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錬金術って?

誰もがまだ眠っているであろう時間に、女の子が向かった家から飛び出てくる母親だと思われる人。

女の子が胸に飛び込むよう抱きつく。

母親らしき人も信じられないという表情から安堵の表情へ、そして涙を浮かべぎゅっと抱きしめる。

その後ろから出てきた父親らしき人は、とても驚いているような表情で、本当に我が子なのか確かめるよう女の子の顔を覗き込んでいた。


「ふふ、よかった」


自分も安心したのか、その場でへたりこんでしまう。

3人が抱きしめあっている様子を見て、うらやましい気持ちはないが、仲の良い家族なのかなと思った。


女の子がこちらを指さし何かを説明している。

その話しを聞き、父親らしき人がこちらに近づいてきた。


「ありがとうございます、娘を助けていただいて」

「よろしければ、こちらへどうぞ」


深々と頭を下げた父親らしき人。

自分の家に招いてくれているようだ。




家に入り、家族3人もやっと落ち着いた様子だ。

日の出により、外が少し明るくなってきた。


「本当に、本当にありがとうございました」

「い、いえいえー、私も同じく捕まってしまって~」


父親が何度もお礼を言ってくる間に、母親が朝食を用意してくれたようだ。


「こんなものしかございませんが、よろしければお召し上がりください」


感謝されているのはわかるが、とても丁寧に扱われている。


「あ、どうも、いただきます」


この世界で初めての食事だ。

丸いパンと、野菜とミルクのスープであろうか。

パンを一口かじり、スープをいただく。

本来は質素な味なのであろうが、空腹と疲れ、そしてこの人生で初めての食事、おいしすぎる。


「ん~!おいしぃ!」


父親と母親は安堵したような表情だった。

一方連れ帰った女の子は疲れて眠ってしまったようだ。


「あの、お伺いしたいのですが、どちらのご貴族の方でしょうか」

「んえ?え~っと、私は貴族とかではないですけど・・・?」

「そ、そうでしたか、失礼しました!」


そういえばあの小屋で身なりを褒められていたことを思い出した。

綺麗に着飾りすぎたかな。

いや!顔がいいからか!?そんなことを思いながら食事を終える。


「ごちそうさまでした、とってもおいしかったです!」

「いえ、娘の命の恩人にこんなものしか出せず、気まで使っていただいて申し訳ない気持ちです」

「あ、あはは~、いや~、ほんとにおいしかったですよ」

「あ、それより、ちょっと・・・聞いても、いいですか?」

「はい?」


昨晩のことは聞いてもいいことなのか、少し気を使いつつ質問をする。


「あ、あの・・・あの子、なんで捕まっちゃってたんですか・・・?」


顔を見合わせる夫婦。


「・・・はい、実は、私どもの不注意でして・・・」


事情を聞くと、父親と娘で山菜を取りに行ったとき、毎年たくさんはえている場所があり、そこを娘だけに任せてしまったようだ。

父親は少し離れた場所で、お金になりそうな素材を採取していた。

すぐに戻る予定だったのだが、採取に手こずってしまったのだとか。


その後、娘のいた場所に戻るも姿は無かった。

しかし、山の中とはいえ、家からもそう離れておらず、いつも遊びに入っている場所でもあり、

山菜を取り終え違う場所に移動したのか、先に戻ったのか、そう考えていたのだが、家にも帰っておらず、

そのまま日が暮れてしまった。


さらに、近くの街や村で盗賊団の被害にあったと情報がまわってきた。

どうやら拠点もそう遠くない場所のようだ。

それを聞いた夫婦は、絶望したのだとか。


実に漫画らしい事件だった。


「な、なるほど」

「あの、お嬢さんも捕まったのですよね?どうやってうちの娘を連れ帰ってきてくれたのでしょうか」

「あ、あはは、あの、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ錬金術が使えて・・・木の壁に、穴を・・・」


