初めての窮地
「あるき始めたはいいものの、どこに行けばいいんだろうか」
「とりあえず、人がいそうなとこに行きたいな」
産まれ落ちた林を抜けると、人通りがありそうな道を見つけた。
ここを歩いていけば、いずれ人に出会えるだろう。
「そうだなー、ご飯も確保しないといけないし、水も必要だよね、あと泊まるところも」
「泊めてくれる人がいたら、何かお手伝いして、お返ししよう」
前世では、人を信用出来なかった、というわけでもない。
一部の人間に問題があったのだ。
学生時代には仲の良い友達がおり、家に泊めてくれて、食事も出してくれた。
その恩返しとして、掃除や洗濯を手伝っていたのだ。
今回もそのような感じで考えていた。
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しばらく歩くと、水辺が見えてきた。
流れのある綺麗な川があり、少し喉も乾いていたので、口の中を潤す程度の水を手ですくいとった。
「んー、冷たい!少しくらいなら大丈夫だよね」
そうして水で口が潤った時、目に飛び込んできた者がいた。
「か、か、、、かわ・・ちぃ・・・」
そう、水に反射した自分だ。
「ま、まって!流れのないところでちゃんと確認したい!」
足がもつれ、ころんでしまったがそれどころではない。
川の流れが穏やかな場所に小走りで移動し、もう一度、しっかり自分の顔を確認した。
白っぽいような金色に輝く髪の毛、ぱっちりした青い瞳、色味のいい唇。
間違いなく可愛い。
「イメージ通りのファンタジー顔だ・・・良き・・・」
「うーん、でも、中学生くらい?」
「もうちょっとお姉さんがよかったけど、これから成長するよね、きっと!」
限りなく人間に近い精霊なので、人間のように成長する可能性もあり、精霊のように産み落ちた状態のままの可能性もある。
「ふふ・・・かわち・・・」
「もうちょっとちゃんと見たいなー、鏡とかあるのかな、作れるのかな?」
上を見上げ、鏡ってどうやって作るのかと考え事をしていると、日が傾いているのに気が付いた。
「あぁ!急いで家を見つけないと!」
自分に見惚れている場合ではなかった。
足がもつれ、ころんでしまったがそれどころではない。
暗くなる前にせめて休める場所を探さないといけないのであった。
しばらく一本道を歩いてきたが、誰ともすれ違わなかった、人が住んでいそうな場所など見当たらなかった。
運が悪いのか、人里から逆方向に進んでしまったのか、野宿することも視野にいれた。
ひどい話しではあるが、前世で親が不機嫌なときに、友達の家に泊まらせてもらったり、公園で寝たこともある。
しかし、この世界に知り合いなどいない、公園もない、周りには誰もいない、何もない、となると、逆に安全だ。
どこで寝ようと問題ないのだから。
少し薄暗くなり、寝床よりお腹の心配が先に来た。
「そういえば、何も食べてない・・・」
「錬金術って・・・草を食べ物にできるのかな・・・」
おもむろに道の脇にあった草をちぎり、食べ物になるよう念じた。
見た目はそのままだが、手にぬくもりを感じたので成功したのだろう。
そして草をパクっと口にほおりこんだ。
「シャクシャク・・・」
「草だ・・・」
錬金術は万能ではないということを思い知らされた。
加工や形作ることはできるが、違う物質に変換することは出来ないんだろうか。
そもそも錬金術は漫画の知識や勝手なイメージでしか知らない。
この世界ではどう使うのが正しいのか、これが解決するのはもう少し先になりそう。
あたりはもう、少し先の人の顔が判別できないほど暗くなっていた。
「はぁーー、半日くらい歩いたし、もう限界、お腹も空いたし」
少し道から外れ、草の上に倒れ込む。
空には無数に輝く星、自分の住んでいた場所と比べるまでもない、とても美しい空だった。
「わはー!すごいきれい!本当に別の世界なんだなー」
「いや、もしかしてど田舎に連れてこられただけかも、ぷぷ」
しばし空を堪能していると、物音?が聞こえた。
その瞬間眼の前が真っ暗になった。
「わぷっ!!」
「※※※※※※※!!!」
「※※※※※※※?」
「!!※※※※※※※」
聞き慣れない言語が聞こえた。
二人か三人か、少し荒々しく会話をしながらロープでしばられた。
頭にも黒い布を被せられ、周りは見えない、身動きも取れない。
小さな体は誰かに抱えられて、どこかに運ばれているようだ。
(((ヤバイ!何これ?誘拐!?)))
