出会いと別れと錬金術
朝になり、もう大丈夫だと判断し、家に帰る者、屋根の修繕を行うもの、
派遣された戦士に感謝し、料理を提供するもの、村の中は早朝だが騒がしかった。
「・・・」
「お姉ちゃん、大丈夫・・・?」
「え、あぁぁ、ははは、災難続きで疲れちゃったねぇ」
「みんなでご飯作ってるから取ってきてあげるね!」
戦士たちをねぎらうため、炊き出しを行っているようだ。
そこにフラフラと大柄な男がやってきた、頭の兜はベコベコだ。
「や、やぁ~、無事でよかった、怪我はないかい?」
助けてくれた戦士さんだった。
「あ、あ!あり、がとうございました・・・!怪我は、ないです・・・」
「はぁー、よかった、ごめんね、最後まで助けてあげられなくて、怖かったよねぇ」
戦士さんは途中で盗賊の兄貴にやられて倒れたことを謝っているようだ。
「い、いえ!それより、戦士さんのほうが・・その、怪我大丈夫ですか・・・?」
「ん?あぁ、大丈夫!かな?まぁ、戦士ってそういう職業だし、今も動けてるし大丈夫だよ」
以外と頑丈そうだ。
「おねえちゃーん、ご飯とってきたよ!あ!」
「やぁ、君も無事でよかったよ」
戦士さんと女の子は顔見知り?のようだ。
「お姉ちゃんを助けてくれてありがとう!」
「え?」
「いやぁ~あはは、最後まで助けてあげられなかったけどね」
「でも、助けてくれたんでしょ?はいこれ、お姉ちゃん!戦士さんのぶんもご飯もらってくるね!」
「あ、ありがとね」
話を聞くところによると、村の中心で村人の警護にあたっていた戦士さんは、逃げてきた親子に頼まれたようだ。
特にあの女の子が必死に、お姉ちゃんを助けてほしいと今にも泣きそうな顔でお願いしてきたそうだ。
「そっかぁ・・・はぁ、あの子、ほんとにいい子だよぉぉ」
何も出来なくて情けない自分とは違い、とても強い女の子だった。
「ははは、ほんとだね、いい子だね」
そこにやってきた戦士たちのリーダー。
「元気そうでよかった、頭は大丈夫か?」
「あ、はは、まぁちょっとは痛いですけどね、なんとか」
「人質の救助、よくやったな」
「あ、ありがとうございます!」
「だが、次はもう少し頭を使って冷静に状況を判断するようにな!」
「はは・・・はいっ!」
(戦士さん、じゅうぶん頭つかってたよなぁ・・・・)
戦士さんは戦闘中に頭を3度も使って(殴られて)いる。
女の子に食事をもらった戦士さん、しかし兜がへこんで脱げないようだ。
とても食べにくそうに首元の隙間からご飯を詰めて食べていた。
--食事も終え--
そして、女の子と食事を終えた頃、やっと救助された人が1名。
父親だ。
「は、はぁ~、やっと出られた・・・お嬢さんも無事だったみたいだね、よかった」
ハッとする錬金術師。
あの時、燃える家全体を錬金術で木の繊維(ワラの屋根も繊維にしたよ)にし、次にはその繊維で木の小屋(出入り口無し)を作ったのを忘れていた。
「は、はわわわぁ・・・」
「お嬢さん、ありがとう」
そして何も聞かないまま母親と娘のほうに歩いていってしまった。
父親は何かを察して事情は聞かないでくれたのであろう。
しかし、それを目の当たりにしていた戦士たちの中には、中級以上の魔術師がいると噂になっていた。
さらに
--お昼も過ぎた頃--
「はわぁ~、よく寝れたよ・・・わたし、今のところ夜に寝れてないなぁ・・・」
皆が見ていない間に、取り壊された父親を閉じ込めた小屋と、あまった繊維で作り直した家(出入り口窓付き)で眠り、目が冷めた。
(元通りとはいかないが、家族が住める程度には作れた)
昨晩のことを思い出しながらも、今後どうするか考える。
やりたいことはお金を稼いで、楽に静かに暮らすことなのだが、とにかく今は試したいことがある、
金貨の錬成だ。
しかし、人目につかない場所にいかないといけない、そして使う場所も見つけないといけない。
だが、この村以外、人のいる場所なんて知らない。
そこに希望の光。
どうやら派遣された戦士たちは街に戻るようだ、お願いして一緒に連れて行ってもらおう。
「お嬢さん、ありがとうございました。」
「また遊びにきてね!ばいばーい!」
父親と母親は深々と頭をさげ、女の子は大きく手を振っている。
「じゃぁ~ね~~!」
女の子達は姿が見えなくなるまで見送ってくれた。
屋根のない荷車の後ろに乗せてもらうことになった。
しかし、前を見ることができない。
盗賊の死体が数人乗せられているからだ。