新しい人生を始めるときに、お金を生み出す能力がばれた場合、前の人生より辛い思いをするようなことを言ってたのを思い出し、

正直に伝えるのを少しためらってしまった。


「錬金術で穴を・・・ですか?なる、ほど・・・」


夫婦は不思議そうな顔でまた顔を見合わせる。


「・・・は、はは、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけです・・・」

「いえ、少しだとしても、錬金術をお使いになられるだなんて素晴らしいです」

「は、はは・・・ど、どうも~」

「そうだ、もう日は出てしまいましたが、よろしければ奥の部屋でお休みになりますか?大変お疲れでしょう」

「そうですね、疲れてますね・・・じゃ、じゃぁ」


正直錬金術のことを話したのは失敗だと思ったが、それよりも疲れはてている。

おいしい食事もいただき、とても眠い。

いい人そうだし大丈夫だろうと勝手に思い、深い眠りについた。



--お昼も過ぎた頃--


「おいしかった!」


女の子の声で目がさめた。

どうやら少し前に起きて、昼食を食べ終わったようすだった。

自分も起き上がり、ふらふらと部屋を出る。


「おはよ~ございますぅ~」

「お姉ちゃん!お母さん、お姉ちゃんおきたー!」


昨晩大変な目にあったのだが、どうやらもう大丈夫そうだ。


「ふふ・・・よかった~・・・ふわぁはわわ・・・」


目をこすり、ぼーっとつったていると、母親がお昼ごはんを準備してくれたようだ。


「こっちに座って、よかったらお昼、食べてくださいね」


昨日と同じパンと、干した肉であろうか、それに焼いただけの卵。

実においしかった。


「ふぅ~ごちそうさまでした!ほんとうにおいしかったです!」

「うふふ、よかったわ。でも、こんなものしか用意できなくってごめんなさい。あ、よかったら今晩も泊まっていって!」

「い、いえいえそんな、申し訳ないですよ!」

「いいの、それくらいのお礼はさせて!それに、今晩は出るのやめたほうがいいと思うわ」

「そうなんですか?」

「えぇ。昨日の、盗賊がね・・・」


昨晩の盗賊らしき人間が、村の近くまで来ているようだ。

白髪のような金髪のような少女を探しているとか。


「・・・一晩・・・よろしいでしょうか・・・!」


おでこを机につけお願いする。


「もちろんよ!だから、今日は家から出ない方がいいわ」

「でも、大丈夫ですか?もし、盗賊が来て、私がいたら、ご迷惑をかけてしまうかもしれません」

「迷惑なんてことはないわ!それに、街のほうからも派遣された戦士さん達が来てくれているのよ」

「そ、そうなんですね」


よかった。

村の自警団の人と、戦士さん達が協力して盗賊を捕まえるんだとか。

父親も自警団に参加しているようで、今は会議中なのだそう。


「ここだと外から見えてしまうかもしれないから、娘と一緒に奥に隠れていてください」


そうだった、女の子も捕まって顔を見られているのだった、一緒に隠れねば。



--女の子の部屋にて--


「ねぇ、お姉ちゃんはどんな魔法を使ったの?」


女の子は小屋の壁を繊維に替えた魔法が気になっているようだ。

正直この世界のことは全然わかっていない、あまり詳しく話すのは危険かもしれない。

だが、錬金術という言葉は通じた、だが、夫婦は微妙な反応をしていたのも思い出した。


(((ここは、申し訳ないけど、ちょっとごまかしておくか・・・)))

「あのねー、あれは、壁を吹き飛ばしちゃう魔法なんだよー!あは、あははー」

「へぇー!じゃぁ風の魔法なのかなぁ!」


どうやら魔法はあるようだ。


「そ、そうかなぁー、あは、ははー」


女の子は木でできた人形と、積み木のような物を取り出してきた。

カチャカチャと音を立てながらおままごとをしているようだ。

それに付き合いながら、ふと考えてみる。


(((錬金術ってなんだ?)))

(((漫画の知識では、物質の変換、状態の変化、それに錬成という言葉もあるし)))

(((でも、一般的には石や鉄からキンを生み出すとかだったはず・・・?))


この時、思いついてしまった。

おもむろにショルダーバッグを開き、中を確認する。


「ねぇ、これって金?」

「え?うん、金貨だよ!すごい、やっぱりお姉ちゃんお金持ちなんだね!」


小屋に閉じ込められていたとき、少しばかりの金貨と宝石をくすねていたのだ。

お金がないと生きていけないし、きっと盗まれたであろう物を取り返したのだ。

もし盗まれた人がいたなら返そうと思って持ってきたのだ、何も問題ない。


「ふふ」


あの人は、錬金術で道具等を生み出し、お金に替えることもできるって言ってたが、

錬金術で金貨を作れば手っ取り早いではないか。

そう考えると顔がにやけてしまう、が子供の前でするような顔じゃないと思い表情を硬くした、が頬がゆるんでしまう。


「お姉ちゃんたのしぃねぇ!」

「うん~お姉ちゃんたのしぃ~~」


女の子にはばれていないようでよかった。


--夜--


コンコンと扉を叩く音。

「お腹すいたでしょう、晩ごはん食べてね」

「あ、はい、ありがとうございます」

「ごめんね、今日はここで食べてね」

「いえ、全然大丈夫です!」


今朝と同じパンとスープ、それに焼いた芋もある、最高だ。


「たべよっか!」

「うん!」


食事も終え、しばらくすると外が騒がしくなる。

きっと盗賊が来たのだろう。


「お、おねえちゃん・・・」

「だ、大丈夫、だと、思う・・・」


こんな時、なぜだかタイミング悪くお手洗いに行きたくなるものだ。

普段なら我慢できるはずなのだが、行けない状況だと余計に行きたくなるものかもしれない。


(((大丈夫、我慢、できるはず!)))


