西の村
二人は西の村の入り口に付く前に、異変を感じ取った。
「あれ?なんだか、ずいぶんと、静かだな」
「戦士さん、あれ」
指差す方を見る戦士さん。
村の周りを囲う塀が壊され、村の中にある畑が荒らされてしまっている。
その畑の中にうずくまる村人を見つけた。
「こ、こんにちわ、どうかしたんですか?」
ストレートに質問する戦士さん。
「あ?なんだぁあんたたち。。。。まさか!依頼を見て来てくれたのか!?」
「え、いや、旅の者なんだけど、アハハ・・・」
「はぁ、そうかい」
肩を落とす村人。
どうやら深刻な状況のようだ。
「あの、よかったらお話してください」
「ん?あぁ、害獣だよ・・・この村もおしまいかもな」
「害獣・・・」
聞くところによると、この村の畑をすべて荒らしているようだ。
被害は年々増えていき、村を離れる者も多く、戦士さんが以前来た時よりだいぶ人が少なくなっている。
「あの、組合には依頼を出さなかったのですか?」
「あぁ?出したに決まってるだろ、だがなぁ、大した報酬も払えねぇし、依頼内容が悪すぎる」
害獣駆除は割に合わない、駆除してもお宝を持っているわけでもなく、皮や肉も硬いしそこまでおいしくもない。
それに、山の中からくる害獣を駆除するには、寝床を突き止めるか、やってくるまで張り込んでおかないといけない。
あまりやりたがる人はいないであろう。
「それに、最近じゃぁこのあたりにも盗賊団が出てるんだろ?戦士たちもそっちの依頼を受けたがるだろうよ」
「あは、あははー、そ、そうかもしんないっすね」
戦士さんはごまかすように笑っている。
「その害獣、村のみなさんで退治できないんですか?夜とかかわりばんこで見張りをするとか」
「おじょーちゃん、綺麗な服着たあんたみたいな金持ちは知らねぇかもしんねぇけどよ、この塀見てみな、石を積んだだけの塀だが、これをぶち抜いてくるやつだぞ?」
「うっ・・・確かに、怖いですね・・・すみません・・・」
「いや、こっちもすまねぇな、ちょっと気がたっててな、あんたがわりぃわけじゃないよ」
「あ、あのぉ~」
戦士さんが何か提案をする。
「その依頼、僕たちが受けてもいいですかね・・・?」
「えっ?私も?」
巻き込まれる。
「ほ、本当かい!?た、たしかにあんたはなかなか立派な体つきだが・・・」
「大丈夫ですよ、害獣にはなれています、それに、このおじょーちゃんもすごい、、、じゃなくて、少し魔法が使えるんですよ」
錬金術のことは黙っておいてもらう約束だったが、まぁそれくらいなら誤魔化せるし喋ってもいいかと思った。
「え、へへへ、しょ、初級魔法、的なやつ、ですけど・・・」
村人は目を見開いている。
「な、なんだいなんだい!魔術師さんだったのかい!そいつあすまねぇ!ぜ、ぜひ依頼を受けてくれ!だが、さっきもいった通り報酬は期待しないでくれ」
「報酬は気にしないでください!ただ泊まるところを探してまして」
「それは問題ねぇ!今は空き家もあるし、うちに来てもいい!いや、さっそく来てくれ、話がしたい!」
興奮した村人に家に招かれる。
勝手にいろいろ決めてしまった戦士さんを少し横目で見上げる。
「ご、ごめんよ、ほ、ほら、困ってるみたいだったし、泊まるとこも決まったし、や、やったねー!」
「まぁ、いいですけど・・・」
悪気のないところが少しずるいなと思った。
そしてこの村では初級魔術師として振る舞うことになった。
--村人の家--
「戦士さん、魔術師さん、ゆっくりしてもらいてぇんだが、そうもいかねぇんだ」
「はい?まぁ、話をしてください」
「あの野郎、毎晩来やがるんです、見つけた餌場を毎日巡回しているようで、来る時間もだいたい同じだ」
村人は害獣の特徴を説明してくれた。
害獣はいわゆるイノシシ、毎晩やってきて畑を荒らす、近づくと襲ってくるので、火を付けた木を投げてなんとか追っ払っているようだ。
しかし、村を見限り離れていく者も多く、少ない人数で毎晩見張りをし、残った村人は皆疲弊している。
だから、今日、駆除してほしいんだとか。
(・・・なんだ、イノシシか。確かに突進してきたら危ないらしいけど、それくらいならなんとかなりそうだなぁ)
元いた世界のうり坊を想像する初級魔術師。
いっぽう戦士さんは真剣に話を聞いている。
「わかりました、なんとかなると思います!」
「よ、よかった!すまねぇ、夜中になると思うから先に晩飯を食ってくれ!それまで寝ていてもいい!」
どうやら今日の夜も寝られそうにない。
--夜中--
村人数人が松明を持って見張りをしている。
二人は呼ばれるまで家の前に座り待機。
「戦士さん、どうですか?駆除できそうですか?」
「んー、まぁやってみないとわからないけどね!」
「えぇ・・・本当に大丈夫なんですかぁ・・・?」
「ははは、そのためにおじょーちゃんがしっかり協力してくれないとね!」
一応作戦は考えてある。
戦士さんがおびき寄せて、初級魔術師がこっそりと作る予定の穴に落とす作戦だ。
さすがに穴の中に落ちてしまえば身動きはとれないであろう。
近づくと襲ってくる、その性質を利用する。
「で、でたぞぉぉぉ、こっちだぁぁぁぁぁ!」
「せ、戦士さん!行きましょう!」
「よし!がんばろっ!」
イノシシを見つけた村人は及び腰になっている。
「あ、あそこだ!頼む!」
暗闇に目を向けると、黒い影がぬっと現れる。
そこにいたのは、元の世界にいたのと同じ、イノシシだった。
だが、でかい、でかすぎる。
もはや熊だ。
「ひっ・・・せ、戦士さん!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
初級魔術師の声を聞く前に、叫びながらゆっくりと向かっていく戦士さん。
それに反応したのか、地面を掻くような動作を取るイノシシ、突進の構えを取っているようだ。
戦士さんは、イノシシにまっすぐ向かうのではなく、円を描くように回り込みながら近づいて行く。
まっすぐに突進してこられないようにしているみたいだった。
そして、イノシシとの距離が近くなり、イノシシも戦士さんに狙いを定め、突進する!
