戦士さん
「やばい!急いで戻らないと!」
トイレから飛び出すと、村中の家から火があがっている。
それほど火の手はまわってはいない、バケツで水をかける者、木の繊維を濡らし火を叩く者、
各々消化活動をしていた。
先程まで自分がいた家を見ると屋根が燃えている。
藁のような素材でできた屋根は、火の広がりが早く、
父親が火を消そうと水をまいているが、屋根の高いところが燃えており、うまく消化できない。
戦士達も盗賊の姿がまだ見えないので、まわりを警戒しながら消化を手伝おうとしていた。
トイレから走って戻り、家に飛び込んだ。
室内に火の手はないが、煙が充満しはじめている。
母親は手に、貴重品が入っているであろう袋を握り、女の子を抱えていた。
女の子は大事にしている木の人形を抱えていた。
「は、はぁ、はやく、外に出て!」
短い距離ではあったが、緊張と全力で走ったせいで息切れをしていた。
「よかった、突然出ていってしまうから心配したのよ」
「ごめんなさい!もう用は終わりました!とりあえず今は外にでてください!」
「でも、外は・・・・」
「は、はやくぅ!」
火事で一番怖いのは煙だ、そのことを知っていたのでとにかく外に出させた。
外では消化活動が続く。
高いところに登るため、丸太を削り、足をかけるところを作ったハシゴを立てかけていた。
(ハシゴが無いわけではないが、普段使うことも少なく、製作しやすいため丸太ハシゴが使われている)
「よし、水を渡してくれ!」
父親が屋根にのぼり、下にいる戦士から水を受け取ろうとしていた。
戦士はバケツ一杯の水を両手で持ち上げ、父親は屋根のフチギリギリで受け取ろうとしている。
「おらぁぁぁぁぁ!!」
盗賊のおでましだ。
バケツを持ち上げていた戦士の脇腹に、棍棒を思いきりぶちあてる。
『ボコッ!』と鈍い音がなる。
「ぐぇ・・!」
『ガコンッ』と丸太と戦士は倒れ込む。
鎧は着ていたものの、頑丈なものではなく、鉄を薄く伸ばし形作ったものだ、見事に鎧がへこんでいた。
やはりあまり強い戦士達は派遣されていないのであろう、装備もまちまちだ。
「くそ!こっちに盗賊だー!」
父親が叫ぶ。
それと同時に別の戦士が木の笛を取り出し吹く。
高い音が響き、位置を知らせ、応援を要請した。
「おい!お前たちは村の中央へ避難しろ!家はもうあきらめるんだ!」
盗賊との戦闘をしながらの消化活動は不可能と判断した戦士はそういいはなち、
さきほど仲間を吹き飛ばした盗賊に向かっていく。
「はやく逃げるんだ!」
父親は屋根の上から、妻と娘に指示をする。
心配そうに自分の旦那を見上げる、しかしここにとどまっていても何もできない、
娘の安全が第一だ。
「いきましょう!」
母親が娘の手を引き、走り出した。
自分もお世話になった家の主人が心配だが、役に立ちそうにもない、一緒に走り出す。
だが、暗闇から手が伸びる。
「きゃぁ!」
フードを捕まれ、綺麗な髪があらわになる。
「ひゃぁ!当たりだ!まさかこんなにはやくお宝が見つかるとわな!」
「へへ、さすが兄貴でやす!」
賢い盗賊の兄貴だ。
こんなときに、一人で(行動し)トイレから出てきて、しかも村の中でフードを被っている、身なりも綺麗だ。
兄貴は目もいいようだ、さすが盗賊達の兄貴。
「あ!お姉ちゃんが!」
逃げるかどうか躊躇する母親達。
「・・・に、にげてぇ・・・」
どれほど危険な状態かわかっている、自分でも助けてほしいと思っている、
どうにかなるとも思っていない、恐怖でかすれた声しかでず、体も動かない。
「おい!その子をはなしてくれ!たのむ!」
屋根の上から父親が叫ぶ、赤の他人のために懇願する。
だが、盗賊が宝をわざわざ手放すわけもなく、ニヤニヤしているだけだ。
父親からすれば娘の命の恩人、ここで見捨てるわけにもいかない。
屋根から飛び降りようとする、だが、盗賊は二人だけではない。
複数の盗賊が武器を持って屋根から降りようとする父親を待ち構えている。
そのまま飛び降りれば命を無駄にすることになるだろう。
「よぉし!一番のお宝はいただいたしな、撤収!と言いたいが、もう一つ返してもらわねぇとなぁ?」
女の子のことであろう、しかし他にもお金と宝石を盗んでいた、それはばれてないようだ。
「もう一人、女のガキを連れてこい!」
そうこうしている間に他の戦士達も集まってくる。
「貴様!その子を離せ!」
「おっとぉ、それ以上近づくとこいつがどうなるかわかるよなぁ?」
漫画的だ。
『ぐい』と首をしめあげられ、息が苦しい。
父親のほうもじわじわと屋根が燃え、火にまきこまれそうだ。
二人の命を救うには女の子を引き渡すしかない、そんな状況にも見えるが、戦士たちのリーダーは冷静だった。
「捕まっている子のことは気にするな!売り払うつもりだろう、殺したり傷つけたりはしない!いくぞぉぉぉ!」
「っち!おいおまえら!撤収だ!」
戦士のリーダー達がいった通り、傷をつけようものなら価値がさがってしまう。
それならばこのまま引き下がるほうが儲けになるであろうと思い、引き下がろうとする盗賊たち。
「逃がすなぁぁ!」
「くそ、バカが!ガキ1人で帰るっていってんだろう!