外から荒々しい男達の声が響いてきた。


「囲まれているぞ!自警団は盗賊の位置と人数を知らせてくれ!後は俺たちが対応する!」

「大丈夫だ!盗賊ごとき負けたりはしない!」


外の緊張感が部屋の中にも伝わってくる。

ますますお手洗いに行きたくなってきたが、トイレは外にある。


この村には、いくつか公衆トイレのような物がある。

家にトイレを作るより、水辺に近い少し離れた場所に作ることにより、匂いも気にならない。

用を足した後は、水辺や井戸の水を汲み、自分で流すようだ。


戦闘が始まる前に行ったほうがよいのだろうか。

それとも錬金術で液体を個体に変化させることができれば・・・いや、

体内に残っているのなら意味がない、出した瞬間に気体にできれば・・・?

などとバカなことを考えているとますます尿意がせまってくる。


「ご、ごめん、ちょっとお手洗いに・・・」

「え!あぶないよ!お母さんにバケツ持ってきてもらうから、ここでおしっこしたらいいよ!」

「え、いやぁ・・・ちょっと恥ずかしい・・かなぁ・・・ははぁ」


トイレの場所はわかっている、そう遠くはない。

部屋を出て、不安そうな母親を横目に。


「ご、ごめんなさい、ちょっと行ってきます!」

「あ、え?どうしたの!だめよ、外は危ないわ!」

「はい、わかってます・・・でも、、、いかないと!大丈夫、すぐ返ってくるんで!」


真剣な眼差しを受けた母親は止めることができなかった。


フードを深くかぶり、トイレに走る。

外は自警団と合わせたら40~50人ほどの大人たちが戦闘の準備をしていた。

これだけ人数がいれば大丈夫だろう。

ほっとしながらトイレに入っていく。


--その頃、盗賊達は--


「アニキ、結構人数いますがどうしやすか!」

「チッ!先手を打たれたか、まぁいい、こんな田舎に派遣されてる奴らなんて大したことねぇだろ、

それに、お貴族様のガキは金になる!お宝を目の前に引き下がる盗賊がどこにいるってんだぁ?なぁ?」

「ヘヘ、そうですよねぇ?しかし、相手のほうが人数多いでやすが、うちらだけでやれやすかねぇ?」

「確かになこの人数は想定外だったな、ここいらでの仕事はおしまいだし、移動するための荷運びの人手を減らすわけにはいかねぇ、

だがな、俺様はそこいらの盗賊と違ってバカじゃねぇ、賢い盗賊の戦い方をみせてやる」

「は、はぁ・・・?」


--トイレの中にて--


「ほ、ほわぁぁ・・・・来て、よかった・・・」


至福のひとときが終った。


「えぇっと、紙紙ー」


トイレの中はかなり暗く、上のほうにある小窓から差し込む月の光でわずか自分の手の形が見えるほどだ。

手探りで紙を探すがなかなか見つからない。


存在しない物が見つかるはずもない。


「ト、トイレットペェーパァ・・・・ぁぁぁ・・・・」


あるわけもない。

小の場合は湯切だけしてそのままの人も多く、大の場合は、少し濡らした葉っぱや、自分の大好きな木の繊維で拭いているようだ。

しかし、それも設置してあるわけではなく、持ち込みだ。


「・・・まぁ、大丈夫だよね・・・」


幸い小のみだ、なんとかなるだろう。

トイレの壁を木の繊維に加工しようかと思ったが、失敗したら丸見えだ、ここは我慢しよう。

そんなことを思いつつ、帰り支度をしようと立ち上がった時。


『カツッ!』


トイレの入り口側からノックのされたような音がした。

それと同時に外が騒がしくなる。


「え?は、はいってまぁぁす・・・?」


トイレの入口はパチパチと音を鳴らし、トイレの中が少し明るくなってきた。


火だ。


「自警団は火を消すのに専念しろ!俺たちが自警団を守る!戦力が分散してしまうがしかたない!

 火の手がまわっちまった家はあきらめろ!できるだけ村の中央にある家に避難させるんだ!」


どうやら盗賊は、家々に火のついた矢をはなったようだ。

派遣された戦士達のリーダーであろう男が指示を出している。


「ガッハッハー!これが賢い盗賊のやり方よぉ」

「ヘヘヘ、さすが兄貴!しかし、家をもやしちまっていいんですかえ?」

「なぁに、こんなしけた村に大したもんなんざねぇよ、それに火がまわれば、お宝もあぶり出されてくるだろぅ?」

「なぁるほど!さすが賢い盗賊!」


火を放ち、戦力を分散させ、お宝も自ら表に出てくる。

弱い人達を集団で強奪するだけの賊とは違い、なかなか賢い盗賊のようだ。


「お前ら、松明を持っているヤツだけその場で待機させて、他のやつはついてこい、

ひとつづつ狩っていくぞ・・・」


戦闘が始まる。


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