次の人生の準備
次の人生の準備
((大変な人生でしたね、お疲れ様でした))
声は聞こえるものの、そこに人の影は見えない。
しかし、確実に誰かがいる気がした。
「あ、あの、私わ」
((残念ながら、あなたは亡くなってしまいました))
「そうですか」
「----」
「よかったです」
(())
小さい頃から、いい思い出なんかひとつもなかった。
家は貧乏で、親も不仲、アルバイトをして稼いだお金も親に取り上げられる。
それでも将来を夢見て勉強だけは頑張った。
だが、やっとの思いで入った大学でも、ずーーっと生活費を稼いでいた。
大学でも勉学だけは励み、ギリギリの生活をしていたが、就職活動が始まった。
成績は悪くない、むしろ良い方だ、それなのに就職先が決まらない。
見た目だ。
結局はそんなものだ。
自分でも見た目は良いほうではないと思っていた、だが、これまでの頑張りがそんなことで全てだめになるのかと。
それに加え、バイト代だけのギリギリの生活、ガリガリに痩せ、顔に覇気がない。
それが自身のなさをさらに悪化させていた。
面接など通るはずもない。
それでも、それでもなんとか就職できた、
そこからは奨学金という名の借金を返済し続ける毎日。
・・・もう無理だ。
止めようこんな生き方。
もっとはやく逃げたらよかったんだ。
親から、借金から、人生から。
((私は、あなたの次の人生を、お手伝いしにまいりました))
((どんな世界で、どんな人生をお望みですか))
よくわからない空間で、よくわからない状況。
見えない誰かから問いかけられる。
でも、望むことができるのなら・・・。
「漫画に出てくるような世界で、お金に、困らない生活がしたいです・・・」
((・・・わかりました))
((では、ある程度大きな国の、ご令嬢として産まれるよう・・・))
「あ、あの!」
「その・・・家族は、いらない、です・・・」
((・・・そうですか))
((一人で生活しているお金持ち、探せばもちろんいるでしょう))
((その人間に、あなた人格を、あなた自身の魂を乗り移すことは可能ですが・・・))
((肉体を奪われた魂は、行き場を無くし、浮遊し、さまよう、もしくは消滅してしまうでしょう))
「それは、申し訳ないですね、やめます」
「そうだ!お金を生み出す力とか・・・できますか?」
((可能です))
「!!」
((ですが、もし、その能力が他人に見つかってしまえば、前世よりひどい生活が待っているかもしれません))
「た、たしかに・・・」
((それに、無から有を生み出すということは、世界の理から外れています))
((お金を生み出し続けるのであれば、それ相応の代償が必要でしょう、寿命など))
「な、なるほど・・・」
((ですので、あなたの知識と合わせて提案します))
頭を撫でられたような感覚がした。
((・・・そうですね・・・錬金術はいかがでしょう))
「おぉ、いいかも」
((この力なら、周りの物から道具等を生み出し、お金に替えることもできるでしょう))
「じゃぁ、それに、します!」
目の前の人?がニッコリ笑ったような気がした。
((それとひとつ))
「?」
((家族がいないあなたわ、誰かの子供として産まれることができません))
((しかし、あなたは人間として生きることを希望しているようですね))
「あ、そっか・・・」
((これから行く世界には、精霊と呼ばれる、大地に産み落とされた者達も存在しております))
((ですので、あなたは限りなく人間に近い精霊として産まれる、ということでどうでしょう))
((これならば理を外れることはありません、たぶん))
「はい!それで、お願いします!」
((精霊であれば、ある程度成長した姿で大地に産み落とされることもあります))
((しかし、肉体をもたない精霊とは違い、あなたは肉体をもつ人間))
((そうですね、旅の途中で亡くなった人の体を大地が吸収し、精霊が宿り、再び産み落とされた))
((ということにしましょう))
「・・・大雑把で大丈夫なんですね」
((問題ありません、ありうる話です))
((この世界は、理から外れることがなければ、錬金術も使い方しだい、考え方しだいです))
((次の人生、うまく行くよう願っております))
「ありがとう、ございました」
意識が薄れていくような感覚がした。
目の前が暗くなりかけていた時、ふと思った。
「あ、あの!できれば、かわぃ・・・!」
((・・・!!))
声が届いたのか、届かなかったのか、私は大地から産まれることになった。