行倒れシスターさん
「うん!いい感じ!」
「す、すみません、お水まで持ってもらって・・・」
「いやいや、いいんだよ!良い筋肉トレーニングにもなるしね!」
そういって戦士さんはムキッっと筋肉を見せつけてきた。
ショルダーバックのようになっていた水筒の紐を、リュックのように背負えるようにした。
ちょうど戦士さんの腰のカバンの上にくるような感じで調整した。
「うぅ・・・体中痛いですぅー」
「ははは、筋肉が喜んでいるのかな!」
「いや、体が泣いていますぅ」
半日ほど重い水を持って歩いていたため、全身が筋肉痛の錬金術師。
「なにごともなければお昼過ぎにはつくかなー?」
(まぁまぁ遠いなぁ・・・)
だが、とても道が悪い。
開けた場所ではあるが、でこぼこ道というか獣道というか、道ではない。
「せ、戦士さん、もう少しゆっくり歩きましょう・・・」
「ん?あ、あぁ・・・ごめんね、歩きにくかった?」
「は、はい少し・・・」
戦士さんが歩調を合わせてくれた。
「ふ、ふぅ、このあたりにはちゃんとした道はないんですか?」
「ないね!」
「そ、そうですか・・・」
「地図があればわかりやすかったんだけど、そうだねぇ、簡単にいうとこのあたりの道は大きな丸(円)みたいな感じになってて
この前の街(首を切り落とされかけた街)が丸の一番下、今向かってるのは一番上って感じなんだけど、僕たちはその真ん中を突っ切ってる感じだね、わかった?」
「はぁ、なるほど、南から北に最短距離で向かってるんですね」
「そうそう、道をたどれば他にも村や街もあるけど、もしかしたらお嬢ちゃんを追っかけてくるかもしれないし・・・」
「あ、うん、そうですね・・・でも、なんで真ん中に道を作らないんですかね?真ん中にあったら便利じゃないですか?」
「うーん、必要ないからじゃないかなー?」
「ないんですか?必要?」
「どうやって道が作られたかわからないけど、やっぱり道があるところに街や村ができるだろうし、旅や交易をするなら人がいる場所を目指すでしょ?」
「あー、確かに、それのほうが安全ですしね」
「うん、でも僕たちみたいに訳ありの人はこういう道のほうが安全だけどね!あはは」
「じゃぁ、このあたりはお尋ね者みたいな人が多いんじゃ・・・」
「いやいや、そんな人達だってやっぱりこんなとこより街のほうがいい・・・」
『ガサッ・・・』
正面の草むらが揺れる。
「え、せ、戦士さん・・・・」
「だ、だいじょうぶ、き、きっと動物か何か・・・・」
戦士さんがゆっくりと近づく。
剣は構えていない。
そして戦士さんが草むらを覗き込むと。
「だ、だれか、いる・・・」
「え・・・?」
-----そして・・・-----
「いやーー!助かりました!!これぞ神の恵み・・・」
草むらに倒れていたのは青みがかった修道服を着た女性だった。
その服はところどころ土で汚れていた。
「な、なんで草むらにいたんですか?」
「アハハハ、死ぬならせめて、硬い土の上より柔らかい草の中のほうがいいかと思って!!あ、お水ありがとうございます!」
さっきまでかなり弱っていたように見えたが、そうでもないらしい。
どうやら修行中に空腹と喉の乾きが限界を迎え、草むらの中で倒れていたようだ。
「しかし、なぜわざわざこんな場所に?」
「いやー、実はですね、コンパスの精霊さんが動いてくれなくなっちゃいまして・・・それで少し迷子に」
「あぁー、それは災難でしたね」
精霊さんも栄養が必要なので、コンパスも無限に街の方向を指し示してくれるわけではないようだ。
(※精霊の種類によって補給方法が異なります、わかりやすいのは光の精霊ぽいのは日光で充電みたいな!)