おい!こいつを持って帰れ!!」
「うぎゃ!」
兄貴は向かってくる戦士たちの相手をするため、他の盗賊に人質を投げつけた。
その他の盗賊は、戦闘に参加する者、いまだに父親を狙っている者、兄貴が下がる道を警戒し、確保する者がいた。
戦士たちは村人を守り、村の周りで松明を持って待機している盗賊を警戒しているため、かなり分散し、そう人数は多くない。
盗賊に逃げられるのも時間の問題だ。
その中で1人、
「ハッハッフッフッ!!!」
安定した息遣いに、とても綺麗なフォームで走ってくる戦士さんがいた。
目元だけ穴のある鉄の兜に、革でできた鎧とも言えない防具を装備していた。
その戦士さんは、周りの戦闘には目もくれず、一直線でこちらに向かってきている。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
その声は他の戦士より少し若いであろうが、気迫のこもった叫び声で突進してきた。
近くにくると、わりとがっちりした体型で、他の人よりは少し大柄である。
それに驚いた盗賊は後ずさりし、逃げようとしている。
「ひぇ!」
「まてぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
突進してきた戦士さんは、人質ごと盗賊を抱きしめ捕まえる。
そして左脇にしっかりと人質をおさめ、右腕だけで盗賊をふりほどき、投げ飛ばした。
「うげぇ!」
腰から地面に落ちた盗賊は悶絶している。
「捕まえた!捕まえましたぁぁぁぁぁ!!」
戦士さんが大きな声で人質を確保したと、皆に報告をする。
『ガゴーーンッ!!』と鈍い音。
また別の盗賊が背後から戦士さんの首当たりに棍棒をフルスイングしたのだ。
あたりまえだ、周りに目もくれず目標に一直線の戦士さん、他の盗賊など見てもいなかった。
そして人質を抱えたまま横に倒れる戦士さん。
「い、いってぇぇ・・・・」
頬をさするように頭の兜をさする戦士さん。
「え、え!?嘘だ!買ったばっかりなのにぃぃ!」
兜が思い切りへこんでいたようだ。
『ガコーン!』再び兜に攻撃を受ける戦士さん。
「あぐぅ!」
たまらず声が出る、だが戦士さんが人質をつかむ力はゆるまない。
しっかりと抱えたまま盗賊の腹に突進し、相手にのしかかる。
「ぶぇ!」「ぐおぉ!」
人質と盗賊が声をあげる。
「すまなーい!」
先に謝罪をすませ、盗賊の顔面に右の拳を強く振り下ろす戦士さん。
倒した盗賊を踏みつけならが仲間のほうに走り出す。
「ハァハァ!大丈夫かいお嬢ちゃん!!」
「は、はぃひぃ」
戦士さんの脇腹で上下左右に振り回された人質はふらふらだった。
敵味方入り乱れる場所をまた一直線で走り抜ける戦士さん。
だが、帰りはそうもいかなかった。
『ガゴーン!』またしても顔面に攻撃を受ける、しかも正面からだ。
足を滑らせたかのように背中から倒れる戦士さん。
最後まで人質をしっかり脇腹に収めていたが、力が抜け放してしまう。
人質は少し前に吹き飛ぶ。
「この野郎!そのガキは俺様のもんだぜ!」
さすが盗賊の兄貴だ、他の戦士の相手をしながらこちらにも注意を向けていたようだ。
目の前に転がり倒れている人質をつかもうとしている。
だが、戦士たちもその隙を見逃さなかった。
戦士のリーダーが剣を振りかざし、盗賊の兄貴の首を狙う。
思わずのけぞり、棍棒で防御するも剣を振り切られた。
しかし、のけぞったことと、棍棒のおかげで首切断はまのがれた、その代償に顔に大きな傷を作ってしまった。
人質は自分の上で戦闘が起きていることに驚き、頭をおさえている。
「がぁぁぁぁぁ・・・・」
後ろにさがり痛みに悶絶する兄貴、追撃しようとするリーダー。
「お前がいけぇ!」
近くにいた下っ端を前に突き飛ばす兄貴。
「そっんなっ!」
無慈悲にもリーダーの餌食になる下っ端。
考える盗賊の兄貴、そして思いつく。
「あいつをころせ!」
いまだ屋根の上にいる父親を指差す。
下っ端達に父親を殺すよう命じる、すると戦士たちはそれを必ず止めに入る。
その間に逃げるつもりだ。
下っ端たちは『ガンガン』と棍棒で家の壁をたたき壊そうとしたり、後ろで弓を構える者もいた。
しかし目の前の家は突然消えた。
屋根の火は、燃えるものがなくなり空中で消える。
そして父親はたくさんの木の繊維の上で呆然としている。
さらに次の瞬間、家より一回り小さい小屋があらわれ、父親を守る壁となった。
その場にいた全員の動きが一瞬止まり、何が起きたのか整理がつかない中、1人だけ村の中心に走り逃げ出す人質、そして途中ですっ転んでいる。
戦士のリーダーはそれを見て叫ぶ。
「人質は全員開放された!盗賊を捕えろー!!」
盗賊達は応戦する者、逃げ出すもの、盗賊の兄貴の命令を待ち、待機するもの。
もはやバラバラだ。
兄貴は下っ端に指示を出しながら逃げていた。
--しばらくして--
戦闘も落ち着き、大半の盗賊には逃げられてしまったが、数人は捕獲することができた。
盗賊の中には命を落としてしまった者もいるが、派遣された戦士達側は、大怪我をした者もいるが命に別状はなさそうだ。
村の戦士と自警団は朝になるまで村の周りを警戒していた。
周りにいた盗賊もいつのまにかいなくなっており、朝日が登る。