い子だったんだね!」
「坊や?悪いことをしたらあのお姉ちゃんみたいになるんだからね?いい?」
「うん!僕は大丈夫だよ!」
「はやくやっちまえ!」
この街の人は、普段平穏に生活しているため、血に飢えているのだろう、誰も止めようとはしない。
それどころか刑罰を煽るようだった。
脱獄犯は木の枷で首と手を固定され、処刑台の上にいる。
(木の板を半分で割って上下で挟んでる感じの枷です)
さらに、大きな斧を持った処刑人も控えている。
「い、いや!違うんです!知らなかったんですーーー!!!」
「うるせー!この悪党がぁぁぁぁ!!」
「悪いことしてびびってんじゃねぇぇぇぇ!」
「はやくやれー!」
「い、いやぁぁぁぁ!痛いのはいやぁぁぁぁぁぁ!」
脱獄犯は死罪より、痛いのを恐れていた。
前世ではとにかく殴られたり蹴られたりしないよう人の顔をうかがって生きてきた。
死んだほうがましだとも何度も思った。
なので、死より痛みの恐怖が大きいのだった。
「騒がしいな・・・大丈夫だ、この国一番の鍛冶師に作ってもらった斧だ、じっとしていれば痛みも無く切断される、はずだ」
「いやー!ぜったい!ぜったい痛いーーー!!」
ジタバタと暴れる脱獄犯。
呆れ顔の執行人。
「ハァ、ハァ。お嬢ちゃん・・・」
そこに釈放された戦士さんが現れた。
やっぱりかと肩を落とし、暴れている脱獄犯を見つめる。
「まったく・・・では、刑を執行する、やれ!」
「ひぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ!!!」
「くそ、見てられない・・・!」
戦士さんはその場にいることに耐えられなくなり、走り出した。
振り下ろされた斧は首を狙う。
「いやぁぁぁぁぁぁっ・・・・・・・」
『シュッ』というような音がした後、『ゴンッ』と斧の刃が処刑台に突き刺さった。
脱獄犯の首周りから赤黒い液体が流れ落ちる。
そうとうな切れ味だ、首がまだつながっているようにも見える、
脱獄犯はガクッと崩れ落ちるかのように体の力が抜けた。
表情はひどいもので、目と鼻と口から液体が流れ出ている。
「う、うわぁ、、、ひどい顔だぜ、、、」
「坊や?あんな風にならないでおくれよ?」
「うん、、、僕もあんなのにはなりたくないよ、、、」
「はは、これでまたこの街は平和な街に戻るな」
「さぁ、帰って飯だ飯」
各々散っていこうとする中、執行人がまた喋り始める。
「皆の者、見ていたように、この街では犯罪は絶対に許さない、いいな?」
「それとだ、この者は3日間ここでさらし首とする、引き取り手がいなければこちらで片付ける、よいな?」
「身内がいるのであれば、早急に引き取ってもよい、十分に恥をかいたであろう、だが、この街で蘇生することは禁止とする」
どうやら蘇生しても良いらしい。
だが、この街で蘇生できないとあれば、腐る前に他の街へ移動し蘇生しなければならない、一般人にはかなり厳しい条件となる。
「では解散だ、ご苦労だったな」
『チャラ』っと執行人は、斧を振り下ろした男に銀貨数枚を渡した。
気持ちのいい仕事ではないだろう、報酬を渡したようだ。
-真夜中--
戦士さんは『boro yado』に泊まっていた。
「お嬢ちゃん・・・くそっ!せっかく助けられたのに・・・間違ってるよ、こんなの」
自分にもっと知恵があれば助けられたと後悔していたのだ。
だが戦士さんの責任は少しもない。
偽金を作り、脱獄した者が悪い。
「・・・そうだ、身内もいないって言ってたな、このまま晒されるのは可哀想だな」
戦士さんは処刑台に向かった。
引き取り人がいなければ3日間晒される状態となる。
せめて自分が引き取り、埋葬をしてあげようと、せめてもの自分ができることだと思った。
-処刑台付近--
「ぷぅ、ぴゅぅ~」
戦士さんが処刑台に近づくと、妙な息遣いが聞こえる、誰かいるのだろうか。
そして、処刑台の前に来ると、脱獄犯から息遣いが聞こえる。
「は!?え!?生きてる!?首だけで!?」
どうみても斧の刃は首と重なっており、貫通しているように見える。
首周りも固まった血が付着している。
ありえない。
「お、おい、お嬢、ちゃん?お嬢ちゃん!」
首が転がり落ちないように、体のほうをつついてみる。
「んぁ・・・?え?戦士さん?」
「!!!あ、あぁ、そうだよ、だ、だいじょうぶかい?」
喋る生首、怖い。
「すみません、寝てました」
「い、いや、いいんだ、それより、大丈夫なのかい?首」
「んぇ?首・・・!ハッ!!戦士さんからもお願いしてください!私死刑になっちゃいます!!」
「いや、もう終わったよ・・・死刑」
「そ、そんな、私、もう・・・」
「と、とりあえず落ち着こうか、首は痛くないかい?」
「は、はい?首は少し、痛いです」
「?????」
戦士さんは木の枷を固定している部分を外した。
「ゆっくりあげるね、痛かったら言ってね」
「は、はい!」
斧をゆっくりと持ち上げる。
「ツッ!!」
「ご、ごめん!痛かったかい!?」
「あ、いや、なんだか何かが張り付いてて、皮膚を引っ張られているような痛みが、でも大丈夫です、ゆっくりお願いします」
「わ、わかった」
さらに持ち上げると、刃の中心部分があらわになってきた。
「いってて・・・」
「な、なんてことだ」
「どうしました?」
刃を見てみると、ちょうど脱獄犯の首の形に溶け落ちているようだった。
「す、すごい、これお嬢ちゃんがやったのかい?」
「え、え?なんですか?」
「ふ、ふしぎだ・・・」
それより今は誰にも見られないよう、『boro yado』に一緒に向かった。