生きて捕獲された盗賊は逃げられないようにロープでしばられ、屋根付きの馬車に乗せられている。
「お嬢ちゃん、顔色悪いけど大丈夫かい?」
荷車の後ろを歩きながらこちらの顔を覗き込んでくる戦士さん。
「だ、大丈夫です・・・」
正直、風に乗って血の匂いが流れてくる上に、乗り心地もあまりよくないので気分はいいわけない。
「あ、あの、あとどれくらいで街につきそうですか・・・?」
「そう遠くないよ、日が傾く頃には付くかな?早くしないと盗賊達も腐っちゃうからね」
「この方達は、どこに連れて行くんですか・・・?」
「えっと、まずは教会で蘇生してもらって、そのまま裁判にかけられるかなぁ?」
「蘇生・・・」
「その後は、判決によって、蘇生費を含めた賠償額分の強制労働とか、買われて奴隷になっちゃうとかかな?」
どうやら魔法で、ある程度の蘇生はできるようだ。
蘇生には大きく分けて2種類ある。
完全蘇生と通常の蘇生である。
完全蘇生は怪我を完治させてから蘇生する、そしてとてもお金がかかる。
通常の蘇生は、息を吹き返す程度に蘇生する、平民でもなんとか払える額。
盗賊たちはもちろん後者だ。
「今回は結構名のある盗賊達だったから、報酬は結構いいかも!盗賊の頭を捕まえられたらよかったんだけどねぇ残念」
(なる、ほど・・・ギルド的なやつか・・・漫画的だな・・・)
「でも、派遣された人数も多いし、僕は若手だから分前が少ないかも・・・兜を治すお金で消えちゃうかな・・・ハハ・・・」
(お金作ったらちゃんとお礼を渡さないとなぁ・・・)
体を張って助けてくれた戦士さんに偽金を渡そうと考える錬金術師だった。
--太陽が少し傾いた頃--
「お嬢ちゃん、街が見えてきたよ!」
「あ、は、はいぃ・・・よかった・・・」
この世界にきてからゆっくりしていないので、歩くという選択肢がなかったので我慢はしたものの、もう気分が悪くてそれどころではない。
「だ、だいじょうぶかい・・・?」
青い顔を見て心配そうな戦士さん。
「あ、はい、ちょっと休んで行きますんで、先にいっててください、助かりました、ありがとうございました・・・うぅ・・・」
「そ、そう?まぁ、このあたりならもう安全だから大丈夫だろうけど、絶対に暗くなる前に街に入るんだよ?」
「は、はひぃ・・・」
戦士一行と別れ、少し気分が良くなり落ち着いたことで思い出す。
「そうだ!金貨!フ、フフフ・・・・」
悪知恵を思い出す。
「うーん、とりあえず金貨も鉱物だよね?ってことは石を錬金術で変換すれば・・・?」
とにかく思いついたことを試す。
まずは近くにあった石ころを握りしめ、金貨をイメージしながら錬金術を使ってみる。
「できたぁ!」
手に握られていたのはギリギリ目で見える砂金のようなものだった。
「そうだった、服のときもそうだった・・・そうだったよ・・・ってことはもっと大きな岩?」
見渡すと地面から岩がモコモコと生えているではないか。
「ふふ、これならばたくさん作れるはず!」
さっそく岩に触れ、周りをキョロキョロと警戒しながら錬金術を使ってみる。
すると、目の前の岩は消え、地面に金貨が数枚突き刺さっている。
「や、やった!!けど、なんかゆがんでるな?」
イメージが足りないのか、金貨は少しゆがみ、模様もうまく再現されていない。
「うーん、むつかしいな」
「そうだ、本物をこっちの手に持ってと」
左手に盗賊から盗んだ金貨を持ち、右手にさきほどの歪んだ金貨を持ち、直接目で見ながら錬金術を使ってみた。
完璧だ、ほぼ同じ金貨ができた。
「や、やった・・・ふへ、ふへへへへ・・・・」
もうこの世界でお金に困らないまったり優雅な生活がまっているとニヤニヤしてしまう。
とにかく暗くなる前に近くの岩を金貨に替えていった。
--太陽が沈む頃--
「ふふんふふふんふ~おかね~もち~♪」
謎の歌を歌いながら街の入り口へ向かう。
入り口では数人の人だかりができていた。
どうやら前にならんでいる人が入場の目的と身分の確認、持ち物の検査をされているようだ。
時間がかかっているのか、前の連中は少しぼやいていた。
「今日はやけに丁寧だな」
「どうやら少し前に怪しいヤツが入ろうとして捕まったらしいぜ」
「普段は平穏な街だからなぁ、他にも変なヤツがいないか警戒してるんだろうよ」
まぁどこにでも変な人はいる、ちょっと怖いな、くらいにしか思わなかったが、自分の順番が近づくにつれ。
(私・・・怪しくないか・・・?)