誘拐されることなんて考えもしなかった。
抵抗しようとするも、しっかりと腕と足にロープを巻きつけられている。
希望を持って新しい人生を初めたばかりなのに、楽しい人生になると思ったのに、
結局自分は前世と同じ、誰かに運命を握られ、何も出来ずに終わりを迎える。
新しい世界で過去のことを思い出し、涙が溢れてくる。
-----しばらくして-----
「ぶぇ!」
バァァァァン!と勢いよく閉められるドア。
どこかの小屋?に乱暴に投げ込まれ、監禁されたようだ。
「うぅ・・・」
しばらく流した涙も止まり、不安だけがおしよせてくる。
こういう時は、何も考えず、抵抗せず、相手の言う事を聞く、それが一番だ。
前世の悪い癖が残っている。
しかし今は何もできない前世と同じ、これが一番だと思ってしまった。
「・・・・※※※※※※※?」
「ひぇ!」
突然後ろから声が聞こえ、肩を触られた。
そして、首のあたりに手をまわされ、ごそごそとなにかをしている。
何をされているのかもわからない、恐怖はあるが、とにかく動かず、じっとしていた。
すると、頭から被っていた黒い布が外れ、やっと周りを見ることができた。
薄暗い小屋に、他にも人がいて、自分の布を取ってくれたのだ。
「あ、ありがとうございます・・・」
振り返り、相手の顔を除くように見てみる。
「※※※※※※※」
相変わらず何を言っているのかはわからないが、見るからに自分より幼い女の子だった。
状況的には同じように連れてこられ、この小屋に閉じ込められているのだろうが、他にも人がいて少しほっとした。
小屋の中には高価そうな宝石や、服、お金であろう物が雑におかれていた。
「※※※※?」
「ご、ごめんねぇー、言葉がわからないんだー」
「・・・・※※※」
女の子はにっこりして、指をさす。
手と足のロープを外してくれるのだろう。
「ありがとね!」
「私わ・・・・えっと・・・」
自分の名前を言おうと思った時、過去のことを思い出してしまった。
自分の名前を言う度に、過去の自分を思い出す、それはとても嫌なことだ。
「あはは、どうせ伝わらないか・・・」
「言葉が通じないって、不親切だな、あの人も先に教えて・・・あっ」
本来ならば赤子として産まれ変わるため、言葉の問題などなかったのであろう、
自分のワガママで無茶な設定をしてくれたのだ、それを思い出して少し反省。
ふと隣に座っている女の子の顔を見る、うつむいてとても不安そうな顔をしている。
それに気づいた女の子は、またこちらに笑顔を向けてくれた。
「・・・私のほうがお姉ちゃんなのにね」
「せめて、言葉が通じたら・・・」
その時、めまぐるしく何かが変化している感じがした。
「あ、あ・・・れぇ・・・」
口が回らない、うまく喋ることができない。
「※※※※※!」
心配そうに腕をつかみ、ささえてくれる女の子。
「あぁ・・・あたまがフラフラする・・・」
少しずつ正気に戻ってきた、一瞬だがものすごい時間がたったようだった。
「※※※ねぇちゃん、おねえちゃん大丈夫?」
隣にいた女の子の声が、はっきりとそう聞こえた。
「え!?」
「おねえちゃん、頭痛いの?」
「あれ!わかる!なんで!」
等価交換だ。
前の世界の言葉を、錬金術によってこの世界の言葉に置き換えたのだ。
むちゃくちゃな話しだと思うが、精霊とは自然界そのものから生まれる存在。
人間が生まれるはるか昔から存在しているため、人の言葉も何度も聞いている。
それに、旅の途中で亡くなった人の体に宿った精霊であるため、その人の細胞に言語の記憶がある。
つまり元から知っている知識を錬金術によって活性化させたのだ。
しかし、代償として前の世界の言語は薄れていった。
だが、本人はまだ気づいていない、突然言葉がわかるようになって、それどころではない。
「ご、ごめんね、突然つれてこられて、びっくりして変な言葉使っちゃって、私の言葉わかる?」
「うん、わかるよ、さっきはわからなかったけど」
「そっか、よかった~」
言葉が通じるというだけで、安心感がさらにまし、すこし落ち着けた。
女の子に不安を与えないよう、優しくゆっくり質問をする。
「ね、ねぇ、君はどうしてここにいるの?」
「えっと、わからないの、外にいる人につかまって、ここに連れてこられたの」
しかし女の子は、今にも泣きそうな声で答える。
自分が女性であっても、女の子の辛そうな泣き顔はいいものではない。
特に自分自身も同じように、子供のころ一人で泣いていた、その記憶と重なり、心が苦しくなる。
「そっか、ごめんね変なこと聞いて」
今の自分には、頭をなでることしかできなかった。
だが、この子をどうにかしてあげたい、こんな可愛らしい女の子に、前世の自分みたいな思いをさせるのはかわいそうだ。
そう思うと、私がしっかりしないと、どうせ一度死んだ身だ、少しくらい無茶してもいいや。
それに、
(((前世と同じような人生はもうごめんだ!)))