だが、その前に戦士さんもイノシシに突進し掴みかかる!
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「フゴォォォォォォォォォ!」
戦士さんとイノシシがぶつかった。
戦士さんはイノシシの首あたりを掴み、体重と力で頭を地面におさえつけた。
「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?戦士さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!?」
全然作戦とは違った。
予定が狂い、何をしていいのか困惑する初級魔術師。
「うんんんんんんん!!!」
「フゴ、フゴォォォォ!」
力で抑え込もうとするものの、イノシシも反撃しようとする。
戦士さんの重い体が頭にのしかっているため、首のちからで振りほどこうとする。
さすがはイノシシ、首の力だけで戦士さんを少し浮かした。
だが、それが隙きとなった。
戦士さんは体が浮いたのに合わせ、体をひねり、背中に張り付いた。
そして、そのまま首を締め上げる。
「フギィィィィィィ!!!」
イノシシは戦士さんから逃れようとところかまわず突進しはじめた。
「にが、さない!んんんんんんん!!!!」
だが、その先に初級魔術師が。
「あ、おじょうちゃんーーー!避けるんだー!!!」
・・・・・・
鈍い音がした、吹き飛ぶ戦士さん。
「大丈夫ですか・・・・戦士さん・・・ていうか、何やってるんですか・・・」
「あ、あれ?おじょーちゃん?怪我は、ないかい?」
初級魔術師の安否を気遣いながらも周りを見渡す。
すると、自分が吹き飛んだ当たりに大きな穴と、失神したイノシシが落ちていた。
「え、これ、おじょーちゃんがやったのかい?」
「いやいや、もとからこういう作戦だったでしょ・・・?」
「あぁ、そうだったっけ・・・?」
戦士さんも興奮状態で、何がどうなっているのか理解するのに時間がかかっているようだ。
「お、おぉ!や、やったのか!すごい!!」
村人数人が駆け寄ってくる。
「この害獣が!よし!早くトドメを刺すぞ!」
失神し横たわっているイノシシの心臓や首あたりに、棒の先に刃物がついた道具(槍みたいな感じ)を使いトドメを刺す村人達。
失神していたイノシシだが、反射的に断末魔の叫び声をあげた。
思わず目を背け、耳を塞ぐ初級魔術師。
村人たちは喜び合う。
戦士さんはこちらの様子に気がつき、優しく声をかけてくれた。
「よくやったね、おじょーちゃん、君のおかげでみんな助かったんだよ」
「はい・・・」
「気にしなくてもいいよ、って言ったらちょっと違うかもしれないけど、こういうもんだよ、生きるためには仕方ないことだってあるさ」
「・・・はい・・・」
初級魔術師はうつむき、自分がやったことを深く考える。
村人は助かった、だが、ひとつの命を奪ってしまった。
答えは出ない、正解はないのだから。
--もうすぐ朝--
「うんまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「うんうん!おいしいよねーー!ちょっと硬いけど!!!」
村人がイノシシを捌き、イノシシ鍋と肉を焼いてくれた。
さきほどのことも忘れ、必死にほおばる初級魔術師。
それもそうだ、この世界でカチカチの干し肉は食べたが、新鮮な肉は初めてだ。
「ズズズ・・・お汁も、おいしぃ・・・うぅ・・・」
「うんうん!なんでこんなおいしいんだろうね!」
「ヘッヘッヘ、そうだろそうだろ?狩りたてってのもあるが、うちらのうまい野菜食ってたからってのもあるかもなぁ、あっはっは!」
「へ、へへ、おかわり、いいですか・・・?」
「あぁ、もちろんだ!あんたたちの飯だ、たくさん食ってくれ!!」
もちろん二人で食べ切れるわけもなく、村人全員で食べた。
「しっかし、あんちゃん!すげぇな!まさか正面から掴みかかって行くとわよー!」
「ははは、いやぁ大したことないですよ、ていうか、僕に出来るのはあんなことくらいしかないですし」
「剣は使わねぇのかい?」
「ぷっ」
「え、えぇ・・・動物には・・・効きづらいですからね・・・」
「そうなのかい、まぁいいや、どちらにしてもすげぇ!魔術師さんもな!」
「あ、ありがとうございます!」
朝日が登り切るまで宴は続いた。