(1人で街の外から入ってくる子供って怪しくないか・・・?)
(や、やばい!しかもカバンは宝石と金貨しか入ってない!やばーーーい!)
緊張と不安で汗が出る、フードをかぶり、カバンをぎゅっと抱きしめ自分の順番を待つ。
「次ィ!」
衛兵の重い声が聞こえた。
「どうした?顔を見せろ」
「ヘ、ヘヘ・・・ど、どうも・・・」
さらに緊張がはしり、逆に怪しい笑顔を出してしまった。
「君が戦士達と一緒に来た子だな?戦士隊長から聞いているよ、よし、通っていいぞ、次ィ!」
「え?」
どうやら戦士さんが後から連れが来るということを伝えてくれてたようだ。
(た、たすかった・・・はふぅ・・・)
--街に入る--
「う、わぁ・・・!」
石やレンガ、木で出来ているであろう道や建物。
電気ではなく、魔法でつけられたであろう光が灯る街灯。
大きな通りには食べ物を売る市場に、たくさんの人々。
少し裏路地を除けば、複雑に入り組んだ道と、その道を埋めるほどの建物。
まさに望んだ通りの漫画的な街だった。
「旅行に来たみたい!」
大した感想はでないが、それもそうだ。
旅行など行ったこともないのだから。
海外の街並みを見ているようで、心から旅行に来たみたいだと思ったのだ。
しかし、それもつかの間。
「や、やばい・・・急に不安になってきた・・・」
旅行など行ったことがないのだから、ホテルを探し、無事チェックインできるのか。
しかも別の世界だ、何もかもわからない。
「まずは、泊まれるとこがあるのかな・・・」
この世界にきて、夜は危険なことばかり。
街の中とはいえ、外にいるのは正直怖い、安心して寝られる場所を探したい。
キョロキョロと大通りを歩いていると『yado』の看板が。
見たことのない文字のはずだが、読める。
錬金術のおかげだ。
(『yado』本当は別の文字言語)
外からは中の様子が見えない。
入り口付近でもじもじしていても、不審者に思われてしまうかもしれないので、意を決して入店する。
「こ、こんにちわぁ~」
木の扉を恐る恐るあけ、隙間から中を覗き込む。
すると、挨拶より木の扉がきしむ音に気が付いたyadoの店主であろうおばさまがこちらに現れた。
「あら、いらっしゃい、どうしたんだいお嬢ちゃん」
かっぷくのいいまんまるで可愛らしいおばさまだ。
「あ、あの、今日、泊まれます、か・・・?」
緊張で普通に声が出ない。
「おや?お嬢ちゃん1人でかい?お父さんかお母さんは一緒じゃないのかい?」
「は!」
当然だった、どうみても子供だ。
子供が1人で宿に来ることなんて普通はありえないであろう。
もとの世界だったら通報が入るところだ。
「あ、あぁのぉ、私、1人なんですけどぉ、だめ、でしょうか?」
「ん~?いやぁ、大丈夫だけど、どうしたんだい?困っているのかい?」
「え、いや、そうじゃないんですけど・・・今日泊まるところがなくって・・・あ、お金はこれが、あります」
カバンの中に手をツッコミ、ジャラジャラとなる金貨の中から一枚取り出した。
「これで、泊まれますか?」
「!!」
おばさまは驚く。
「えぇ、大丈夫だよもちろん!なんだい、どこかのお貴族様の子供かい?親は子供ほっといて何をしてるんだか!」
「あは、はははは・・・」
「うん、安心しな!何か事情があるんだろう?今日はうちで泊まっていきな!食事も用意してあげるからね!」
おばさまはとても親身になってくれ、特に事情も聞かず、部屋へ案内してくれた。
「さぁ、今日はここでゆっくり休みな!食事は私が用意してあげるからね!」
「あ、ありがとうございますぅ」
「食事の時間までまだあるから、少し外を散歩してきてもいいけど、遅くなったり、街の外れにはいかないでおきよ?」
「は、はい?」
「いくらこの街が安全とはいえ、お嬢ちゃんみたいな子が歩いてたら何がおきるかわからないからね、それじゃ!」