恐怖を押し殺し、入り口のドアを叩く!
「す、すみませーん!あけてくださーい!!」
バァァァン!とドアを叩くような音が返ってきた。
どうやら小屋の前に見張りがいるようだ。
ならばと会話をこころみる。
「あ、あの、なんでこんなとこに閉じ込めるんですか?お金とか、持ってないですよ!」
「おい、だまってろ!お前みたいな綺麗な服を着てるお嬢様が金もってねぇわけねぇだろう!」
「次でかい声出したら痛い目を見てもらうからな!」
「・・・・・」
どうやら錬金術で作った服は割りと良質な物らしい。
一緒に閉じ込められている女の子と比べたらたしかにそうかもしれない。
女の子の服は、一枚の薄い生地を加工して作られているようだ。
靴も木材をくり抜いたスリッパのような簡単なものだった。
一方自分は、しっかりした服にケープ、靴も木の繊維で作られているので柔らかく歩きやすい。
他の人に比べたらお嬢様に見えるのかもしれない。
さらに産まれたてで、髪も肌もつやつやぷりぷりだ。
「やっぱり、誘拐かな・・・」
女の子は外の男の声に怯えてまるくなっている。
「ご、ごめんね!驚かせちゃったよね!」
女の子のそばに寄り添い、耳元でささやく。
「ちょっとまってね、いいこと思いついたから」
「きっと大丈夫、まかせて!」
--少し時間が経つ--
二人は無言で、入り口とは反対の壁でじっとしている。
外から会話が聞こえてくる。
「おい、もう一人捕まえたって?」
「あぁ、少し大きいが身なりもいいし、かなりの金になると思うぜ」
「おぉ、そうか!しかしそんないい物、どうやって捕まえたんだ?」
「ん、あぁ。街道を外れた道を一人で歩いていたんだ、あんな人気のねぇ道を堂々と歩くなんてとんだおてんばお嬢様だぜ、はははは」
その言葉を聞いて頭を抱える。
誰もいないから安全なのではなく、危険だから人がいないのであった。
「なんでこんな危険な世界を選んだの、あの人は・・・・」
漫画のような世界を選んだのは自分である。
何もおきな漫画などないのだから。
逆に漫画では人さらいなどあたりまえにある。
「俺はもう飯食ったから、お前も食ってこい」
「お、ありがてぇ、ほら、小屋の鍵だ、見張りは任せたぜ」
小屋の見張りがいなくなるタイミングを狙っていたのだが、そう甘くはなかった。
しかも鍵付きだ。
「おねえちゃん・・・」
心配そうにしている女の子に満面の笑顔を見せる。
--翌朝--
「おい、朝だぞ、起きろ、荷物を持って街に移動だ」
「・・・ん?あぁ、そうか、今鍵をあける」
眠たげな声で、ふところにしまっている鍵を取り出す。
(ガチャリ)
扉を開け、中に入る二人。
「は?」
「え?」
小屋の中に昨日捕まえた子供二人はいない、それ以上に驚いたのは、
小屋の背面の壁がきれいに無くなっていたのだ。
「え?なんで?」
「なんでじゃねぇだろ!せっかく金になるガキを捕まえたのに!!」
「なんで・・・?」
「おい、あたりを探せ!ガキが逃げてる!!」
その逃げた二人は。
「お姉ちゃん!あそこだよ!!」
「は、はぁ~、よかったぁ~~~~」
暗闇の中、ゆっくりと人さらいの拠点から抜け出し、
一番光る星を頼りに、女の子が知っている道に出ることができた。
そして、日の出よりも先に女の子の村にたどりついた。
「お姉ちゃんありがとう!魔法もすごかった!!」
「えへ、えへへ~~そうかなぁ?」
昨晩、見張りがいびきをかいて寝ているのを確認し、小屋の背面の壁を錬金術で繊維に替えたのだ。
もはや木の加工はお手のもの。
((本当は一部だけ穴を開けて出る予定だったけど、調整が難しくて失敗しちゃったね・・・まぁ、なんとかなったからいいか))
女の子は小走りで自分の家に向かう、満面の笑顔から徐々に泣き顔に変わっていく。
「おとうさん!おかあさーーん!」