「あの、ちなみになんですけど、何か食べるものって・・・?」
「あ、よかったらイノシシの燻製がまだたくさんあるんで食べますか?」
戦士さんに目配せをし、戦士さんの荷物から燻製を受け取った、が。
「ゴ、ゴクリ・・・い、いえ!修行中の身、水分は問題ないのですが、命をいただくことは禁止されています」
じゃぁ、なぜ聞いたのかと思った錬金術師。
すると、行倒れさんがススッと耳元に近づいて小声でこう言った。
「あ、あの、その燻製、私の口に無理やり押し込んでくれませんか・・・?」
意味がわからなかった。
「あ、あのですね、いただくことは禁止されていますが、無理やり押し込まれたならまた別、それに、どこに神の目があるかわかりませんからね・・・
なので、お願い、できますか・・・?」
なるほど、屁理屈だ。
だが、燻製もたくさんあるし、お腹をすかせているのは可哀想だ。
お願いされては仕方ない、錬金術師は意を決して行倒れさんの口の中に燻製をねじ込んだ。
しかし、事情を聞かされていない戦士さんは驚いていた。
「え、え!おじょうちゃん何してるの!!」
「い、いいんです!これでいいんです!」
そのうち行倒れさんの上にかぶさるように口を抑えこむ錬金術師、
その下では行倒れさんがフガフガジタバタと抵抗している、が、うれしそうな表情と、力のない抵抗だった。
「な、なぜこんなことを、フ、うふふ、うんめぇ・・・・」
行倒れさんはとても美味しそうに食べていた。
---燻製も食べ終わり----
「びっくりしたよほんと・・・おじょうちゃんがいきなり人を襲ったのかと思ったよ」
「う・・・たしかに説明してなかったですね・・・まぁ、事情が事情でしたからね・・・」
「はい!助かりまし・・・じゃないです!なんてことをしてくれたんですか!おいしかったじゃないですか!」
そう言い放った顔は、怒りとは程遠い表情であった。
「さて、ではお二人共!行きましょうか!私は道がわかりませんので、先導お願いします!」
「は、はい・・・」
3人は次の街へ再び歩み始めた。
「ところで、僕たちは北の街に行くんだけど、君もそこでいいのかい?」
「おぉ!まさにこれも神のご加護!私もそちらの街へ向かう途中でしたので!神に感謝いたします、あ、実際はあなた達に感謝しておりますよ」
「・・・・お姉さんはなんの修行をしてたんですか?」
行倒れさんは見た目通りのシスターさんらしく、蘇生魔術を習得するための修行中だったそうです。
「それがですよー、蘇生魔術を習得するには、死ぬ思いをしなければいけないとかで、こうやって一人修行の旅をしてるってわけなんですよー」
「でも女性の一人旅ってちょっと危ないですねぇ」
「でしょー!でも神の加護がー、とか、信じる者はー、とか!それで途中もうめんどくさくなっちゃって、南の街で地図とコンパスを買ったんですけど、
地図の見方とかわかんなくて、あはは、ていうか、こんなことしなくても、死を経験するなら首ちょんぱして蘇生してくれたら早いと思いません!?」
(※蘇生魔術を覚えた人はかなり貴重な存在なので、シスターに手を出すことは重罪となります)
錬金術師は前のことを思い出しブルッとし、戦士さんは愛想笑いをしていた。
「ところでお二人も旅の途中ですか?」
「はい、魔王城?に行こうかなと」
「おぉ、それは面白そうですね!そういえば、噂なんですが、そろそろ次の魔王が現れるらしいですよ・・・!」
「え!それは本当かい!?たのしみだなぁー」
「えぇ、えぇ!楽しみですよねー!」
「えぇ・・・・」
戦士さんと行倒れさんは魔王が現れるのを楽しみにしているようだ。
「魔王って怖くないんですか?」
「うーん、どうでしょ?人によるんじゃないですか?あははは」
「でもでも、魔王って世界を破滅させたりする存在なんじゃ・・・?」
「はて?破滅させても魔王にとっていいことはないと思いますけど、まぁそういう物語は多数ありますがね」
ここは漫画的ではなく、現実的だった。
「じゃー、次の魔王が誕生するとどうなるんですか?」
「え?なんかこう、戦士がもっと活躍できる、ほら、魔物とか!出てくるんじゃない!」
戦士さんもよくわかってないようだ。
行倒れシスターも詳しくはないようで、
「うーん、そうですねぇ、聞くところによると世界が安定するらしい・・・?」
「安定・・・?」
「はい、昼があり夜がある、光あるところに影もある、山があって川がある、ということでしょうか?」
「・・・?」
とにかく世界のバランスがよくなるようだ。
魔王がどんな存在なのかは次の魔王が現れるまでわかりません。
---戦士さん・錬金術師・シスターさんの順で歩いてる時---
「そういえばお嬢さん、首の包帯はどうなされたんですか?」
「え、あ、あはは、ちょっと・・・そう!野宿したときに枝で切ってしまって・・・!」
「はは・・・」
再び苦笑いの戦士さん。
すると、行倒れシスターさんが後ろから錬金術師の首をしめた。
「ひっ!」
びっくりし、驚きの声をだす錬金術師。
しかし、首をしめている手に力はなく、優しく触られている状態だ。
「少し、動かないでくださいね」
「は、はい・・・」
「慈悲深きこのお嬢さんに、神の奇跡と祝福を与えたまえぇ・・・」
首元がなんとも言えない感覚に、痛みはないが、首の皮をひっぱり、縫われているようだ。
「はい、おしまでーす!包帯をとってみて?」
「え?あ、はい・・・」
シュルシュルっと自分の首から包帯を外し、ペタペタと傷口を触って確認する錬金術師。
「あれ?傷がない?」
「えぇ!すごい!魔法だぁ!」
戦士さんが一番興奮している。
「かわいいお嬢さんの首に傷が残ったら可哀想ですからねー」
「あ、ありがとうございまs・・・え?」
「あぁ・・・だめだぁ・・・・」
力なく倒れる行倒れシスターさん。
どうやら回復魔術は結構体力を使うようだ。
この時行倒れシスターさんは、『蘇生魔術を習得するには、死ぬ思いをしなければいけない』というのは、
死ぬほど体力が必要だとやっと理解したとか。