おばさまはパタンと扉を閉めて、晩御飯の用意をしにいったようだ。
「よ、よかったぁ・・・!今日はゆっくり寝られる!ご飯も食べられる!最高!」
「あ、そうだ!お金も使えたし、もぉ~にやにやしちゃう~」
自然と笑顔になってしまう。
だが、この時使ったお金は盗賊団から盗んだ金貨(本物(盗品))だった。
「そうだ、少し外を歩いてみよう、気になるお店があったし」
実を言うと、体を拭いた程度でお風呂に入っていないし、着替えてもいない。
もちろん洗濯もしていない、そろそろ替えの服がほしい。
「よし、散策だ」
日はほとんど沈んでしまったが、まだ街の中央は明るく、人も多い。
お店もたくさん開いている。
その中で「huku」とかかれた看板を見つけた、もちろん読める。
他にも服屋はあったのだが、可愛い展示品が飾ってあり、どうみても服屋であるためこの店に入ることに決めた。
お金もたくさんあるし、宿でもうまくできた、怖いものなんてない。
そうしていざ入店する。
「こ、こんにちわぁ・・・」
でも、知らない店に入るのは怖い。
「ん、いらっしゃい」
店の奥にあるカウンターに座っている初老の男性、店主であろう。
(子供・・・?1人か)
まじまじとこちらを見てくる、頭からつま先までじっくりと。
「あ、あの、見ても、いいですか?」
店主はこちらに無言で歩いてくる、そしてさらに睨みをきかせる。
「あ、あのお・・・」
(やはり子供だけか、だが、なかなか質の良さそうな服を着ているな)
(・・・?縫い目が見当たらない、素晴らしい腕だな、なかなか高価な服と見た)
(ということは観光にでもきた貴族のご令嬢か)
「やぁこれわこれわ、いらっしゃいませ、何をお探しかな?」
表情が一変した。
「あ、あの、ちょっと見てもいいですか?」
「あぁ~もちろんですとも、ごゆっくりどうぞ」
(なんだったんだろ・・・じっくり見られたけど・・・やっぱり子供1人だと怪しいのかな・・・)
錬金術で作った服は縫い目が無い。
シンプルな服をイメージして作ったのでそういう形にできてしまっただけだ。
それを勘違いし、よい服だと判断されたのだった。
(ただ、服の質は本当に良い物であろう、しっかりと目利きができる店主だった)
店の中をくるっと見渡す。
店主はカウンター越しにこちらを見てくる。
(気になるなぁ・・・)
とりあえず可愛い服は置いておいて、着替えになる服を見つける。
(上下1着ずつと、下着も・・・なんか下着というかショートパンツみたいだな・・・まぁいいか・・・)
ささっと買うものを手に取り、カウンターに置く、そこで目についた物がある。
腕輪だ。
金属の腕輪に石が埋め込まれている。
「おや、お目が高いですね、こちらの腕輪がお気に召しましたか?」
「あ、はい・・・ヘ、ヘヘ・・・」
「こちらの腕輪は精霊石、つまり精霊の宿っている宝石を使っております」
「精霊・・・」
(買っても・・・いいよね・・・)
前世はおしゃれなんてする余裕も、自信もなかった。
自分がおしゃれなんかしたらバカにされるとすら思った。
だが、今はとても可愛い姿だ、お金もある。
腕輪くらいいいじゃないか。
「こ、これも・・・お願いします・・・」
「はい、ありがとうございます!それでは、金貨5枚と銀貨8枚お願い致します」
「えっと・・・・」
カバンからじゃらじゃらと金貨を6枚出す。
「はい?い、いやいや!大金貨じゃないですよ!金貨5枚なんで!」
(と、とんでもないお金持ちのお嬢さんだな・・・)
「え?あ!あ、あはは・・・す、すみません、お買い物になれてなくて・・・」
「いえいえ、では大金貨1枚、お預かりしますね・・・」
店主は大金貨を受け取り、かけていたモノクル(片眼鏡)で両面を確認する。
--しばらくして--
『ガゴーーン!!』
大きな鉄の扉が閉まり、牢屋にぶち込まれた。